6月選考解禁スケジュール変更で何がどう変わったか?
〜2017年卒採用の後半戦と、2018年卒採用を予測する〜
ProFuture株式会社 HR総研 主任研究員 松岡 仁
2017年卒採用の選考解禁日が、従来の8月1日から6月1日に2ヵ月前倒しされました。これにより、企業は採用スケジュールの変更を余儀なくされています。そこで、企業側、学生側への調査をもとに、データを参考にしながら、ProFuture株式会社 HR総研主任研究員の松岡仁が2017年卒採用の後半戦と、2018年卒採用を予測についてお話ししました。
地方での採用活動が有効に
本日、発表させていただく2017年卒対象の調査データは、企業側も学生側も今年の3月下旬調査のものになります。
まず、求人倍率と学生の志向でバックボーンを見ていきます。こちらは毎年、リクルートワークス研究所が発表しておりますが、今年の求人倍率は1.74倍です。昨年が1.73倍でしたので、微増しています。今年は大手志向が強まったということで、1000人未満では求人倍率が2.49倍へと上がり、1000人以上の大企業では0.90倍と微減。学生からすれば、大手企業には入りづらくなっています。業種別ですと、金融業が0.19倍で低く推移。サービス・情報業が0.49倍でこちらも低くなっています。製造業は2.32倍で昨年よりは高くなっています。流通業では昨年も6倍近い数字でしたが、そこからさらに増えて6.98倍。過去の最高倍率が2008年でしたが、そこに限りなく近い状態まできています。倍率が高いということは、企業側からすれば採用に苦労するということです。
次に、私どものデータで見ていきます。私どもの調査では、一昨年から昨年にかけては大手志向が増えていましたが、昨年から今年にかけての比較では若干、緩和されているようです。採用計画は多くの企業が採用増を打ち出されています。全体で29%、企業規模別で見ると1001人以上の企業で36%と、企業規模が大きいほど採用増の割合が増えている状態です。
今度は企業が抱えている新卒採用の課題について選択式で選んでいただきました。過半数の企業が選んだのが「ターゲット層の応募者を増やしたい」というものです。応募者の全体数よりもターゲット層の応募者をいかに集めるかが課題になっているということです。また、「大学との関係を強化したい」というものが44%となっており、いずれもターゲット大学との関係を構築・強化することが課題と言えるでしょう。
具体的な課題については、「母集団形成によらない採用の方法確立」、「内定辞退者が昨年2割増加したので、いかに内定辞退者を減らすか」などが挙げられていますが、最近では、地方勤務希望者の学生や地方の学生を採用したいという企業の声が出ています。都市部の採用が激化しているのに対して、地方学生は大手志向も強くなく、都市部と比較すると就職活動が淡泊で、最初に自分を評価してくれた企業に就職する傾向があるようです。そのため、地方での採用活動も有効になると思われます。
このような背景の中で、より重要となる施策を企業に選択式で回答してもらいました。半数以上の企業が選択したのは「学内企業セミナー(52%)」、「自社セミナー・説明会(50%)」となっています。「キャリアセンターとの関係強化」も39%と高い数値でした。
新スケジュールを学生は支持
ここからは学生の志向を見ていきたいと思います。重視する「仕事の魅力」を五択で選んでもらったところ、圧倒的に大多数の学生が「仕事が面白そう」を選択しました。企業側は「若いうちから活躍できる」ことを打ち出すこともありますが、そこに魅力を感じる学生は1割程度しかありません。重視する「会社の魅力」は昨年と比べて変化があります。昨年は文系・理系ともに「安定している」という項目が1位でした。今年はそれがいずれも2番目となり、文系が「経営者・ビジョンに共感」、理系が「技術力がある」というのが1位となっています。ここからも大手志向が緩和されたのではないかと推測されます。重視する「社会的責任の魅力」は文系・理系ともに「事業全体が社会貢献している」が関心事になっています。重視する「雇用の魅力」については、一昨年までの調査では「社風・居心地が良い」がトップでしたが、昨年は初めて「福利厚生がしっかりしている」が1位となりました。しかし、今年は文系で「社風・居心地が良い」がトップに返り咲きましたが、依然として「福利厚生がしっかりしている」は高いポイントを維持しています。重視する「採用活動の魅力」は例年と変わりなく、「採用担当者と接して好感が持てた」「一般社員と接して好感が持てた」という人の部分に影響を受けていることが見てとれました。
今年、採用スケジュールが変わったことについて、学生は文系・理系とも昨年に比べて「新スケジュールの方が良い」を支持。理系では「もっと早いスケジュールの方が良い」が30%もあり、卒業研究のことを考えて早めに内定を欲しがる傾向にあるようです。希望する企業規模をここ3年間で比較してみると、「絶対大手企業に行きたい」「できれば大手企業に行きたい」が文系で昨年は増えましたが、今年は昨年と比べてかなり落ちています。理系も昨年は伸びましたが、今年は減少。文系・理系ともに大手志向の割合は減っています。
インターンシップのメインは8月から2月へ
次に、早期の動向についてです。インターンシップ実施状況ですが、大手企業では約8割、中小企業でも4割を超えました。実施したインターンシップのタイプでは、「半日程度のインターンシップ」は昨年の11%から22%へと倍増。「1日程度のインターンシップ」も増えていますが、顕著なのは2時間程度のインターンシップが増えており、1日で複数のインターンシップをはしごする学生もいるようです。インターンシップの開催時期はこれまで8月のサマーインターンシップがメインでしたが、今年は2月にシフトしました。インターンシップと選考の関係を企業規模別に見ると、規模が小さいほど採用に結び付ける傾向が出ています。優秀なインターンシップ学生への対応例ですが、「書類選考(エントリーシート)の免除」や「ボーダーラインにある学生は救済する」、「アルバイト等での登用」「面接等を軽減する」などのコメントが寄せられています。
学生側のインターンシップ参加状況では、文系では4分の3の学生がインターンシップに参加し、6割近い学生が複数のインターンシップに参加しています。理系も4割は複数のインターンシップに参加したと答えました。参加したインターンシップのタイプでは、文系・理系ともに6割以上が「1dayインターンシップ」に参加しているようです。インターンシップの参加時期は8月と2月でかなり差が出ています。実施企業ベースでは2月が8月をわずかに上回る程度でしたが、学生は2月が5割を超えています。インターンシップ情報の入手先は就職ナビが圧倒的です。インターンシップ前の選考の種類は「エントリーシートを出した」となっており、文系で約7割、理系で約8割となっています。昨年に比べ、「面接」の割合が減っているのも特徴です。「1dayインターンシップ」が増え、面接まで実施する割合が減ってきたと考えられます。インターンシップ先からのアプローチでは、「エントリー」受付開始案内がトップですが、「特別セミナー」「早期選考会」の案内が3割程度、「次のインターンシップ」の案内が2割程度です。インターンシップ先にプレエントリーをしたのかについて質問したところ、文系で78%、理系で75%と8割近い学生はプレエントリーしています。
今年もマイナビがリクナビをリード
これからは就職ナビ・エントリーを見ていきます。活用している就職ナビですが、掲載社数では一昨年からマイナビがリクナビを逆転し、学生の利用度でも昨年からマイナビがリクナビを抜きました。今年も文系においては、リクナビよりもマイナビの方が高くなっています。最も活用している就職ナビで見ますと、文系で2年前はリクナビが57%、マイナビが25%でしたが、昨年はマイナビがリクナビを逆転してマイナビ48%、リクナビ38%、今年はリクナビが掲載社数を大きく増やしてきたので、リクナビが42%、マイナビが46%とリクナビが盛り返してきました。理系では活用している就職ナビでマイナビとリクナビが92%で互角。最も活用している就職ナビでは昨年、マイナビが文系と同じように逆転しましたが、今年はリクナビが再びトップに立ちました。
企業側から見たプレエントリー数ですが、昨年より減少した企業が3割以上となっています。これを学生側から見ますと、文系のプレエントリー数は理系より多いものの、大量にエントリーしている学生は減少している状況です。エントリーシートの導入は、大手企業で83%が導入。中小企業は5割未満となっています。エントリーシートの合否連絡ですが、大手企業は4割近くが合格者のみに連絡しているのに対して、中小企業は9割以上が全員に連絡しています。
重視される学内企業セミナー
次はセミナーの状況です。学内企業セミナーの参加数ですが、文系は昨年と今年がほぼ同じ。理系は10回以上も学内企業セミナーに参加している学生が増えてきました。また、注目したいのは、1回も参加していない学生が文系・理系とも14%となっています。学内企業セミナー面談企業へのプレエントリーについて聞いたところ、文系で83%、理系で85%がプレエントリーをしているとの結果が出ました。学内企業セミナーは有効な採用活動の手段であることが見てとれます。合同企業セミナー参加数は、文系は学内企業セミナーと変わりないですが、理系は1回も参加していない学生が28%もいます。重視するセミナーの種類を企業側と学生側に聞きました。企業側は規模によって大きな差がでており、大企業の7割が学内企業セミナーを重視しています。学生側も学内企業セミナーを重視する傾向は文系・理系ともに共通ですが、特に理系は6割の学生が学内企業セミナーを重視している結果となりました。
次に、個別説明会開催時期を企業に聞いています。3月は学内企業セミナーや合同企業セミナーでの母集団形成の段階とする企業も多く、個別セミナーは4月が最多。面接選考解禁後の6月、7月にも3分の1の企業がセミナーを予定しています。学生側から個別セミナー参加社数を見てみると、文系の最多回答は4〜6社で30%。10〜14社が18%となっています。理系も最多回答は4〜6社で33%。次いで7〜9社が17%で文系・理系とも共通していることが分かります。
内々定のピークは6月
続いて面接・内定についてです。まず、面接選考開始時期を企業規模別に聞きました。大手企業では解禁日の6月に開始する企業が24%で4月開始の26%に次ぐ数字でした。しかし、大手企業では面接選考解禁日までは、「面接」という表現をしないだけで、実質的な選考は水面下で行われているようです。例えば、「面談」、「模擬面接」、「ジョブマッチング」、「質問会」という表現を使っていると言われます。学生が3月までに受けた面接社数では、文系・理系ともに0社が最多で、文系が44%、理系が53%となっています。選考解禁日が2ヵ月前倒しになってはいますが、3月末時点では面接まで進む学生は増えていません。
内々定開始(予定)時期ですが、ピークは6月です。大手企業では4割以上、中堅企業では35%が選択しています。選考終了予定時期を企業に聞いたところ、最も多いのが8月で24%、次いで7月の21%です。中小企業では、24%が1月以降となっていますが、大手企業でも21%が1月以降と回答しています。長期戦を覚悟しているようです。学生側から見た3月末の内々定社数は文系で早慶クラスが23%の内定率です。日東駒専などの中堅私大クラスの7%と比較すると、かなり開きがあることが分かります。理系は早慶クラスで18%、中堅クラスで5%なので、文系ほど開きはありません。
2018年卒採用スケジュールも2017年卒と同様か
ここからは、2018年卒採用動向予測を見ていきたいと思います。経団連の2018年卒向けスケジュールでは、2017年卒採用のままという企業が55%、2017年卒採用より前倒しになるというのが39%でした。ただし、私どもの考えでは、「3月の採用広報解禁」の変更はすでに手遅れだと思っています。2018年卒採用のスケジュールは変わらないという予定を立てていただいた方がいいでしょう。2018年卒向けインターンシップの予定ですが、未定の企業があるものの、これまで実施していて取りやめる企業はほとんどなく、さらに実施企業は増える予測です。2018年卒向けインターンシップの実施時期ですが、現段階では8月がトップ。次いで2月となっています。まだ2月のことは考えられない企業もありますので、2月の件数は今年以上にさらに伸びてくると予測されます。2018年卒向けインターンシップのタイプは、「1日程度のインターンシップ」が拡大。2月開催のインターンシップが増える場合には、前年同様に「半日程度のインターンシップ」が大きく伸びる見込みです。
ダイレクトリクルーティングという言葉はキャリア採用だけではなく、新卒採用においても年々、使われるようになってきています。そこで、ダイレクトリクルーティングの実戦について企業に聞きました。すると、11%の企業が実施していると回答しています。実施しているダイレクトリクルーティングについては、「逆求人サイトの活用」が半数近い48%でした。
最後にスマホを活用した採用ホームページですが、大企業の7割はスマホを考慮した採用ホームページを作成していますが、中堅・中小ではまだそこまでの対応ができていません。ところが、学生に就活で利用する端末を聞いたところ、理系は依然としてパソコンが中心であるのに対し、文系はスマホが過半数を占めています。今後はスマホでの閲覧・利用を意識したホームページ作りがマストになると言えるでしょう。
ProFuture株式会社
HR総研 主任研究員
松岡 仁
85年金沢大卒。文化放送ブレーンで大手から中小まで幅広い企業の採用コンサルティングを行う。ソフトバンクヒューマンキャピタル、文化放送キャリアパートナーズで転職・就職サイトの企画・運営に携った後、2009年より現職。人事向けポータルサイト「HRプロ」、大学と企業をつなぐサイト「Campus Recruiting Plaza(キャンリク)」の企画・運営と、各種調査の企画・分析を担当。