結果からいうと解雇が裁判等で無効になると、原則、その期間までの賃金全額を払わなければいけない。民法536条2項においては、債権者(使用者)の責に帰すべき理由によって債務者(労働者)の債務(労務提供義務)が履行不能になった場合においては、債務者(労働者)は反対給付の請求権(賃金請求権)を失わないと規定している。
 そもそも、「労働者は、会社(使用者)に労務提供をするのと引き換えに会社(使用者)から賃金を得る。」という民法623条雇用契約に反して、労働者は労務提供意思(働きたい)があったにも関わらず、会社(使用者)が一方的に就労を拒否したということで、労働者は賃金請求権を失わないとするものである。
つまり、解雇等無効ということは、その者の解雇に対して、会社が誤った判断を下したということになるわけだから、解雇期間中(争っていた期間中)の賃金を全額支払わなければならないことになる。

 賃金は、労働者が解雇されていなければ得られたであろう賃金(遡及賃金)の原則すべてが支給対象になる。だが、期間中の手当、賞与等のすべての請求が認められるわけではない。通常賞与は、勤務成績等によって額が決定されるし、通勤手当は、実際に通勤していないため不支給になる。

 では、解雇等を争っている期間中に他社で就労して収入を得ていた場合、どうなるだろうか。会社(使用者)から争っている期間は賃金が支払われないのだから、収入を得る手段をとることも十分に考えられる。
 例えば、A社に解雇されたBが解雇等無効となり、期間中の賃金、1日10,000円をA社はBに支払うとする。しかし、Bは期間中、C社でアルバイトをしていて1日3,000円を得ていた。Bは、A社から1日10,000円、C社から1日3,000円、合計1日13,000円を得ることになる。

 しかし、本来、解雇を争わずにA社でその期間に勤務していれば、1日10,000円であるため、これはおかしくなる。そこで、会社(使用者)は労働者に支払わなければならない解雇を争っていた期間中の賃金から、労働者が他社で得ていた収入を控除することができる。これを「中間収入の控除」という。
 ただし、すべての中間収入を控除できるわけではない。そもそも無効な解雇を行ったのは会社(使用者)なのだから、使用者責任がある。労働基準法26条において、「使用者の責任により労働者が休業した場合、休業手当(平均賃金6割相当額)を支払わなければならない。」と規定しているので、休業手当相当額までは、会社(使用者)は支払わなければならない。
 会社(使用者)は平均賃金6割(おおよそ、給料の日額60パーセント)まで支払い義務が発生するということになる。先の例で見ると、A社は、Bに対して7,000円を支払う形になる。つまり、Bの手元にはA社から7,000円、C社から3,000円、合計10,000円が入るという形になる。


京浜労務コンサルティングオフィス 宮澤 誠

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