産休、育休中は厚生年金の保険料を払わなくてよい
全ての法人事業所と、一部の個人事業所が加入を義務付けられる厚生年金には、女性社員が妊娠・出産に伴い勤務を休んでも、年金上、不利益を被らない仕組みが複数用意されている。例えば、産前産後休業期間中は、厚生年金の保険料支払いが免除される「産前産後休業保険料免除制度」という仕組みがある。本来、厚生年金の保険料は、支給される給料額に応じて企業と社員が半分ずつ支払うことが義務付けられているが、労働基準法に定める産前産後休業期間中については、その保険料の支払い義務を課さない、というのがこの制度の仕組みである。
産前産後休業とは産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)産後8週間のうち、妊娠・出産を理由に勤務しなかった期間を指す。従って、おおよそ4カ月間については、厚生年金の保険料支払い義務が、企業、社員ともに課されないことになる。
また厚生年金には、育児休業期間中は保険料支払いが免除される「育児休業保険料免除制度」という仕組みもある。育児休業とは、育児・介護休業法に定められた制度であり、原則として子供が1歳になるまでは勤務先に籍を残したまま休業できる仕組みである。この育児休業を利用している間は、厚生年金の保険料支払い義務が、企業、社員ともに課されないのがこの制度の仕組みである。
現在、育児休業は、子供が1歳に達したときに保育所に入所できない場合、休業期間を子供が1歳6ヵ月になるまで延長することが認められている。さらに昨年10月からは、子供が1歳6ヵ月になった時点でもまだ保育所に入れない場合に、育児休業を子供が2歳になるまで延長することも認められるようになった。このように育児休業が延長された期間についても、厚生年金の保険料支払いは免除されることになる。
企業によっては、育児休業を法律の定めよりも長期間認めているケースがある。前述のとおり、本来、法律で定められている原則の育児休業は子供が1歳になるまでだが、独自の就業規則で「子供が3歳になるまで育児休業を認める」などとしている企業もある。このような場合、厚生年金の保険料は、最大で子供が3歳になるまで免除が認められている。
保険料を払わなくても将来の年金額は減らされない
厚生年金の老後の年金は、現役時代の給料額と加入期間の長さなどを用いて金額が決定される。そのため、「産前産後休業保険料免除制度」や「育児休業保険料免除制度」を利用して保険料を支払っていない期間がある場合には、将来、受け取る年金額がその分、目減りしそうにも思える。しかしながら、両制度の非常に優れているところは、将来、受け取る年金額を算出するときには、保険料を支払わなかった産前産後休業中や育児休業中も「保険料は正しく支払われた」とみなして金額を決定することにある。つまり、保険料を支払っていない期間があるにもかかわらず、将来の年金額が全く減額されないのが、「産前産後休業保険料免除制度」や「育児休業保険料免除制度」の最大のメリットといえる。
例えば、女性社員が産前産後休業と育児休業を続けて取得した場合、1年を超える期間については厚生年金の保険料を支払う必要がなく、将来は全く減額されない年金が受け取れることになる。子供が2歳になるまで育児休業を延長したのであれば、2年を超える期間については保険料を支払うことなく、なおかつ減額のない年金が保証されるわけである。企業にとっても、相応の期間について企業負担分の保険料支払いが免除されるため、社会保険料負担の削減という大きなメリットを享受できることになる。
ただし、両制度を利用する上では大きな注意点がある。どちらの制度も該当の休業期間中に企業側が手続きをしないと、制度が利用できないことである。「産前産後休業保険料免除制度」であれば産前産後休業が終了する前に、「育児休業保険料免除制度」であれば育児休業が終了する前に手続きをしなければならない。当該休業が終了した後に手続きをしようとしても認められず、その場合には保険料の免除は一切受けられないので、十分注意をしたい。
教育研修により優秀な女性社員を育成できても、妊娠や出産を機に退職されてしまうのは、企業にとって大きな損失である。またゼロから人材の採用・育成をしなければならず、多大な時間とコストがかかるからだ。それよりも、育成した社員のキャリアを継続する仕組みを工夫したほうが、企業にとってはるかに得策である。産前産後休業、育児休業に伴うこうした厚生年金の施策は、ぜひ活用したい制度である。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)