多様化しているいまの世の中には、サクセスファクターが重要だ

池照 これは、EQの考えでもあるんですが、大人も子どもも「主観」を育てないといけないと思っています。「私はどう感じている?」「How do I feel?」という問いを自分に向ける機会は少ないですよね。

稲垣 日本で働く外国人の人達に日本の不思議なところを聞くと、なぜそのルールがあるのかを説明してくれないところだと言います。「それは決まっているから」、「みんなやっているから」と言われる。まさに暗黙知です。欧米人はじめ「I」を大事にする人は、その暗黙知が理解できないのですよね。日本の教育の仕方もそうかもしれません。一生懸命勉強したらいい大学に入れて、いい大学に入ったらいい会社に入れて、いい会社に入ればどんどん給料が上がって幸せになるっていう高度経長期のフレームワークがあったわけです。しかし、今はそれが崩壊しているにも関わらず、子どもの教育はこうあるべきという暗黙知は残ってしまっている。だからニコワーク(R)のアウトプットはみんないい大学に入るという事になってしまう。

池照 子育てでいうと、テストでよい点数をとるとか、いい学校に入るという目標は通過点でしかありません。本来その先にこの子にどんな大人として生きてほしいか、というObjective(目的)があるはずです。プロジェクト主要メンバーである親同士がチームとなりこの目的を共有できていれば、特定の学校に入ることや留学することなどは、通過点としてのアウトプットになります。では、その学校に入るにあたり、“どんな気持ちでそこに向かってほしいか”を考えるのがサクセスファクターとなります。ただ「○○学校に入る」でなく、入るまでにどんな気持ちで日々をすごしたいか、どんな風に時間を使うべきかです。健康を害してまで、または追い詰められた環境でこれを達成させることでよいのか、それを考えなくてはならないと思います。本当は子供の意見をきちんと聞ければよいと思いますが、実は子供はそんなに言語化が上手でない事もあります。その際、私たちができるのが観察力だと思います。子どもの表情を見たり観察したりして、笑顔でいる時間が一番長いのはどこなんだろうとか、何を一番夢中になってやっているのかなっていうのを探すしかないと思うんですよ。
第24話:子育てから気づきを得たサクセスファクターの重要性
稲垣 やはり観察なんですね。観察しないと見えてこない。

池照 企業活動も一緒だと思います。仕事をします、成果を出します、納期を納めますっていうのは、アウトプットじゃないですか。どこの会社もこれはジョブディスクリプションに書いてあります。私は女性活躍推進の支援もしていますが、なぜみんなが管理職になりたがらないかといったら、サクセスファクターがないからです。能力的には、すぐにでも管理職になれる人たちがこれだけ育っているのに管理職に魅力を感じないのは、幸せな感じがしないからです。管理職になるという分かりやすい目標に、そうなるにあたり、どんな気持ちでそこに向かい、管理職になったらどんな風に過ごしたいか、そこをちゃんと本人からも見出すことが大切です。人は数値と分かりやすい目標だけでは説得はされますが納得はしません。そのためにも、今現在管理職についている人達に「何が幸せか?」「何が喜びか?」を聞き出し、伝えていく工夫が必要だと思います。サクセスファクターは言葉を分解すれば、「サクセス=成功」、「ファクター=指標」ですから、自ら描く成功の指標、何をもって成功とするかを描くということです。

稲垣 今は50年前と違ってサクセスファクターが多様化していますからね。

池照 50年前と今で違う事の一つは、幸せの定義が一つじゃなくなったっていうだけの話です。今は50人いたら50通りあるっていうだけだと思うんですよ。カローラに乗って白物家電を買っても幸せだったけど、今はそうじゃない幸せも幸せだとする人達が、50人いたら50通りいるという話で、それだけな気がします。

稲垣 みんな子どもに幸せになってほしいという大きなオブジェクティブがあり、いい大学に入っていい会社にという定量的なアウトプットがあり、そのあとには、なにか幸せがあるんだと思っている。でもそこは人によって捉え方が違うわけですよね。だからちゃんと観察をして、何が好きなのかを知ることが大切ですね。

※ニコワーク(R)はアイズプラス株式会社の商標登録です。

対談を終えて

池照さんは息子さんと本当に仲が良い。親子ではあるが友達のような付き合いで、一人の人として対等に接している。そんな彼女から、子育てはプロジェクトだという言葉を聞いてびっくりした。子育てを仕事のフレームワークで考えることはなんとなく違うと思っていたからだ。しかし、よく考えてみれば日々仕事で真剣に成果を求めているわけで、そこのノウハウは子育てでも活用できるはずだ。ニコワーク(OOST)のフレームワーク、そして特に大事なサクセスファクターについて、私も子育てを考えてみたいと思った。

取材協力:池照佳代さん
法政大学経営大学院卒、株式会社アイズプラス 代表取締役、NPO法人キーパーソン21 理事、NPO IC(インディペンデントコントラクター)協会理事。Mars Japan、Ford Japan、adidas、Pfizer等で人事職を担当後、2006年アイズプラス社を設立。「心豊かに働くをデザインする」をミッションに人事・経営コンサルティング、人事・評価・教育制度や仕組みの設計、人材、組織開発、そして人とビジネスのマッチング業務を提供。特にEQ(感情知性)のトレーナーとして国内外で活動し、日本でのEQトレーナーの育成、ネットワーク化をリードする。その他、複数の理事を務め、キャリアや働き方に関する社会課題解決に関わる。日本初のEQオウンドメディア EQ+LAB.主催。息子はプロウィンドサーファーの池照貫吾氏。
第24話:子育てから気づきを得たサクセスファクターの重要性

著書:感情マネジメント 自分とチームの「気持ち」を知り最高の成果を生みだす

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