新卒採用において、企業は決して「強者」ではない
続いて【優秀作品】の2作を紹介します。優秀層 演技もうまいよ また辞退 (東京都 ローランドさん)
インターンシップを口実にして、年々早くなっている採用活動。早い時期のインターンシップに参加する学生ほど、就職意識が高いだけでなく、業界や仕事内容をよく調べ、さらには自分のキャリアについてもよく考えている、いわゆる「優秀層」と呼ばれる学生の割合が多いと言われています。そのため、早期に就職対象企業として学生に認知してもらうべく、早くから実質的な採用活動を展開する企業が年々増えているのです。
いくら世間では「売り手市場」と言われていても、就職活動が初めての学生にとって、就活を始めたばかりのころは「売り手市場」の実感などありません。不安でしかありません。そんな段階で初めて出た内定には心から喜びます。この瞬間は演技でも何でもありません。ただ、就活が進むにつれ、面接にも慣れ、複数の企業から内定がもらえるようになると話は別です。特に「優秀層」と呼ばれる学生には次々と内定が出始めます。本命の結果が出るまで、演技をする余裕も出てきます。
しかし、内定をいくつ取ろうが入社できるのは1社だけです。仮に10社から内定をもらったとすると、うち9社は断ることになります。裏を返せば、その1人の学生の裏で、9社の人事担当者がこの川柳のように思っているということです。
選考を されているのは 会社側 (福岡県 とんさん)
新卒学生の就職活動というと、選考を受ける学生側が「弱者」で、応募者の合否を決める企業側が「強者」であると一般的には思われがちです。ただ、実際には必ずしもそんなに単純なものではありません。
リクルートワークス研究所が毎年発表している大卒求人倍率によれば、2020年卒の求人倍率は全体でも1.83倍と高水準が続いており、さらに300人未満の中小企業に限れば8.62倍(2019年卒は9.91倍)にもなります。業種別で見ると、「流通業」に至っては11.04倍(2019年卒は12.57倍)というとてつもない倍率です。1人の学生を11社が奪い合っているということになります。選考されているのは、もはや「学生」ではなく、まさしく「企業」のほうだと言えます。
面接は、企業が自社にふさわしい学生かどうかを選別する場であると同時に、学生が企業を品定めする場でもあります。現実は、多くの企業で後者のウエートのほうが高くなっていると言えます。そのため、面接でも自社の魅力をアピールし、少しでも志望度を上げてもらおうと人事担当者は躍起になっているのです。
今話題の内定辞退率AIも登場
次に、【佳作】の中から抜粋して3作を紹介します。売り手だの 採用難だの 嘆くより 一つの出会いに 感謝するべし (東京都 社長アイランドさん)
企業の採用意欲は依然として高止まりしており、2020年卒採用も学生側の売り手市場が続いています。就活ルールの廃止も相まって、実施的な選考スケジュールも前年とは異なり、企業にとっては非常に厳しく、採用難の状況はまだまだ続きます。
ただ、だからといって「採用は大変だ」とネガティブな発言ばかりしていても仕方ありません。こんな時代だからこそ、学生にとっても、企業にとっても採用は奇跡であり、その一つ一つの出会いを探して旅をしているようなものだと作者は言っています。「そんな人事の仕事にやりがいを感じています」とも。就活生も、ほかの人事の方も、ぜひこんな風に考えてみてはいかがでしょうか。何十万分の1人の学生と、何百万分の1社の企業が巡り合うわけです。まさに「採用は奇跡」の積み重ねです。
AIが 辞退の予兆も レコメンド (石川県 レイレイさん)
先日、リクルートキャリアが、「リクナビ」上での就活生の行動履歴(閲覧ログ)を収集、AIで分析し、応募者ごとの選考や内定の辞退率などのデータを企業に販売していたとの報道がありました。同社は、利用規約などで本人の同意は得ていたと主張するも、政府の個人情報保護委員会が、「学生の個人情報がどのように企業に提供されていくのか、本人へのサービスの説明が不明瞭」と指摘していたというもので、2018年3月以降、大手企業を中心に38社に販売していましたが、7月末でサービスを一時停止、8月4日には廃止にしたようです。
作者が同社のサービスを知っていたかどうかは分かりませんが、AIによる辞退予兆は、既に現実のものになっているのです。内定辞退予測は、採用担当者からすれば喉から手が出るほど欲しいデータであることは間違いありません。前述のとおり、大卒者の求人倍率が1.83倍という高水準が続く中、学生1人当たりの内定社数は6月末で2.2社(マイナビ調べ)に達しています。2019年卒業学生の卒業時点での内定辞退率(就職内定辞退人数÷就職内定取得人数)は67.8%(リクルートキャリア・就職みらい研究所)と、3人に2人は内定を辞退した経験を持つというデータもあります。辞退率が高いと分かっていれば内定を出さないこともあるでしょうし、内定を出した後であれば、内定辞退を回避すべく、あの手この手で内定者フォローを尽くすこともできるでしょう。数年前までは「未来の話」とされていたことが、どんどん現実のものになってきています。
会う人は だいたいみんな バイトリーダー (千葉県 トンマージさん)
面接で、サークルや部活動のことを聞くと「副部長をしています」、アルバイトのことを聞くと「バイトリーダーをしています」と話す学生がやたら多くいます。ところで、バイトリーダーがいる職場ってそんなにあるものでしょうか。仮にあるとして、一つの職場に何人のバイトリーダーがいるものでしょうか。
サークルでも、アルバイトでも、ボランティアであっても、面接では役職を聞いているわけではありません。組織やチームの中で、その学生はどのような考え方をし、どのような行動をし、その結果についてどう捉えたのか、そしてそれを次にどう生かそうと考えたのかなど、思考や行動パターンを聞きたいのです。「リーダー」の名称はまったく必要ありません。表向きの肩書きではなく、何かがあったときの考え方や行動から、「リーダー」たる素養があるかどうかは推測できるものです。ぜひ、学生にはそんな話をしてほしいものです。