50代のイノベーターへの期待

では、50代で期待されることは具体的にはどのようなものだろうか。ある企業の例を挙げて考えてみよう。

産業用冷却・冷凍システムで世界最大手の前川製作所には、実質的な定年がなく、社員の最高齢は80代だという。同社では、55歳までを「動の時代」、それ以降を「静の時代」と位置づけている。動の時代は「ビジネス拡大」がメインだが、静の時代では「イノベーション」が主な役割になる。

動の時代は、世界中のビジネスの最前線でがんばるが、そこで得た知識をそのままにして60歳前後で退職してしまうのではなく、55歳からは動の時代にはできなかった深い仕事(新たな技術や設備開発、事業モデルのイノベーション、顧客を広げる用途開発のイノベーションなど)を担当する。動の時代に蓄積した大きな知の資産を原資にして、イノベーションを起こすために、定年なしで働いてもらうというのが、同社の理念なのだ。

これが50代への期待の本質であり、80歳までを見通したときのキャリアの鍵である。40代までに広げた知を、50代は大きなイノベーションのために使うこと。動から静に価値観を転換して、シニアにふさわしい居場所をつくるのだ。

50代のイノベーターへの期待は、前川製作所のような自社の商品・サービスを改革するだけではない。40代までに培った専門性を活かして、全く異なる分野でイノベーションを起こす選択もあるだろう。たとえば、既存の産業構造に風穴を開けるようなベンチャーを始める、中堅中小企業のグローバル化や事業承継・事業革新を手伝う、世界の貧困や健康問題などの社会課題を解決するNPO/NGOに身を投じる…など、イノベーションはさまざまな分野で必要とされている。

また、経営者であれば、自社のこれまでの土俵での成長戦略(動)を超えて、社会課題解決のために既存の産業の枠を超えた新規ビジネスをプロデュースしたり、SDGsに果敢に挑戦したり、といったゲームチェンジ(静)もあるだろう。これらはみな、自分史のInternalizationから生まれてくる決意を土台にした飛躍と言える。

ライフシフトを開始する50代

50代こそ熱くなれるのである。このような新しいことへの挑戦の背後にあるのは、自分自身のライフイノベーションではないだろうか。既存の組織の中でのキャリアをはみ出し、もっといい社会をつくろうと、より広い舞台を相手に腕を振るいたくなってしまうのである。それゆえ50歳代は、40代までの豊かな経験を土台にした人生100年、80歳現役の「ライフシフト」の出発点でもあるのだ。

次回は、50代のInternalizationをライフシフトの視点で眺めてみます。
  • 1
  • 2

この記事にリアクションをお願いします!