EQの進化とEQの未来
〜なぜGoogleはEQを導入したか〜
ニューハンプシャー州立大学 心理学部 教授
Dr.John Mayer(ジョン・メイヤー博士)
エール大学 学長特別補佐
Dr.David Carus(デビッド・カルーソ博士)
1990年に提唱したEQ理論(Emotional Intelligence)の研究を続ける中で、新しく発見した理論、それがPI(Personal Intelligence)です。EQという感情的知性だけでなく、人間の性質を形作る人格にも知性があるという世界初の新理論です。そこで今回は、EQ理論提唱者であるジョン・メイヤー博士と、デビッド・カルーソ博士に、EQ研究から生まれた新理論PIをご紹介いただきました。
【第一部/Dr.John Mayer(ジョン・メイヤー博士)】
知性に関する歴史的側面について
本日は知性についてお話をします。これは人に関するもので、EQとも呼ばれています。まずは知性の歴史的側面についてお話しましょう。1905年、Alfred Binetという人が最初に知性のテストをしたと考えられています。ここでは、どの子供が学校で一番良い成績を修められるかというテストが実施されました。その後も、さらにさまざまな議論がなされました。まず一つの理論としては、知性は一つしかないという発想。それに対して複数の知性があるという議論もありました。Charles Spearmanは、すべての人間が一つの知性を持っているという発想を提示しています。
一方、L.L.Thurstoneは、ある人物が持っている知性が他の人には備わっていないケースもあり、人はそれぞれ違う知性を持っているから、人によってうまくできることと、できないことがあるという発想を提示しました。
20世紀は、こうして知性の研究者の間で意見が分かれていきました。単一の知性を主張する人に対して、複数の知性を主張する人。そしてもう一つのポイントは、たとえば複数の知性にも、物体あるいは空間に対するもの、パターンに対するもの、言語に対するものはあるが、人間関係に関する知性はないという意見が出ています。これは1990年前後、Edward L. Thorndikeから意見が出されたもので、社会的知性というものです。しかし、うまくはいきませんでした。なぜなら一般的知性と社会的知性の線引きが難しかったからです。1960年頃までは、社会的知性というものはまだ計測や定義がされておらず、証拠も得られていませんでした。しかし近年になって状況が多少変わりました。理由は2つあります。1つは、多くの知能テストが可能になったからです。2つ目は、心理学がより洗練され、さまざまな方式が開発されてきたからです。
「感情の知性」と「個人の知性」
霊長類学者は、霊長類が食料を獲得するために、どのように食べ物を見つけ、どのように位置を探り、どのように食べ物とそうでないものの違いを認識していくのかということを検証しました。そして90年代になると、さらに新しいアプローチが出てきました。霊長類はお互いにどのように関係を持とうとしているのか、個々の特性をどのように見ているのか、ヒエラルキーをどのように運営していくのか、という検証です。
そしてそれと同じ時期に、エール大学のピーター・サロベイ教授と私が、新しい知性があるのではないかということを発表しました。これが「感情の知性」です。さらに2008年には、私のほうで「個人の知性」というものを発表。これは個人個人の人間性にあたるものです。
さきほどの霊長類の検証結果は、人間にも当てはまります。例えば、人間はモノに興味を持ち、他人にも興味を持ちます。ここで皆さんに質問です。道路で作業をしている重機などを見かけたとき、興味を持って立ち止まって見てしまう人はどれくらいいますか? あるいは、パソコンをバラしてもう一度組み立てたことがある人はどれくらいいますか? これはモノに対する興味です。では、引っ越したときに、新しい隣人に積極的に声をかけようとする人はどれくらいいますか? または、バスの中で高齢者の方に気持ちを込めて声をかける人はどれくらいいますか? 今日の参加者は、人に興味を持っている人が多いようですね。モノに興味がある人、人に興味がある人、あるいは残念ながら、どちらにも興味がない人もいます。
これは仕事においても同様です。モノに関する仕事といえば、例えば科学的なリサーチや機械を使う仕事、農業従事者、研究所の技術者など。一方、人に関する仕事もあります。例えば、セールスマン、社会福祉サービス、アーティスト、人材関連などです。
要するに知性について考えるとき、モノの知性に加えて、人の知性も必要になってくると思います。これが感情的知性(Emotional Intelligence)や、個人的知性(Personal Intelligence)です。私たちはこうした新しい知性がどのようなものなのか、論理を立てて、テストを行いました。
Our Testing Program
ここからは皆さんにもご参加いただきたいと思います。感情的知性(Emotional Intelligence)と、個人的知性(Personal Intelligence)を合わせて考えていただきたい。感情的知性(Emotional Intelligence)には4つの要素があります。感情を認知する、感情を使う、感情を理解する、感情をマネジメントするといった方法です。一方、個人的知性(Personal Intelligence)にも、4つの要素があります。それぞれの個性を認知する、パーソナリティのモデルを作る、自分の行動の選択をガイドする、計画を分類するなどです。
Emotional Intelligence Sample Test Items
感情的知性(Emotional Intelligence)の評価の仕方についてご紹介します。まずはこの写真をご覧ください。この女性はどれくらい悲しいのか、1〜5で評価しましょう。皆さん、手を挙げてみてください。では、この女性はどれくらい恐怖を感じているか。同じように手を挙げてみてください。では、どれくらい喜びを感じているか。手を挙げてください。同じ写真でも、悲しそうにも嬉しそうにも見えますよね。
では次の問題です。自分が公平に感じていないと感じ、フラストレーションがどんどん溜まっています。そのとき、どういう行動を取るでしょうか。A.後悔をする、B.怒る、C.罪の意識を感じる、D.幸せを感じる。なるほど、Bと答えた方が多いですね。
Personal Intelligence Sample Test Items
次は個人的知性(Personal Intelligence)の評価の仕方についてご紹介します。また顔の表情の写真を使いますが、ここでは感情ではなく、個性を見てください。
この男性は上の写真と下の写真ではどちらが感情的に不安定だと思いますか? ではこの女性は上と下ではどちらが合意をしてくれる人だと思いますか? では次の質問です。自分の上司がどう行動するか予測するには、それまでの上司の行動パターンや癖などを見ていくと思います。もし自分の上司が外交的で喋るのが好きな人だったら。A.自分自身をコントロールできる人、B.リスクテイクをしがちな人、C.不安定で突発的な人、D.何を言われても傷つかない人。皆さん、手を挙げてみてください。
People Intelligences
感情的知性(Emotional Intelligence)と個人的知性(Personal Intelligence)の両面でさまざまな検証をしたところ、多くの人が正しく答えることができました。それに加えて、人々は全体的に同じように知性を理解することがわかりました。
また感情的知性と個人的知性は、どちらも精神衛生に大きく関係していることもわかりました。例えば、個人的知性が上がれば、依存性人格障害の症状は下がります。ちなみに依存性人格障害というのは、自分では決められない、他人に決めてほしいという症状です。
ではこうした考えを取り入れることで、今後どのようなことが予測されるのでしょうか。子供の社会的関係や大人の社会的関係が良くなる、自分に対する他者からの認識が高まる、学業の成績が上がる、仕事における人間関係がより良くなるなどが挙げられます。
そして高い個人的知性というのは、仕事における破壊的行動を下げるとも考えられます。例えば同僚に良くない態度を取るなどです。また、人間に関する学問、例えば言語や哲学などの成績が上がり、リーダーシップなども上達するでしょう。さらに対人関係のスキルも高くなります。
Summing Up(まとめ)
たとえば一緒に働いている同僚は、外交的な人なのか内向的な人なのか、同調性があるのか、ないのか、常にポジティブなのか、ネガティブな感情をたくさん抱えているのか——。こういった観察をすることで、その人が次にどういう行動を取るかがわかります。さらにその人のニーズも理解でき、一緒に協力して仕事をしていくことが可能になります。
今後、さまざまな企業やさまざまな組織の中で、こういった考えが取り入れられ、企業の発展、組織の発展に資することになると思います。ご清聴ありがとうございました。
【第二部/Dr.David Carus(デビッド・カルーソ博士)】
翌日の講演内容について
皆さんは「How are you?」と聞かれたら、どう答えますか? 「Fine」ですか? 一般的なアメリカ人は「Great」や「Awesome」と答えます。アメリカでこの質問をするときは、別に答えを知りたいわけではありません。単純に「Great」と答えてほしいのです。そこでこの質問をされたときは、次の2つの軸で答えてください。自分の持っているエネルギーのレベルは0〜10のどれか。0はとにかく眠たい状態、そして10は元気な状態です。もう一つ、感情のレベルは0〜10のどれか。0は不安な状態、10は楽しい状態です。皆さんの中に、どちらも10点という人はいますか? 逆にどちらも0点という人は? たとえばエネルギーが10で、感情が0の場合は「怒り」の状態、逆にエネルギーが0で、感情が10だと「満足」や「リラックス」の状態と言えるでしょう。
明日の講演で、またこの質問をします。「How are you?」と。そのときには皆さん、正直にこの2つの軸で答えてください。そしてこれは、日頃から自分で意識して考えることが大切です。出社する前に、ミーティングに出る前に、家に帰る前に。自分自身に「How are you?」と問いかけてください。自分が今どんなフィーリングなのかを知ることで、自分の考え方、意思決定の仕方、行動の仕方は変わってくると思います。明日はこういったことについてお話する予定ですので、ぜひご参加ください。
Dr.John Mayer (ジョン・メイヤー博士)
ニューハンプシャー州立大学 心理学部 教授
EQ理論提唱者 ケース・ウェスタン・リザーブ大学大学院博士課程修了 スタンフォード大学心理学研究院、ニューヨーク州立大学心理学部助教授を経て、 1992年より現職。 1990年P.サロベイ博士とともにEQ理論を提唱し、世界にEQが広がる EQに関する数々の論文発表や講演活動を積極的に行い、サロベイ博士とともに、 EQ理論の世界的発展と確立に貢献している。
Dr.David Caruso (デビッド・カルーソ博士)
エール大学 学長特別補佐
ケース・ウェスタン・リザーブ大学大学院博士課程修了 EQをベースとした、マネジメントリーダーシップの コンサルティング会社(ワークライフストラてジー社)を設立 ビジネスシーンにおけるEQ活用のコンサルティング、人材開発、 人材育成の第一人者。 1990年に提唱されたEQ理論の体系化に携わり、論文発表に多大な貢献をする。 EQに関する講演、EQ能力開発トレーナーとして世界で活躍し、 サロベイ博士、メイヤー博士とともに、EQ理論の世界的発展と確立に貢献している。