人手不足が執拗に叫ばれる現代にあっても、能力や適性に問題があったり、事業を縮小せざるを得なかったりなど、やむを得ず従業員の解雇を検討するケースもあるだろう。最近では、「解雇の金銭解決」も検討されつつある。だが、安易に解雇をしてしまうと、企業側はさまざまなリスクを抱え込むことになりかねない。以下、解雇リスクについて、金銭に焦点を当てて解説する。
具体例
●解雇予告手当基本的に、解雇は30日以上前に予告する必要があり(※)、即時解雇したい場合は平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払わなければならない。法定通り30日前に予告した場合、解雇予告手当は不要だが、仕事に対するモチベーションのない(と思われる)従業員が在籍し続けることになる。解雇を検討するだけに、周囲に悪影響を与えることが容易に想像され、解雇予告手当を支払って1日でも早く退職をして欲しいのが実情だろう。
(※試みの雇用期間で、かつ雇い入れから14日以内の場合など、予告が不要となる場合もある。)
●解雇無効(地位確認請求)
解雇には、「客観的に見て合理的で、かつ社会通念上相当な理由」がないと解雇自体が無効、という法律上のルール(=「解雇権濫用法理」)がある。労働者側が「不当な解雇のため無効であり、私は従業員としての地位があるはずだ」と主張し、認められた場合は、解雇からの期間の賃金支払いを求められることもある。
●未払い残業代
労働者側が、解雇に対する仕返しの意味合いで在職時の未払い残業代請求をすることがある。(もちろん、未払い分が存在することも問題ではあるが。)賃金の請求権は、過去2年分あるので(10年という考え方もある!)、意図してサービス残業をさせていた場合など、未払い残業代が思いもよらぬほど高額になることもある。
●各種助成金の不支給要件
厚生労働省管轄の助成金の多くは、直近で解雇実績のある会社に対して、一定期間支給が制限される。受給見込みの助成金が支給されないことも、間接的には金銭的損失と言えるだろう。
終わりに
こうして見ると改めて解雇には、金銭面だけでもさまざまなリスクがあることが分かるだろう。できることなら、解雇という決断をする前に、解雇回避に尽力して欲しい。そのための方法としては、状況改善に向けて教育および指導を行うことはもちろん、配置転換、出向、希望退職募集などを検討することが考えられる。
ただ、こうした解雇回避努力をしたとしても、それが単に解雇のためのアリバイ作りであれば、全く意味をなさない。むしろ、余計なしこりを生みかねない。重ねて言うが、解雇にはリスクはつきものである。熟慮に熟慮を重ね、極めて慎重に進めなければならない。
社会保険労務士法人ステディ
代表従業員 瀧本 旭