平成30年10月1日より、厚生年金や健康保険における随時改定の際には、「年間報酬の平均」による算定が可能になった。この仕組みは従前の随時改定では認められていなかったルールである。そこで今回から全3回にわたり、この「年間報酬の平均」による随時改定について考えてみたい。第1回目となる今回は、従前の随時改定のルールとそこで問題とされていた点を整理してみよう。
10月から始まった「年間報酬の平均」による随時改定とは(第1回)

そもそも「随時改定」とは

定時決定で決められた標準報酬月額は、原則としてその年の9月から翌年8月までの1年間、使用される。しかしながら、年の途中に昇給や降給があり、給料の額が一定以上変わった場合には、標準報酬月額の変更を次の定時決定の時期まで待っていると、「実際に支払われている給料の額」と「保険料額の計算に使っている標準報酬月額」とが大きく異なり、「実際に支払われている給料の額」に見合わない保険料額を負担する時期が長くなってしまう。

このような問題を回避するため、年の途中に昇給や降給があった場合には、一定の条件を満たすのであれば、次の定時決定の時期が来るのを待たずに標準報酬月額を変更する仕組みが用意されている。これが、随時改定と呼ばれるものである。

固定的賃金の変動で行われる「随時改定」

従来までの随時改定は、次の条件が揃うと行われていた。

(1)昇給や降給などにより「固定的賃金」が変動した。
(2)変動月から3ヵ月間の報酬の平均額(非固定的賃金も含んだ額)から求めた標準報酬月額と現在の標準報酬月額に2等級以上の差がある。
(3)変動月以降の引き続く3ヵ月とも支払基礎日数が17日以上である。

たとえば、次のような給料の社員がいるとする。 
 ・給料額…20万円
 ・標準報酬月額…14等級(20万円)
仮に、この社員の基本給が“5万円”増え、その状態が3ヵ月続くと次のようになる。
 ・固定的賃金(基本給)の変動後の給料額…25万円
 ・固定的賃金(基本給)の変動月以降3ヵ月の報酬の平均額から求めた標準報酬月額…17等級(26万円)

この場合、上記(3)の「変動月以降の引き続く3ヵ月とも支払基礎日数が17日以上である」という要件も満たすのであれば、変動後4ヵ月目から標準報酬月額は17等級に変更となる。

固定的賃金の変動以上に等級が変わってしまうことも

次に、前述のケースで、もしも増えた“5万円”の内訳が次の通りだったらどうなるかを考えてみよう。
 ・基本給(固定的賃金)が増えた分 …1万円
 ・残業代(非固定的賃金)が増えた分…4万円

この場合、固定的賃金が増えたのは“1万円”だけなので、固定的賃金の変動だけで考えると、2等級以上の差はつかない。しかしながら、随時改定を行う条件である以下の、

(1)昇給や降給などにより「固定的賃金」が変動した。
(2)変動月から3ヵ月間の報酬の平均額(非固定的賃金も含んだ額)から求めた標準報酬月額と現在の標準報酬月額に2等級以上の差がある。

を満たすことには変わりがない。

そのため、もしも前述(3)の「変動月以降の引き続く3ヵ月とも支払基礎日数が17日以上である」という要件も満たすのであれば、変動後4ヵ月目から標準報酬月額は17等級に変更となる。

固定的賃金だけを見れば“1万円”しか増えていないにもかかわらず、等級が14等級から17等級へと3等級も上がり、その分、企業や社員が負担する厚生年金や健康保険の保険料の額も多くなってしまう。

本来、随時改定とは、年の途中の昇・降給による「固定的賃金の変動」に対応するための仕組みである。しかしながら、従来の随時改定のルールでは、上記のように「固定的賃金の変動」以上に等級が大きく変わってしまうという現象が起こっていた。

このような現象を回避するために本年10月からスタートしたのが、「年間報酬の平均」から算出した標準報酬月額を随時改定時の新しい標準報酬月額に使用できる、という仕組みである。

次回は、「年間報酬の平均」による随時改定の具体的な仕組みを見ていくことにしよう。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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