会社や社員を巻き込むために行っていることとは?
――「One Benesse」という名前には社名が入っていますが、会社からの承認はどのようにして取られたのでしょうか?佐藤 社内だけで活動していた当初は、ネーミングの承認は得ていませんでした。ですが、社外に名前を出すにあたってはさすがに必要だろうと、社内各部署へ相談をしましたが、いずれも一存で判断できないとのことで、残る手段は、社長に直接交渉するしかないと……。
そしてあるとき、社長が全社員に対して不定期に送信するメールに対し、「『One Benesse』という活動をしています。ボトムの声を聞いてください」と手に汗をかきながら返信しました。すると、数日後に秘書の方から「社長がお会いになられます」と返事が来たんです。そこで実際に対面し、自分たちの課題感と活動について伝えたところ、「活動の目的や内容はわかった。素晴らしい取り組みだと思うので協力する」と言っていただきました。
そこからは社長のトップダウンで話がどんどん進み、社内でも各部署とスムーズに連携をとることができました。
佐藤 創設メンバーの4名は、当時、商品開発の私をはじめ、新規事業開発、人財、経営戦略と、部署がバラバラだったため、それぞれが声をかけることで自然と社内全体に広がっていきました。また内定者とコミュニケーションを取る企画や新入社員の歓迎会を行うなど、新しい人がどんどん入ってくる仕組みを作ったり、「アート思考」「ブロックチェーン」など仕事の中では学べないような旬のテーマの勉強会を開いたりすることで、地道に参加者を集めています。
並木 運営メンバーに関しては、例えば勉強会を開催すると、必ず「自分も変える側に行きたい」、「何か協力したい」と思ってくれる参加者がいるんです。しかし、そのままでは顕在化しない。そこで、イベントの後に毎回アンケートを発信する際「運営に関わってみたいですか?」と質問して、「はい」と答えた人には必ず連絡するようにしています。他にも、イベントの懇親会で興味を示してくれた方や、他にやりたい事を話してくれる方、また、興味を持ってくれそうな方を追って紹介してくださる方もいます。このように興味がある人との接点を絶やさないことが、「One Benesse」が成り立っている理由の一つだと思います。
須藤 ベネッセの社風として、何かの役に立ちたいと思っている社員が多いのは事実だと思います。真に人のために役に立ちたいと考えている社員が多いです。だからメンターの企画でも、若手のために「メンターをやりたい」という希望者は比較的すぐに集まります。
“つながる”、“まなぶ”、“とがる”をバランスよく回す
──ではここで、「One Benesse」の具体的な取り組み内容についてお聞かせください。並木 先ほど申し上げた通り、企業理念である「よく生きる」を実現するために、One Benesseでは“つながる”、“まなぶ”、“とがる”を体現する活動を行っています。
“つながる”では、ワークショップや懇親会、アルムナイ交流会、メンター企画などを実施。組織の枠組みを超えた交流を図っています。“まなぶ”では、役員の方やゲストの方を招いて講演会や勉強会などを開催。さらに若手育成を目的とした企業内アカデミア「Benesse University」は、社内提案の機会にOne Benesseメンバーで提案した内容がもとになっているなど、さまざまな学びの場を提供しています。そして“とがる”では、特定のテーマで集まり、分科会を実施。企画の提案・実践を通じ、またそこから新たな学びや繋がりを生み出していきます。
──「One Benesse」の活動がここまで広がり、また続いてきた理由は何だと思いますか?
佐藤 有志活動というと、サークルのようなイメージを持たれがちなため、つながることに偏らないよう心掛けてきました。交流会ばかりやらずに、きちんと学習する機会や行動する機会も設けることで、“つながる”、“まなぶ”、“とがる”をバランスよく回していくことが重要です。
さらにもう一つ、キーワードとなるのが、“フラッグ&バンドル”です。例えば、「ブロックチェーンの勉強会を開催するので、興味のある方は参加してください!」「自分の経験を活かして何かをやってみたい方、集まれ!」というように、旗を1本1本立てて、そこに集まった同じようなベクトルの人たちをバンドルする、といったことをずっと繰り返してきました。こうすることで、課題感を持っている人、企画を提案したい人、勉強会に参加したい人、あるいは勉強会を開きたい人、社外のコミュニティに参加したい人など、多様な人たちが集まります。
そして、そういう人たちが自由に入ったり抜けたりすることを許容することで、自然とサークルができては、波紋のように静まって、またサークルができては、波紋のように静まって……という循環を繰り返すなかで、集まりが大きくなっていくのです。また、旗を立てる側になりたい人も歓迎、応援していくことで多様化が進みます。
One Benesseメンバーは、その旗を立てようとする方に対して、人が集まりやすいメッセージングや発信方法など過去のノウハウを提供することでうまく旗が立つように支援すると同時に、サークルの境界にいる方や中心に入りたい方を見つけてはその背中を押して、運営側に参加してもらえるように束ねていく、コーディネーター的な役割を担っています。One Benesseでは役職や役割を固定していないのですが、それも参加の広がりが出ている理由かもしれません。
──“つながる”、“まなぶ”、“とがる”という3つの活動がある一方で、HR軸と新規事業軸という2本の柱にも分けて考えているそうですね。例えば「Benesse University」は、どちらに当てはまるのでしょうか?
佐藤 「Benesse University」は両軸を想定して企画したものですが、最終的にはHR軸に該当すると思います。オープン講座と選抜コースの2種類があり、選抜コースはベネッセグループ入社10年目くらいの約20名が、自分の取り組むテーマを立てて取締役に企画を提案する内容です。現在は、人財部の担当者が推進しており、One Benesseメンバーは直接関わっていません。一方、新規事業軸としては、教育分野やそれ以外の分野で昨今話題になっているテーマに関する勉強会や新規事業につながると考える勉強会や社外連携を実施するなど、分科会の開催が中心です。
──メンター企画は、新入社員が対象なのでしょうか? また人財部と共同で取り組んでいる部分はあるのでしょうか?
須藤 対象は新入社員がメインで、ほぼ1年間メンター活動をする仕組みにしています。お互いの関係性がよければ、そこから先の継続は自由です。また人財部との連携については、実施することは伝えていますが、内容としては完全に切り離しています。人財部が絡んでしまうと、メンティーも本音で話ができなくなる可能性があるため、誰が参加しているのか、そこでどんな話がされているのか、人財部にはいっさい伝えません。
会社のタテの関係の中で感情的なトラブルなどがあったときに、そうした悩みを吸収する場所は不可欠ですが、私たちは、まさにメンティーのそのひと(人格)そのものを吸収する場所の一つを用意することを大事にしています。会社の組織から切り離されたコミュニティだからこそ、本物の相談ができると思っています。