Vol.02

NEXT HR キーパーソン特別インタビュー

「雇用」の概念がなくなる!?
働き方の変化が企業や人事の在り方を変える(後編)

学習院大学 経済学部 守島基博教授
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

雇用の流動性・多様性が加速している。副業やパラレルキャリアといった言葉がクローズアップされ、一つの企業に勤め、キャリアを積んでいくこれまでの「日本の働き方」が大きな転換期を迎えつつある。ビジネス環境もまた、めまぐるしく変化し、人材を確保し、生産性を維持・向上させていくことが喫緊の経営課題となっている企業も少なくない。こうした変革期において、求められる人事部門の役割・価値とは何なのか。

前回は従来型の雇用概念がなくなるとの見解から、働く人や人事部門の変容予測についてお話いただいた。後編は人事部門、人事パーソンは何をしなければならないのか掘り下げていく。

人事部門はどう変わらなければならないのか?

寺澤最近HRテックの重要性が叫ばれています。

守島人事は昔から情報戦をやってきました。昔優れた人事部長はいろんな社員の情報を知っていて、なんでそこまで知っているのかと思われるくらい情報を持っていました。例えばAさんはこういうキャリアを持って、こういう風に生きてきて、今こういう状態にいるからそろそろ異動させてやらなければならない、といったような適材適所の人材配置や社員の成長支援、職場の活性化に貢献してきました。しかしグローバルになって広がりが大きくなり、また分散的に働くようになると、そういった貢献の仕方が非常に難しい。DBを使って情報をきちんとマネジメントし、意思決定に繋がるレベルの情報を駆使して、企業価値貢献に寄与できる意志決定を行っていける人事にならなければなりません。

例えばブラジルの支社長が必要だったとします。その後任としてベルギーで××事業部の○○をやっているAさんがいいですよと東京本社の人事トップが提案できるかどうか。最終的に決めるのは事業のトップですが、そういう提案ができる情報の粒度が意思決定できるレベルにまで落とし込まれていかなければなりません。そのためには引き続き足で稼ぐ行動力に支えられた情報力が必要です。

テクノロジーという「ハード」を何にするか、どうするかといったものは問題ではありません。その中に入っている情報を人材調達・確保する時の意思決定材料としていくためにデータそのものと使い方の質をどう高めていくかが人事部門にとって最も重要なことです。

例えばある人がこの仕事のために必要なスキルが何で、それをもっているか、なければ学習する可能性はあるかというレベルだけではなく、その人がこの仕事に就いたとき、EQやメンタリティは適切なのかといったことまで踏み込んで情報を獲得し、DBやテクノロジーのなかに入力し、意思決定できるレベルにまでしていけるかどうかが、人事部門に問われるのではないかと思います。別の言い方をすれば、人員の配置は最後は人柄ですから、そこまでの情報が得られているかです。

寺澤そういった人事部門になるためにはどう変わらなければならないのでしょうか?

守島これからは仕事面のケアテイカー(守護神)は事業部のトップで、人事部門は人的資源のケアテイカーになっていくと思っています。こういう人材が居る、こういう人材を成長支援することが会社にとって必要だ、こういう人材のモチベーションを上げたいといった面で経営や現場トップにドンドン提案し行動していく存在です。人事部は人のスペシャリスト、人間のスペシャリストで、ビジネスのスペシャリストは事業部のトップが担う。人事の人事たる所以は人の側面に関して、どれだけ人間を理解しているのか、どういう人材が(社内に)いるのかをわかっていることだと思います。そういう意味では日本企業の人事部は昔から人をしっかり見てきた。その特徴にもう一度フォーカスしてそうした強みを活かしていくことが求められます。また、そうした強みに基づいて、ビジネスと人をマッチングしていく、主体的なリーダーシップも必要です。

寺澤昨今グローバルで見た時にマネジメント層がメンバーシップ型社員とジョブ型社員を区分けしてマネジメントしている傾向があると思いますが、これからどうなるのでしょうか。

守島先進国での大きなトレンドとして、エリートとノンエリートを区分けしなくなってきています。選抜される人、されない人の概念もなくってきています。なぜなら基本的には全世界的に人材不足だからです。よって全員を人材(財)として考えていくことの方が企業貢献に繋がっていきます。

全ての人材を同じくくりとして、今こういうビジネスがあるから、それにベストな人はこういう人である、というようなマッチングをしていく。また現状のマッチングだけではなく、将来の社会やビジネスはこうなっていく、だから、いつまでにこの人にどう成長してもらうか、といったところまで考えておくことが人事部に求められるようになってきます。

学習院大学 経済学部経営学科 教授
守島 基博 氏

86年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得後、カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部Assistant Professor。慶應義塾大学総合政策学部助教授、同大大学院経営管理研究科助教授・教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職。厚生労働省労働政策審議会委員などを兼任。著書に『人材マネジメント入門』、『人材の複雑方程式』(共に日本経済新聞出版社)、『人事と法の対話』(有斐閣)などがある。