今回は、1周目のExternalizationである30代について紹介してみよう。
自分の実践知の流儀を見つける30代
暗黙知から形式知への転換が特に重要になってくるのが30代だ。現場で下積みを重ねる20代はすべてが新鮮で、そのエッセンスを吸収して暗黙知をたっぷりと蓄える。そして、その後に訪れる30代では、気力・体力・知力の三拍子が揃った、怖いもの知らずの時期だ。古い秩序を壊し、新しいことに挑戦し、新しい伝統を築く。そんな気概に燃える時期でもある。いわば、ビジネスパーソンの黄金期と言えるだろう。一般的には課長などの役職に就く前なので、数字的な責任を負うこともなく、オフも充実させやすい。
そんな、キャリアの絶頂期である30代は、何のためにあるのだろうか。20代の時の暗黙知の蓄積があれば自信を持って動けるのは確かだが、本当にそれだけでいいのだろうか。
そこで、30代では知のスパイラルアップという視点を持つ必要がある。漫然と暗黙知を溜めこみ、それを土台に新しいことに挑戦するだけでは、「自分の知」が定着しているかどうかはわからない。一度、暗黙知を形式知化して自分の血肉とするためには、自分の中の暗黙知について「いったい何だったのか」と振り返ることが必要である。そうすることによって、初めて自分を客観的に見直し、仕事を再定義するチャンスに恵まれ、知の質を高め、ステップアップすることができるのだ。
たとえば、人事の仕事で考えてみよう。20代でがむしゃらにがんばると、さまざまなコツ(暗黙知)を身につけて現場から頼られるようになる。本人としても嬉しく、やりがいもある。しかし、現状の仕事にどれだけ精通しても新たな人事のコンセプトは生まれないし、経営陣に新しい戦略を提言することもできない。ただ単に「現場通の人事労務担当者」になってしまうばかりで、イノベーターシップは身につけられない。
だからこそ、20代は暗黙知を形式知にするための「ネタ」として位置づけることが必要なのだ。最終的に目指すのは、イノベーターシップの習得である。「新しい人事の創造」「次の時代の人事とは」という新たな知の創造のために、現場での経験を生かすのであって、現場での暗黙知の吸収にいそしみ、現場作業のプロになることが目的ではないはずだ。
「いったい自分は何をやりたいのか」「どういう組織や風土をつくっていきたいのか」「どういうイノベーションに向けて組織を構築したいのか」、ひいては「自社はどのように未来の社会創造に貢献すべきなのか」――。こういったことを考えながら、自分の仕事の理論、流儀、哲学を抽出=形式知化する。これが、Eのキャリアの真骨頂である。
暗黙知に安住することなく、未来の視点でこれまでの自分の価値を再構築し、「知の再武装」をすることができなければ、新たな時代づくりに参画するイノベーターシップを持ったプロとしては羽ばたくことはできない。暗黙知に安住する人は、課長になる時期、つまり40歳前後で必ず失速してしまう。20代の時に溜めこんだ暗黙知が陳腐化し、自分の実力であると考えていたものが、シロアリに食われた土台のようにボロボロになってしまっているからだ。
こうした事態を避け、自分の知を形式知化し、プロとしてのコンセプトをつくるためにはどうしたらいいのだろうか。やはり、自分の知をあぶり出して客観視する場をつくる必要がある。部門間異動や海外出向、他社とのプロジェクトなどの体験は大いに役に立つだろう。これは、今までの暗黙知がそのままでは使えない状況になるからだ。好むと好まざるとにかかわらず、それまでの知識を一度整理せざるを得ない環境に身を置くことになる。
また、MBA(経営学修士)で経営理論を学んだり、他社の友人と議論したり、論文を書くことも、自分を見つめ直して自分の価値を表出化させるためには有効だ。筆者自身も、英国に留学して修士論文をまとめたことが、自分の中で大きな転機になっている。
企業内であっても、教育部門での教育企画の経験、マーケティングのように社会や顧客との接点が多くデータを分析する業務など、コンセプトを大事にする部署での経験は役に立つ。
このように、30代には自分の生き方の中に「Externalization」を行いやすい環境はある。あとは、いかにしてそこに自分自身を放り込むかだ。自分のキャリアは自分で築くわけだが、それをこのSECIに従った知の文脈づくりの観点に立って行うことで、将来必ず花開くものとなる。
次回は、40代のCombinationの視点からライフシフトを眺めてみます。
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