ダイバーシティ推進はまだこれから

昨年12月、経済産業省(経産省)は「ダイバーシティ2.0 一歩先の経営戦略へ」を発表しました。女性活躍推進が一定の成果を見せ、一服感を迎えたいま、経営上の取り組みとしてさらに“多様性”を企業価値の向上につなげるべく発展させることを提唱しています。ダイバーシティ「ブーム」が一巡したところで、「ブーム」で終わらせないようにすることが狙いなのでしょう。

前述のように、実際に大企業では、ダイバーシティに関する声は以前より聞かれなくなりました。かわりに「働き方改革」や「デジタル化」の取り組みが増えているように感じます。

とにかく大手企業の人事部は流行に乗ることが好きです。流行りのテーマに率先して取り組めば、PR効果も高く、採用や株価に有利に働くからです。また、担当者が自分の仕事をつくるために、ブームを利用している面も少なからずあります。そういった点でも、ダイバーシティ「ブーム」はひと段落しています。

しかし企業としての取り組みが終わったわけではありません。日本のダイバーシティ推進は、まだまだこれからなのです。

本当のダイバーシティは「物事の見方」を変えること

2010年代は、女性や障害者、外国人活用などの「目に見える」ダイバーシティ推進が中心でした。そして2020年代は、「目に見えない」内面のダイバーシティ化が進むと考えられます。特に、これまでの日本的な考え方を改める動きが出てくるでしょう。

最近、私の身近でもこんな出来事がありました。あるアジア系外国籍社員があごに髭をたくわえて出社したところ、上司から怒られたというのです。一方で欧米系の社員は髭をはやしていても、怒られることがありません。

たしかに、日本人の感覚として「通常であれば髭はマナー違反だが、欧米人にとっては一般的だからOK」だというイメージがあります。こうした無意識の思い込みや、疑問さえ抱くことのない当たり前の常識を疑うことがダイバーシティの推進には不可欠です。

また別の出来事として、子どもを置いて長期出張に出る女性社員に対して、男性上司が「ママが出張に出るのは、子どもが寂しがるよね」と声をかけたことがありました。その発言の前提には、「子どもには母親が必要」という無意識の考え方があります。彼は悪気があってこのような発言をしたわけではありません。ただ単に、今までの社会的背景や学校教育がその前提を形作ってきただけなのです。

このように、たとえ外国人や女性、障害者の活用を推進したとしても、マジョリティである男性日本人や社会全体の物事の捉え方が変わらなければ、せっかくの多様性が融合することはないでしょう。無意識の前提や物事の見方を変える「とらえなおし」こそが、これからのダイバーシティの推進に重要な取り組みになっていくと考えられます。

2020年代、日本企業はこれまでの旧社会的な考え方を見つめ直し、新たな考え方を構築することができるのでしょうか。私自身も内面のダイバーシティ推進に取り組んでいきたいと思います。

【参考】
経済産業省:ダイバーシティ2.0 一歩先の経営戦略へ(PDF)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/diversitykyousousenryaku.pdf
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