株式会社ギブリー 執行役員 山根 淳平氏
<インタビュアー>ProFuture株式会社 代表取締役社長 寺澤康介
近年、AIやロボット、ビッグデータの活用など新しいテクノロジーが幅広い業界のビジネスに入り込んでくる中で、エンジニア不足は企業の深刻な問題になっている。今、政府が小・中・高校でのプログラミング教育の必修化を進めているのも、IT人材の育成こそ今後の国家的課題だと捉えているからだろう。しかし、エンジニア不足は、単に「量」だけが満たされれば解決するわけではない。 今回は、エンジニアの「質」「スキル」を見極めることを可能にするプログラミングスキルチェックツール「track(トラック)」を提供する株式会社ギブリーの山根淳平氏に、技術の進化が早く、エンジニアの「質」が生産性や業績を大きく左右してしまう最近の状況や、企業のエンジニア採用の課題と対応策などについてお話を伺った。
御社では企業のエンジニア採用を支援するソリューションを提供されていますが、今後のエンジニア不足の状況について、どのようにご覧になっていますか。
経済産業省の推計によれば、2030年にはIT人材が最大約80万人不足することが予想されています。ただ、私たちは、その中で、量的な解決策は様々取り組みとして出て来ているものの、質的な解決策に対する議論はあまり多くされていないのが現状です。
量より質の問題に注目すべきだということですね。今後、エンジニアにはどのような質が求められてくるのでしょうか。
今は、技術の進化が非常に早い時代です。例えば、10年前と現在では、企業がエンジニアに求める技術が大きく変わっています。10年前はITデバイスのメインはPCで、Windowsのアプリケーションを作るための技術を使えるエンジニアが重宝されました。しかし、現在は誰もがスマートフォンを持つ時代になり、iOSやAndroidのアプリケーションを作るための言語を使えるエンジニアが引く手あまたです。さらに、データ分析やデータサイエンス寄りの技術で使われる言語が出てきて、これを使えるエンジニアも争奪戦になっています。つまり、常に学び、新しい技術をどんどんキャッチアップできる能力を持つエンジニアでなければ、技術のトレンドが変わり、会社の事業も変わっていく中で、活躍し続けることが難しくなるのです。この学び続ける能力を私たちは成長のメタスキルと呼んでおり、今後、非常に重要になってくると考えています。
今その企業で使われている技術やツールに長けているというだけで採用すると、本人の成長のメタスキルが足りない場合、その技術が古びたときに会社に貢献できない可能性があるわけですね。
将来、既存の事業を継続する中で新しい技術が必要になり、また新しく出てきた技術を活用して事業を創っていこうとする時、これまで採用したてきたエンジニアが貢献できないとなると、経営戦略を進める上で問題になってくるのではないでしょうか。
最近の企業のエンジニア採用の状況については、どう捉えていらっしゃいますか?
人事と経営が切り離されてしまっている企業が多いのではないかと感じています。 例えば、経営から人事に「採用単価100万円、10人のエンジニアを採用したいので、1000万円で採用してください」とミッションが与えられると、人事の方々は、最終的に10人採用するために、どのくらいの数のエントリーをどうやって集めるか、そこから一次選考でどこまで絞るかというようにマーケティング的にファネルをつくり、アクションを取ることが多いです。しかし、人事の方々の議論の中で圧倒的に多いのは、質より量の話になりがちです。予算内で人数をそろえれば人事側の評価につながりますが、優秀なエンジニアを取れたとしてもそれを測る指標がなく、評価されない企業も少なくないです。
評価されないから、スキルや質をあまり見なくなってしまうと。
少数精鋭で開発に取り組んだほうが良いサービスもあれば、人員を多く投入したほうが良いサービスもあります。前者の場合において、初心者を10人採用するより、非常に優秀な人を1人採用した方が、組織の生産性が高まるのです。その場合、すぐにはワークしない人を10人採用すると、シニアのエンジニアがOJT的に教えなければならないコストも発生し、全体の生産性は確実に下がります。しかし、本当にそのプロジェクトにフィットするエンジニアが入ると、開発速度は数十倍・数百倍にもなります。海外ではエントリー時点でのスキル評価が当たり前ですが、日本の場合は長く働くことを前提に入社後の育成に力を入れるのが一般的であることから、質・スキルにまで目を向けた採用活動があまり進んでこなかったのが現状です。
従来の新卒採用では、よく「大学で勉強したことはたいしたことない、会社に入ってから仕事を覚えていけばいい」といわれて、それで成り立っていました。しかし、実際は生産性が何倍にも違ってくるとなると、当然、質を見極めて学生を採用しないといけない。量だけそろえて満足していると大変なことになりますね。
従来は、採用も研修も一律で行い、人材の配置や処遇も年齢に合わせて、というのが一般的でした。それが、最近では、エンジニアにおいては部署によって欲しい人材像や活用される技術が異なるので、採用段階や社内評価においてスキルを見極め、適切な給与を支払い、適切なポジションに配置した方が会社全体の生産性が向上するといわれるようになってきました。新卒入社時点から、スキルによって年収に差を付ける企業も出始めています。
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2012年より株式会社ギブリーに参画、エンジニア向けHR テクノロジー事業の立ち上げを行う。ハッカソンやアイデアソン、プログラミングコンテストなど新しいエンジニア採用施策を取り入れ、年間500 社以上のIT・通信・メーカー企業のエンジニア採用・育成を支援。2017年に同社の執行役員に就任。