【HRサミット2016】日本最大級の人事フォーラム 5月11日・12日・13日開催!

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最新の脳科学、人工知能、ITの進化で、人事はどう変わるのか

株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology推進室 室長 石山洸氏
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) プログラムマネージャー 山川義徳氏
慶応義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏(モデレーター)

囲碁で世界的に有名なプロ棋士に勝つなど、何かと話題になっているのが人工知能です。一方、脳科学もバラエティ番組で紹介されるなど、ずいぶんと身近な存在になってきました。人工知能と脳科学─ 一見人事とは無関係なようですが、そうではないようです。このセッションでは、人工知能と脳科学で、人事がどのように変わる可能性があるのかを考えてみます。

【イントロダクション】
岩本隆氏

本日はパネルディスカッションのモデレーターをさせていただきます。

私は人材マネジメント論をこの4年ほど研究してきました。最近では、ビッグデータの統計分析が進んで、我々のところでも研究に取り入れています。今後は、機械学習、ディープラーニング、IoH(インターネット・オブ・ヒューマン)、行動科学なども入ってくることでしょう。最終的には脳科学をベースに人材マネジメントをサイエンスに仕上げていけると面白いと思っています。
山川さんと石山さんはHRだけではなく、幅広い分野の研究をされていますが、パネルディスカッションではHRテクノロジーの将来について議論できたらと思っています。

ちなみに、日本ではまだそれほどHRテクノロジーというものは広まっていませんが、グローバルでいろいろな分野で使われるようになってきています。イントロダクションとしましては以上です。次は石山さんにバトンタッチしたいと思います。

[講演1]
株式会社リクルートホールディングス
Recruit Institute of Technology推進室 室長 石山洸氏

リクルートが人工知能の研究に力を入れる理由

リクルートが人工知能の研究所を作りました。まずその理由から説明させていただきたいと思います。
リクルートは、雑誌の求人広告からスタートしました。それがフリーペーパーになり、パソコンになり、フューチャーフォン、スマートフォンになり、次はAIやIoTにシフトしていくと予測しています。

また、リクルートはひとつの目指す姿として2020年に人材ビジネスでグローバルナンバーワンになることを掲げています。海外にはテクノロジーに強い会社がたくさんあります。当社はテクノロジーのレベルでも世界でナンバーワンになりたいと思っています。そこで、10年ほど前からいわゆるデータサイエンティストの採用を始めて、国内ではかなり優秀な人が集まりました。グローバルでもナンバーワンの人材を集めたいと考えています。

これらが人工知能の研究所を作った理由ということになります。

今、いろいろな研究をしています。たとえば、先日、人工知能が囲碁のチャンピオンに勝つということがありました。その時、新しい定石を人工知能が作っていたという話がありました。人材のマッチングの世界も同様です。配属を決めたりする際にも定石があるかと思いますが、人工知能を使うことで、少しずつ新しい定石が見つかってきています。

ほかには、オフィスのなかでどのようなコミュニケーションが起きたら、その会社でイノベーションが起きやすくなるかという研究も人工知能を使って行われています。

誰でも人工知能が扱える時代に

とはいえ、一般の企業で人工知能を活用するのはまだまだ難しいとお考えの方がほとんどではないかと思います。そうではなくなりつつあります。
企業Aには人工知能の研究者が10人くらいいて、随時50くらいの人工知能のプロジェクトを回し、その成果を少しずつ人材マネジメントに取り入れているとします。一方、企業Bにはエクセルを使うくらい簡単に人工知能が扱えるプラットフォームが用意されているとします。誰でも扱えるので常時5000くらいのプロジェクトが回っています。どちらの企業が勝つかは明らかですね。

我々の最初のステップは、そういった誰でも人工知能が扱えるプラットフォームを作ることでした。「レンジでチンする人工知能」と呼んでいるんですが、エクセルのデータをドラック&ドロップし、項目を選んでボタンを押すだけで、いろいろな予測ができるというようなツールで、もちろん、今後も研究開発を進めるものの、すでに十分に使えるものができています。

現在はむしろ、そういったツールで何ができるかを考えるというステップに入っています。たとえば、当社のSPIのデータや面接時の受け答えのテキストデータなどを使って、入社後5年で「活躍人材」になる人を予測するという研究もその一つです。活躍人材とは、給与が上位20パーセントに入る人と定義していますが、85パーセントくらいの精度で当たるようになってきています。
これを利用してリクルーティングを行えば、採用効率が上がります。また、これから必要になる分野に活躍人材になり得る人を集中するということもできます。

ほかには、我々、5年前にうつ病の人のための行動記録アプリ「うつレコ」というもの出しているんですが、このデータを使った研究も行っています。直近2週間のデータから次の1週間の気分を80パーセントくらいの精度で予測することができるようになってきました。具合が悪くなりそうだから、業務量を減らして再発を防止するといったことも人工知能を活用することでできるわけです。

今後、さまざまな形で人工知能を活用すれば、人間が働くなかで生じるマイナスをゼロに、ゼロをプラスにすることができると考えています。
以上です。ありがとうございました。それでは、次は山川さんお願いします。

[講演2]
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
プログラムマネージャー 山川義徳氏

人工知能の発達で脳科学研究も進む

最近の脳科学ではネットワークの分析が進んでいます。脳のある場所とある場所がどのくらいつながっているかとか、ある場所とある場所がどのように同期の関係にあるかというようなことです。この研究にAIの技術が使われています。つまり脳科学は、どちらかというと、AIの技術を使わせていただいているという立場です。

そんななか、私たちがベースの研究として取り組んでいるのがMRIニューロフィードバックと呼ばれるものです。 ネットワーク分析をすると、望ましい脳のパターンの人と、そうではない脳のパターンの人が分かります。5年くらい前から解析精度が上がってきて、今鬱っぽいとか、そうではないということが分かるようになってきました。

これだけではあまり人事に役立てることはできないと思いますが、最近になって、脳のパターンがいいときに「今、いいですよ」と教えてあげたり、悪いときに「今、悪いですよ」と教えてあげると、脳の状態がどんどん良くなるということが分かってきました。この研究が一気に進んで、アメリカ軍ではPTSDの治療に使われていますし、日本では神経症の治療に使われています。腰痛の治療にもいいといわれています。

ただし、残念ながら、ネットワーク分析をするのに数千万円かかります。私たちはこれを普通の人でも使えるようにしようと考えています。つまり、誰でもが脳情報を自由に簡単に使える社会の実現ですね。
一方、日本では脳ドックと呼ばれる検診サービスが存在しており、年間20〜30万人の健常な方が予防目的でMRIをとっています。このデータを使うことで、さまざまな成果が得られるのではないかと考えています。

脳科学の成果を企業活動にも応用

ここまでは研究開発がメインの話でしたが、せっかく民間企業の方が多くいらっしゃいますので、少し民間企業に関係するお話もさせていただきます、 今、いろいろな企業に研究に参加していただいています。脳科学を使って良い商品、良いサービスを作ろうという取り組みが多いのですが、そのなかの一つに通称、ヘルスケア・ブレイン・チャレンジというものかあります。

脳の健康に良さそうな商品があったらどんどん提案してください、それらのなかから良さそうなものを我々が分析しましょう──というものです。全部で60件くらいの提案をいただきました。パプリカがいいんじゃないか、ビールの苦み成分がいいんじゃないか、オフィスでストレッチするのかいいんじゃないかなどです。そのなかの一つ、オフィスで1日5分でも運動したら脳が良い状態になるということが分かりました。

欧米の脳科学研究は病気の治療に注力しています。しかし、私たちは消費活動をまず喚起して、そのお金を使って医療にアプローチできないかと考えています。実際、日本の脳科学研究はヘルスケアばかりでなく、人材のモニタニリングや教育にも使えるベースができつつあります。

みなさんと協力をしながら研究を進めることができればと考えていますので、ぜひよろしくお願いします。ありがとうございました。

[パネルディスカッション]

岩本 ありがとうございました。では、残りの時間、お二人とも広い領域について研究されているのですが、今日は人事に特化してお話をさせていただければと思います。
まず、石山さん
──最近は人事のデータ分析に取り組まなくてはならないと思っている企業が急激に増えています。人事データを分析する部署を立ち上げる企業も出てきました。その一方でデータ分析ができる人材がいないという話もよく聞きます。どうすれば、データ分析ができる人材を採用することができるのか──
その辺りにつきまして、コメントをいただければと思います。
石山 データ分析に関わる人材には、面白いデータを分析したいという人が多いですね。ですから、ユニークなデータがあるということが大切だと思います。
もう一つ、そのデータを分析することでどれだけ社会を良くできるかというビジョンがあることが重要です。優秀なデータサイエンティストになればなるほど、自分の分析力で社会や世界を変えたいというマインドを持っています。ですから、自社は、こういうふうに社会や世界をよくしていきたいというメッセージが伝えられると採用はうまくいくと思います。
岩本 これから社内でデータ分析に取り組もうというところにはどのようなアドバイスをされますか。
石山 ステップを踏むということですね。第1段階はとにかくデータ分析をする人を1人採用する。第2段階はデータサイエンスの部署を作る。そして、共通インフラを備えて、人事の方は人事のデータ、広報の方は広報のデータというように、データサイエンティストではない人がいろいろな分析をすることができる状態にする──これが第3段階です。ここまでいくと、本当の意味でいろいろなデータが分析できて、経営のスピードも上がります。
岩本 ありがとうごいます。次は山川さん、欧米では脳科学をビジネスに応用しているという話を聞きます。いくつか事例をお話いただけますか。
山川 ディズニーには脳科学の活用を考える部署があって、リピーターを増やすためにはどうしたらいいかを研究しています。夢を壊す話になってしまうかも知れませんが、リピーターを増やすためには、何を、どのくらい見せたらいいか、あるいは逆に見せない方がいいのかといったことを研究しています。同様のことは自動車メーカーや香料メーカーなど、多くの企業で行われています。
もう一つ、企業事例ではないのですが、最近の研究でアジア系の人の脳と欧州系の人の脳は違うということが分かってきました。よく使う脳の領域が違うんです。これは同じ人事施策や経営方針でも受け止める側の脳が違うということを意味します。それを踏まえて、導入するもの、しないもものを考えなくてはいけないなと思いますね。
岩本 ありがどうございます。なるほど、経営学の理論はアメリカから輸入されることが多いのですが、日本の企業で使ってもあまり機能しなかったという話がよくあります。欧州系の人と日本人の脳が違うということになると納得できます。
また、石山さんに戻って、今後リクルートさんは何をやっていくか、お話いただけますか。
石山 企業のなかには、実際に働いてみてパフォーマンスがどうだったか、働いている人が本当によかったと思っているかといったことが、データとしてたまっていくわけですね。人工知能を使ってこのビッグデータを分析すれば、この人はもっとこういう働き方をした方がいいんじゃないかとか、こういう人に入社してもらったらいいんじゃないかということが分かってくると思います。これは世の中全体でみても凄く大切なことだと思います。そういう研究を進めていければと思います。
岩本 ありがとうございます。では山川さん、世界的にはMBAコースにはテクノロジーが必須であるといわれています。今後は脳科学も必須になってくるのかなと思うのですが、欧米の状況はどうですか。
山川 欧米では心理学や社会学の教科書の最初に脳科学が載っています。ただし、経営学はそうなっていません。脳科学は医療分野のものという認識がまだ強いからでしょう。先程少し話しましたが、日本には脳ドッグという素晴らしい仕組みがあります。日本から世界に発信していくということもできるかなと思います。
あるいは日本の脳ドックの情報を使ってもらい、欧米の研究者にうまく調理してもらうということもあるのかなと思います。
岩本 最後に、お二方から何かコメントをいただければと思います。
石山 働いてみてハッピーだったかというデータを持っているのは、人事の皆さんです。この宝物のようなデータを分析することで、もっと幸せな社会が作れる可能性があります。そこを信じて頑張りたいと思っています。
山川 我々の研究に参加していただきたいと思います。データの提供など、ぜひよろしくお願いいたします
岩本 経営学の世界では日本の常識は世界の非常識という話が非常に多いんですね。人材マネジメントについても、いろいろなデータを集めて人工知能で分析をしたり、脳科学を使って整理するといった手法で見直すことが必要かも知れません。 以上でこのセッションを終わらせていただきます。ありがとうございました。

石山 洸 氏

石山 洸 氏
株式会社リクルートホールディングス
Recruit Institute of Technology推進室 室長

2006年、東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了し、リクルート入社。インターネットマーケティング室などを経て、全社横断組織で数々のWebサービスの強化を担い、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせバイアウトした経験を経て、2014年、リクルートホールディングスのメディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年より現職。


山川 義徳 氏

山川 義徳 氏
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) プログラムマネージャー

2000年京都大学理学研究科修了。2000年より日本電気株式会社インターネット事業戦略室、経営企画部主任にて新規事業開発に従事。2008年京都大学大学院人間・環境学研究科修了博士(人間・環境学)。2008年より京都大学情報学研究科GCOE助教にてサービス・イノベーション及びニューロエコノミクスに関する研究・教育に従事。2010年よりNTTデータ経営研究所ニューロマネジメント室長にて脳科学を用いた経営コンサルティングに従事。その他、京都大学経営管理大学院非常勤講師、神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー。株式会社アラヤ・ブレイン・イメージング代表取締役を兼務。2014年より現職。


岩本 隆 氏

岩本 隆 氏
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。