はじめに
あなたの会社のことを振り返ってみてください。このような若手社員はいませんか。会社には、一目置くべき何人かの若手社員がいる。ある若手は新しい技術や知識に明るく、別の若手は最近の市場動向をよく理解している。年配社員が思いつかないような面白い発想をする社員もいる。しかし、みんな遠慮がちで、「自分は縁の下の力持ちタイプですから」が口癖である。
彼らは今30歳前後である。組織の閉塞感を打ち破るためにも、彼らに影響力を発揮して欲しい。どんどん周りを巻き込んで、今の組織に新しい風を吹き込んで欲しい。
しかし、肝心の本人にその気がない。なんとかして、「リーダーになりたい」と強く思ってもらいたいものだ。どうすればよいのだろうか…。
あるいは、このような若手社員はいないでしょうか。
あなたの会社には、何人かの優秀な若手社員がいる。難しい仕事も難なくこなし、生産性も非常に高い。しかし、周りの人と仕事の調整をするようなことはせず、自分の仕事結果が後工程でどう使われるのかも気にしない。自分の仕事を全うすることしか、関心がない。
彼らは今30歳前後である。組織を強くするためにも、彼らに影響力を発揮して欲しい。彼らが上に立ち、関係各所と連携しながら仕事を進めるようになってくれたならば。
しかし、肝心の本人にその気がない。なんとかして、「リーダーになりたい」と強く思ってもらいたいものだ。どうすればよいのだろうか…。
リーダーになりたくないという若手社員が増えているといいます。そのような状況では組織の新陳代謝が進まず、徐々に活力が失われてしまいます。どうすれば、このような若手社員にリーダー志向を抱いてもらえるのでしょうか。
1. 若手リーダーの現状と課題
組織の閉塞感に悩んでいる企業は少なくありません。長く働き続ければ、どうしても過去の成功体験や業界の慣習に手足を縛られてしまいます。よほど意識しない限りは逃れ難く、知らず知らずのうちに環境の変化から取り残されることになってしまいます。こうした中で、若手社員の活躍が期待されています。ある経営雑誌ではU-40(40歳未満)リーダーの特集が組まれ、政府系研究機関でも、人工知能研究センター長に41歳の若手研究者が抜擢されました。新しい知識や技術を身につけ、また新しい発想ができる若手社員が中心となって仕事を進めるようになれば、自ずと組織は変わっていきます。組織が進化するには、こうした新陳代謝の連続が必要です。
1-1. 年齢に伴う変化
どころで、なぜ若手のリーダーが求められるのでしょうか。年齢によって、何がどう変わるのでしょうか。「体力」、「記憶力」、「判断力」、「リスク志向」、「創造性」。これらについて、年齢に伴う変化を整理しました。体力
体力は言うまでもないでしょう。スポーツ庁の調査によれば、体力や運動能力は、総じて10歳代後半にピークを迎えるといいます。激務をこなさなければならいリーダーにとって、体力は間違いなく重要な要素です。この点では、若い方に分がありそうです。昨今の日本の大企業で若い社長が誕生することが増えてきましたが、その理由の1つが体力です。例えば2011年にオムロンで40歳代の社長が誕生しましたが、その選考に関わった冨山和彦氏(経営共創基盤代表取締役CEO、オムロン社外取締役)は、「社長は世界中を飛び回らなければならないことが予想され、若さ・体力が求められた」と、体力を理由の1つとして説明しています(注1)。
記憶と判断力
記憶力も体力に似ています。脳科学を専門とする諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀氏によれば、頭の良さは「流動性知能」と「結晶性知能」に分けることができ、計算力や暗記力、集中力などを含む流動性知能は、18~25歳をピークにその後は下降し、40歳を過ぎるとその下落傾向は加速するといいます。
だからといって、年齢とともに頭が悪くなるわけではありません。同氏によれば、知恵や判断力などの結晶性知能は経験とともに蓄積され、60歳まで向上するそうです(注2)。
この点から考えると、従来からの事業を総合的に判断するには積み重ねた年齢(≒経験)がものをいうものの、これまでになかった新しい知識を取り入れたビジネスをリードする場合は、年齢を取り過ぎていることが不利に働くこともあるのでしょう。
リスク志向
コーポレート・ファイナンスが専門の一橋大学教授の中野誠氏によれば、取締役の平均年齢が高まると、リスクテイクをする確率が低くなり、現金を貯め込む傾向が増えるといいます(注3)。若い方が果敢にチャレンジスする傾向にあるようです。もちろん、リスクを取るから良くて、保守的だから悪いということではありません。とはいうものの、不確実性の高いビジネスを進める場合には、リスク志向が欠かせません。
創造性
創造性と年齢の関係を示す有力な先行研究は、あまり存在しないようです。どうやら、「創造性」の定義が難しく、定量調査で必要な尺度を作れないことも影響しているようです。そこでノーベル賞にヒントを求めました。自然科学分野(物理学賞、化学賞、医学・生理学賞)における日本人受賞者を調べると、受賞した年齢はもちろん高齢です。しかし、受賞につながる研究業績は、30~40歳代のものでした(注4)。1973年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏は、創造性は年齢とともに失われていくと主張しています。
こうした特徴を鑑みると、従来からの事業を強力に推し進めていくためには、経験豊かな年配のリーダーが必要ですが、新しい事業を始めたり、事業を抜本的に改革する場合には、より若い社員に活躍の場を与えるべきだといえるでしょう。
1-2. 若手登用に対する社内コンセンサス
このようにいうと、若手社員登用に対する拒否反応を危惧する人もいるかもしれません。日本には年功制という独特の経営スタイルがあります。1990年代になって成果主義が普及し始めたものの、欧米企業に比べた場合は、いまだ色濃く残っているといえます。ずっと順番待ちをしていた40歳代社員から、強い反対が出るかもしれません。しかし、結論を先に申し上げると、心配することはありません。若手社員の早期登用に対するコンセンサスは、得られていると考えられます。
弊社が調査した結果、会社の将来のためには30歳代社員の活躍が重要だと思っている人は6割以上に上り(図表1:上段の左)、そして30歳代前半の若手社員へのリーダー教育投資が早過ぎると感じている人は1割未満でした(図表1:上段の右)。
しかし、別の質問と掛け合わせて分析したところ、その3割の人の半数以上は、「自分よりも明らかに仕事ができる人であれば、自分よりもかなり年下の上司でも嫌な気にならない」と回答していたのです(図表1:下段の右)。つまり多くの人は、若手の登用に抵抗感があるのではなく、能力のない人材の登用に抵抗感を抱くのです。潜在性が高い若手社員にどんどん活躍の場を与えても、周囲の反感を買うようなことは少ないのです。