回答数の5,526 人は、2015年に実施した前回調査の2倍を超える数字となっており、調査を実施したFineも「不妊当事者の関心の高さが伺えるとともに、本テーマが日本の大きな社会課題であることを示しているといえる」としている。
大きな課題として浮かび上がった「不妊退職」
今回の調査報告の中で大きな課題として取り上げられているのが、「不妊退職」についてである。アンケートでは、仕事をしながら不妊治療を経験したことのある人のうち 95.6%が「両立は困難」と回答。前回の91.9%から増加した形となり深刻さが伺える状況だ。そのうち、「仕事と不妊治療の両立が困難で働き方を変えざるを得なかった」との回答も40%を超えている。さらに、「働き方をどのように変えたか?」の設問には、半数の50.1%が「退職をした」と回答した。また、株式会社F Treatmentが運営するサイト「不妊治療net」が2017年4月に行った「不妊治療と仕事」についての実態調査では、不妊治療を経て妊娠した人の52%が、治療に際して退職・転職・休職をするなど、働き方を変えたという結果が出ている。妊娠しなかった人のうち働き方を変えていたのは32%に留まっていることと比べると、不妊治療を成功させるためには、現在の働き方を手放さなくてはならないといった、厳しい現実が浮き彫りになってくる。
両立困難な理由はスケジュールと精神的負担
仕事と不妊治療の両立が困難と感じられる最も大きな理由は、通院の負担が重いことにある。不妊治療では、おそらく経験のない人が想像する以上に、多くの通院が必要となる。頻繁に病院に通わなければならない上に、突然受診が必要になることもある。さらに、1回の受診時間も長く、人気の病院では長時間待たなければならない状況だ。病院が開いているのは基本的に勤務時間内であることが多く、Fineのアンケートでも、仕事をしながらの不妊治療経験者のうち71.9%の人が、「頻繁かつ突然の休みが必要になる」点を、両立が困難な理由に挙げている。病院を受診した後に仕事に行かなければならなかったり、仕事の後に治療を受けなければならなかったり、また、休んだ日の仕事を後日行わなければならなかったりするのは、体力的な負担が大きい。それに加え、同アンケートでは「周りに迷惑をかけて心苦しい」と回答している人も25.6%にのぼっており、精神的にも負担を強いられる状況が見えてくる。
不妊治療者の退職には職場環境が大きく関与
そのように、肉体的にも精神的にも負担が大きい状況で、不妊治療者が事実上退職に追い込まれるのには、企業のサポート体制が関係しているという。Fineの調査では、「職場に不妊治療をサポートする制度があると答えた人はわずか5.8%となっており、不妊治療に対する企業の理解の低さが露呈した形だ。特に就業時間制度について、73.3%が「(サポート制度が)ほしい」と回答しているのに対して「(サポート制度が)ある」と回答したのは 25.5%とギャップが大きく、頻繁な通院に対応するための時短やフレックスなど、就業時間の柔軟性が求められているものの、整備は不十分であることが伺える。
他にも、再雇用制度を 50.8%が求めているのに対し実施されているのは19.5%、治療費の融資や補助を求めている人が 21.9%いるのに対して、現状、実施されているのは 1.3%と、希望と現実のギャップは大きい。
また、フリーコメントでは、「上司には不妊治療をすることと、休みが増えてしまうことを告げてあったが、ある日、妊活か仕事かどちらかを選べと言われた。」「治療のための休暇は取れるが、今の時期は治療しないで欲しいと上司に言われた。」「不妊治療のために休むことを日報に書かなければならなかった。」など、不妊治療に対する理解が得られなかったことを訴える意見も目立った。このような「プレ・マタニティハラスメント」があるとみられる職場環境も、不妊治療者に退職を選択させる要因のひとつになっているようだ。
理想と乖離した現状の改善が急務
不妊治療を取り巻くこうした状況は、一億総活躍社会、働き方改革、女性活躍や少子化といった問題が叫ばれる中、まだまだ理想と実情が乖離していることの、一つの現れとなっているだろう。不妊治療のために働き方を変えざるを得なかった時の気持ちを尋ねた設問への回答からは、「これ以上は両立できなかった・限界だった」「治療を優先するため、仕事を辞める選択をした」など、当事者が本当は仕事を辞めたくなかったことが伺えた。今回のアンケート調査で、不妊治療のために働き方を変えざるを得なかった人の多くは 30 代であった。仕事で責任のあるポジションにつき、部下を抱えるなど、いわば働き盛りの年代の多くが、不妊治療のためにキャリアを諦めていることは、これ以上看過できない現状である。日本社会、経済界にとっても大きな損失となる、この問題への取り組みは急務だ。2017年度から、政府も不妊治療と仕事の両立を支援する新たな制度作りに着手しているが、社会全体として状況を大きく改善していくことが求められる。