【第一部/講師ビジョン株式会社 代表取締役 島村公俊氏】
ソフトバンク在籍時に取り組んだ内製化について
ソフトバンクで教育の内製化を立ち上げ、昨年、講師ビジョンを設立しました。まず、ソフトバンクでのお話からしたいと思います。
よく訊かれるのが内製化のきっかけです。ソフトバンク流のプレゼンとかソフトバンク流のアイデア発想法といったものがあります。そういうものは社内の人にしか語れません。そこで、社員の実践知を活かした人材育成をしたいと思い、内製化に取り組みました。
2009年には社内認定講師制度というものも立ち上げました。社員が講師になるということを全社に認知させるためには制度化した方がいいと思ったからです。
講師は本人手挙げ式のボランティアである点が特徴的です。手を挙げたものにチャンスを与えるという社内カルチャーに合わせました。また、お金をもらえるといった外発的な動機で関わってくださる社員の方のほうが長く関わってくれるのではないかと考えました。
ソフトバンクでは約10年間、内製化をリードすることを通じて、予算に縛られることなく、多くの社員の方に研修を提供できてよかったと思っています。また、研修を通じて、多くの社員がつながる場としても機能させることができました。
さて、皆さんは2020年問題をご存じかと思います。人件費がピークになる時期から、オリンピック後の景気後退が予想されるなかで人材育成予算が減少していく流れになると考えています。したがって、研修の内製化は必須になります。
しかし、リーマンショックの時がそうでしたが、コスト削減だけを目的に内製化を進めてもうまくいきません。内製化の本来の目的は、今回のタイトルにもなっている「人が育ち、育てあう社内環境を作る」ところにあります。その点を踏まえて進めていく必要があります。
これからの時代に求められるのは全社リソースによるアプローチ
もちろん、たやすくできることではありません。最近はより短期業績志向が強まっています。そのため、現場のマネージャークラスには育成に時間が割けないと考える方が増えているのではないか思います。
では、これからの時代に必要な育成アプローチとはどのようなものでしょうか。それは全社リソースアプローチによる人材育成です。
育成対象者に対して、通常は課内のリソース、例えば、上司、先輩、OJT指導員など複数人がついて教育します。しかし、忙しさが増してきて、今や課内のリソース活用だけでは限界にきています。そこで、全社で少しずつリソースを出し合う、例えば、ほかの部署の先輩、上司なども含めて教育に当たることが必要ではないかと思うわけです。
社内のさまざまな人が教育に当たるわけですから、その内容は実践的で即効性のあるものになります。また、育成対象者には社内のさまざまな人にアクセスできるというメリットも生じます。
では、実際にどうやるかですが、全社のリソースは「人的リソース」と「ノウハウリソース」に分けることができます。
人的リソースの活用のためには、教える技術を持つ人を増やすことが必要です。専門知識がある人に、教える技術を身につけさせることで、専門知識を社内に還流させることができるのです。
ノウハウリソースについては、まず社内のノウハウをコンテンツ化することが必要です。要するに教える材料です。意外と、教える際に必要なコンテンツや教材がまとまっていないということは多々あります。
もちろん、上司の育成意識も高める必要があります。仕事の合間に短時間の対話を積み重ねることによる育成やLINEやfacebookを使った遠隔コーチングなどが有効だと思います。
2020年問題が現実のものになってから対応していては間に合いません。まだ余裕のある今のうちから、ぜひ全社リソースアプローチによる「人が育ち、育てあう社内環境」作りに取り組んでいただきたいと思います。
島村 公俊 氏
講師ビジョン株式会社
代表取締役
2001年日本能率協会マネジメントセンター入社、教育体系の設計に従事。2006年ソフトバンク株式会社入社。全国の直営店および代理店スタッフ向けの教育体系構築に従事。2007年ソフトバンクユニバーシティの立ち上げのため人事本部人材開発部へ異動。社内認定講師制度の構築ならびに、100名を超える社内講師育成へ貢献。2013年Pike’s Peak Awardをアメリカの教育団体よりアジア初として受賞。翌年、日本HRチャレンジ大賞人材育成部門優秀賞を受賞。2016年より講師ビジョン株式会社を設立。 主な講演/研修実績:楽天、早稲田大学、東京都教育庁、慶応丸の内シティキャンパス、HRサミットなど講演。ダイヤモンドオンラインにて「ソフトバンク流研修内製化の秘訣」を執筆。HRプロにて「今こそ投資すべき研修の内製化の真実に迫る」連載。
山本 哲史 氏
株式会社NTTドコモ
ライフサポートビジネス推進部担当部長 /
株式会社ドコモgacco取締役
1994年 エヌ・ティ・ティ移動通信網株式会社(現NTTドコモ)入社。 iモードや金融関連サービスの新サービス開発に従事。その後、法人営業部門 にて新サービスの販売責任者としてBtoB販売を手掛ける。現在は日本初の大規模 オンラインオープン講座(MOOC)サービス"gacco(ガッコ)")を活用したBtoBビジネスを担当。
寺澤 康介
ProFuture株式会社 代表取締役社長 /
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授
1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。約6 万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。 約25年間、大企業から中堅中小企業まで幅広く採用、人事関連のコンサルティングを行う。週刊東洋経済、労政時報、企業と人材、NHK、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、文春などに執筆、出演、取材記事掲載多数。企業、大学等での講演を年間数十回行っている。