「カウンターオファー(counter offer)」とは、もともとは貿易などでの契約交渉の場面で使われていた言葉。売り手側から提示された価格や納期などの条件に買い手側が満足しない場合、条件を修正して買いたいと申し込みを行うことを意味しています。
これが転じたものが、人事用語としてのカウンターオファー。社員が転職・退職の申し出をした場合に、企業側から昇給や昇格、あるいは本人が希望する部署に異動させるといった条件を提示し、引き止めを行うことを指しています。
企業にとって、退職者が出れば、その社員の採用や教育にかけたコストが無駄になり、不足する人材を補充するための採用コストもかかります。特に、マネージャーや営業のエース級など、部署の要となって活躍している社員が転職・退職を申し出た場合は、その社員が抜けた後に仕事がうまく回らなくなったり、業績が悪化したりする恐れも否めません。そうした人材流出リスクに対応するため、カウンターオファーへの関心が高くなっています。
人材紹介会社エン・ジャパンでは、2017年2月から3月にかけて、運営する人事担当者向け中途採用支援サイト『エン 人事のミカタ』上で企業を対象にカウンターオファーに関するアンケート調査を実施。回答した775社のうち、退職意向の社員にカウンターオファーをしたことがある企業は65%に上り、カウンターオファーをした理由は、回答が多かった順に、「退職意向の社員が優秀」(72 %)、「育てた人材を手放したくない」(61%)、「新規の人材採用が困難」(44%)でした。また、カウンターオファーをしたことがある企業にどのような条件提示をしたかを聞くと、多かった回答は「他部署への異動」(37%)、「昇給」(21%)でした。
ただし、カウンターオファーの効果は必ずしも大きいとは限らないようです。同アンケート調査では、「カウンターオファーの成功率は20%以下」と回答した企業が6割以上を占めています。
カウンターオファーは、引き止めに成功したとしても本人のモチベーションが高く保てるとは限らず、好条件を提示したことが他の社員に伝わって士気が下がる原因にもなります。優秀人材の流出リスクに対応するためには、日頃から上司が本人と将来のキャリアプランに関して密にコミュニケーションを取るなど、退職の申し出に至る前の段階での対応が重要だといえるでしょう。