神戸大学大学院経営学研究科 准教授 服部 泰宏氏
ProFuture株式会社 代表取締役社長 寺澤康介
早期化、インターンシップの活用、短期決戦…と、さまざまキーワードが飛び交い、学生有利の売り手市場が続く新卒採用。近年は学生側・企業側の双方において、意識や手法の変化が見られ、採用市場に大きな地殻変動が起こっている。果たしてこの先、新卒採用の未来はどのように変わっていくのか。「採用学」の第一人者である神戸大学大学院の服部泰宏准教授と、毎年新卒採用動向調査を行うHR総研所長の寺澤康介が語り合う。
本日は服部先生とともに、新卒採用の現状と今後の展望について、最近の特徴的な動きやトレンドなども織り交ぜながらお話をしていきたいと思います。まずは学生側、企業側、双方の観点から、この数年どのような変化が起こっているのかをお聞かせください。
まず学生側に関しては、ある種の“就職活動慣れ”というものが起こっています。かつての学生と比べると事前情報が格段に増え、とりあえず片っ端からエントリーするということではなく、去年の先輩たちの傾向や自分の置かれている立場から、賢く冷静に判断する人が増えてきました。背景としては、ここ数年で大学が就職情報の発信に、より注力するようになったことや、今の世代がキャリア教育の影響で早い段階から自分のキャリア設計をしっかり立てるようになったことなどが挙げられるでしょう。
またそうしたことから、就職に強いゼミを選んだり、就職に繋がるアルバイトをしたり、留学で知見を広げるなど、彼らの大学4年間の過ごし方自体も就職を強く意識したものへと変わりつつあります。
昔はとりあえずエントリーして、そこから取捨選択していたのが、現在は学生側が多くの情報を持っているので、就職先の選択肢が最初から絞り込まれているというわけですね。そうなると、職業選びや企業選びの基準はどう変わってきていますか。
はい。彼らの企業選びにおいては、最初の数年間、特に20代のうちにどこで働くかが非常に重要なファクターになっています。というのも、実は最近の若者は安定志向になっているという調査結果があるのですが、ここで言う安定とは、昔ながらの「安定した組織に入って揺るぎない人生を送りたい」という意味ではなく、「会社は、いつどうなるか分からないから、早いうちに経験やスキルを積んでおきたい」という意味合いが強いです。つまり20代のうちにいろいろなことを提供してくれる会社を、学生たちは優先して選ぶ傾向にあると言えるでしょう。
その会社に入ることで、いかに自分自身の市場価値が高められるか。逆に言えば、その会社でしか通用しないような状態になることを学生たちは潜在的に避けているのでしょうね。
では、一方の企業側にはどのような変化が起こっているとお考えですか。
企業側の大きなトレンドとしては、入口の複数化・多様化が挙げられると思います。これは従来のように一括採用し、後から振り分けるということではなく、例えばリーダーシップ人材、地頭人材、体育会系人材といった具合に、最初からタイプ分けをして、それぞれに入口を設け、できるだけ多様な人材を採ろうとする動きです。
このように意図的に多様な人材を採用している企業には、大きく分けて2つのタイプがあります。1つ目は、IT系を筆頭に急成長をしている企業。こうした企業は、単に有名大学を出た成績優秀者だけではなく、アイデアや閃きを発揮できる人材など、いろいろなタイプを採ることによって、大きなケミストリーを求めています。
そして2つ目は、業界全体に曇りが見えるなど、何かしら閉塞感を抱えている伝統的な日本企業。こうした企業は、起爆剤として新しいタイプの人材を積極的に取り込もうとしています。要するに大きく成長している企業と、成長が止まる危機感を持っている企業の2タイプが、人材の多様化を推し進めているのです。
昨今はテクノロジーがますます進化して、採用の手法自体も多様化しています。つまりいろいろなタイプの人材を採用しようと思えば、テクノロジーの活用次第で、いくらでも可能になってきているわけです。ところが、何かしら問題意識や危機感を持っている企業ほど、そういった取り組みに熱心で、一方そうではない企業がいまだに従来の画一的な採用手法を続け、他からどんどん遅れを取っています。そういう企業こそ危機感を持たないといけないですね。
新しい採用の取り組みに積極的か否かは、経営者のコミットに左右されると思います。実際にアンケートを取って統計的に調べてみると、良い人材が採れたレベルと、経営者のコミットのレベルは確実に相関関係にあります。しかし企業の採用担当者と会話をしてみると、彼ら自身は問題意識や危機感を持っているが、経営者をどうやって説得するか悩んでいる方が非常に多いのです。つまり採用を経営課題として捉え、思い切って若い人たちに任せようという覚悟を持った経営者はまだまだ少ないのが実態でしょう。経営者が説明会に出てくることが採用にコミットしていることにはなりません。現場が思い切ったことができる予算をつけたり、現場に対する十分な権限を与えるなど、経営者のコミットの仕方はいろいろあると思います。
A4 | 9/19(水)14:10 - 15:20 | 最新データから採用学が読み解く、日本の新卒採用の現在と未来予測 |
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神奈川県生まれ。国立大学法人滋賀大学専任講師、同准教授、国立大学法人横浜国立大学准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業における組織と個人の関わりあいや、ビジネスパーソンの学びと知識の普及に関する研究、人材の採用や評価、育成に関する研究に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞、 2014年に人材育成学会論文賞などを受賞。