「優秀人材」を定義する
あなたの会社の「できる人」はどのような人でしょうか。優秀な人材を採用するには、この「できる人」をきちんと言語化する必要があります。特に日本企業は一人の社員の業務範囲が広くジェネラリストが多いので、「できる人」の定義が「幅広く業務に対応でき、調整ができる人」という意味である場合が多いでしょう。よく採用の失敗例として「あの人、面接ではよかったのに仕事ぜんぜんできないよね」という話を聞くことがあります。そういったときは多くの場合、ジェネラリストを求めていたのに、専門性の高いスペシャリストを採用してしまったことに原因があります。
特に中途採用で、大手企業から採用する際は要注意です。大手企業はその企業でしか通用しないジェネラリストを育てがちです。そのため経験豊富な人材に見えても、自社には合わない可能性があります。いま欲しい人材は「スペシャリスト」なのか「ジェネラリスト」なのか、事前に必ず検討しましょう。
また、近年は転職ブームもあり、中途採用市場はスペシャリストでも玉石混交の状況です。欲しいスキルを保有する人材を見つけたとしても、すぐには飛びつかず、自社にとって重要視する価値観や考え方をもっているかをよく見極めるべきです。
とはいえ、採用は時に妥協も必要です。年収で譲歩する、少し経験は浅いが入社してから育成するなど、どういった点なら妥協できるのか、人事と部門関係者で予め合意形成しておくべきです。
優秀な人材を採用するには、いま本当に必要なのはどのような人材か、自社にとって「できる人」はどんな人かを、関係者間で議論する必要があります。同時に、社内の「優秀な人」にインタビュー調査を行い、共通している特徴を洗い出すことも重要でしょう。
「優秀さ」よりも大切なもの
アメリカの組織心理学者アダム・グラント教授が書いた『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』というベストセラー本があります。この本の中でグラント教授は、人は3種類の特性に分けられることを、調査によって明らかにしました。それは、自分が得るよりも多く人に与える「ギバー」、自分が得ることだけを中心に考える「テイカー」、得ることと与えることのバランスをとる「マッチャ―」です。みなさんの中でもご存知の方が多いでしょう。諸先輩方ほどではないですが、私も長年、人事の仕事をしてきて、この「ギバー」、「マッチャ―」、「テイカー」の特性が実際に存在していることをひしひしと感じています。
表面的に非常に優秀な人材でも、入社すると問題を起こすことがあります。とても難しいのが、「テイカー」気質のある人材を見分けることです。「テイカー」気質の人材は、部下や同僚を犠牲にしながら、上司に媚びてどんどん出世していきます。非常にうまい「テイカー」は、部下の「ギバー」気質を利用して、夜遅くまで働かせて業績を上げていくのです。結果的に、出世した「テイカー」はパワハラなどの問題を起こして処分されます。このように、部下は「テイカー」の上司に、そして最終的には組織そのものが疲弊してしまうのです。私も人事関係者として、何度かこのような場面を見てきました。
また、「マッチャ―」の特性が強すぎる人材にも要注意です。「マッチャ―」の基本的行動は「お返しをする」です。「ギバー」に対しては与えられたことにお返しをしますが、「テイカー」に対しては仕返しをします。ドラマの『半沢直樹』で「やられたらやり返す」という言葉がありますが、これは典型的な「マッチャー」の考え方です。
残る「ギバー」は、自ら進んで人の役に立とうとします。「テイカー」を排除し、「マッチャー」と「ギバー」のみの職場にすれば、与えることとお返しをすることのバランスがとれ、組織がうまくいく可能性をグラント教授は示しています。
この「ギブ・アンド・テイク」の考え方が全てとは言いませんが、人事担当者は勘と経験だけでなく、こうした心理学研究に基づいた、科学的に人材を見極めるフレームをもっておくべきです。
優秀な人材を採用する際は「能力やスキルが優秀だからOK」ではなく、中長期的に問題を起こす可能性がないかを見極めるべきです。そこで次回は、面接で人材を見極める方法について、実践的な内容を解説します。
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