原氏:その通りです。訴訟や労働審判に比べると、あっせんの場合はその解決金が低額になっています。
今野氏:制度化してあげると、あっせんでも金銭解決の水準が上がるという趣旨なのですね。
原氏:金銭解決制度を応用することによって、あっせんでも金額を上げることが可能になるのではという見解です。
アベノミクス下でのその後の動きを、さらに見ていきます。2015年に厚生労働省が設置した、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が出した報告書の中では、以下の3つの要件を満たした場合、労働者が使用者に対して労働契約解消金の支払いを請求できる権利が発生することを、法律に明記するという案が示されています。
(1)解雇がなされていること
(2)解雇が解雇権の濫用であること
(3)労働者から使用者に対し労働契約解消金の支払いを求めていること
この時の制度設計の特徴は三点あります。第一に、法律で禁止された解雇も制度の対象となること。第二に、労働契約解消金に関しては、労働契約の終了・解消と慰謝料に対応するものとされたこと。そして第三に、労働契約解消金の額について算定時の考慮要素や上限・下限等の設定が適当とされたことです。
この議論においては、他の労働紛争解決システムへの影響も意識されており、非常に注目されます。ところが、その後の動きを見ると、労働契約解消金の算定方法や考慮要素、上限・下限等は、基本的に「政策的に判断すべき」という結論となりました。
今野氏:それはどういう意味ですか?
原氏:有識者会議の中での議論は難しいため、政府として決めてほしいということです。
「解雇の金銭解決」をいかに議論すべきか
原氏:ここからは、「解雇の金銭解決をどう考えるべきか」という話に入っていきます。実は、解雇の金銭解決制度に関してはいくつかの論点があります。重要なのは、金銭解決制度を導入する目的や、導入の正当化根拠は何か、どのような制度を導入するか、誰が利用できるようにするのかといった点です。そもそも、「なぜ金銭解決制度を導入すべきなのか」に関してどのような議論があるかというと、「導入すべき」という立場としては、「救済手段の選択肢の拡大」や「紛争解決システムの透明化」が挙げられます。他方で、「導入すべきでない」という立場としては、「労働審判制度等の存在」を指摘する見解があります。
次に、「解決制度を導入する根拠は何か」という点に関して、学説ではさまざまな議論がありました。また、解決金の額の決定についてもさまざまなアイデアが出されています。
最後に、「今後いかに議論していくべきか」ですが、私自身としては選択肢の拡大という視点から、労働者側のみに申立てを認める形の金銭解決制度の創設が望ましいと考えています。また、具体的な金額の水準を定めることも必要です。もう一点は、解雇ルールの具体化・精緻化です。これは、労働者の保護や使用者の利益にも資すると考えます。