判例1
【事案の概要および争点】平成31年2月15日の大阪高裁判決。この事件は、ある医科大学の研究室秘書のアルバイト職員(50歳代女性)が、正社員と同等の仕事をしているにもかかわらず、賞与や休暇制度(夏季休暇や病気休暇)に待遇差があるのは違法ではないか、と争った。
【判決】:違法
【判決理由】
賞与は一律に支給されている(年齢や成績に連動されていない)。また、正社員にのみ認められている夏季休暇・病気休暇(有給扱い)について、アルバイト職員に支給されない合理的な理由がない。
判例2
【事案の概要および争点】平成31年2月20日の東京高裁判決。この事件は、ある鉄道子会社の売店員(契約社員)らが正社員と同じ業務にもかかわらず、正社員との間で基本給・賞与および住宅手当や退職金等の手当の待遇に差があるのは違法ではないか、と争った。
【判決】:違法(一部容認)
【判決理由】
正社員(勤続10年以上)に支給される勤続褒賞や退職金などの勤続に対する功労に報いる意味合いが強い手当を、非正規社員(契約社員)に一切支給しないのは違法とした。一方、基本給・賞与については、労働条件の差異を認め格差を容認した。
おわりに
上記判例を分析すると、賞与や退職金はどういった性質のものなのか(=実質的意味合い)が重要なようだ。判例1では、住宅手当や休暇制度等、仕事の責任や職務内容により差異を付ける理由がないにもかかわらず、正社員にのみ支給していることについて、違法とした。
これは逆に言えば、仕事の質や量、責任、その他について正規社員と非正規社員を合理的かつ明確に区分けすることができれば、それに応じて、賞与や退職金、手当について金額に差異をつけることは問題ないということだ。
また、判例2では、正規社員にのみ賞与・退職金を支給することが違法とされた理由として、功労に報いる意味合いが強いことを指摘している。であれば、パートタイマーやアルバイトなど(非正規社員)にも功労があって然るべきだ、という判断が読み取れる。
働き方改革を通して、さまざまな働き方が推奨されていることもあり、今後、ますます正規社員と非正規社員の格差について、その差異にこだわる意識が強くなるだろう。さらに言えば、労働力人口が減少の一途をたどる中、「非正規社員=各種手当・賞与・退職金は無し」というこれまでの常識は通用しなくなると考えられる。
今後は、非正規社員への賞与や退職金の見直しだけに留まらず、正規社員と非正規社員との業務のバランスを考慮した、全社的な賃金の見直しが必要になるケースも出てくるだろう。
代表社員 瀧本 旭