これらによって人事労務業務にどのような影響があるだろうか。
最大の重要ポイントは「インボイス方式」
平成31年10月より消費税が10%になり、同時に飲食料品等に対する軽減税率制度も開始される。これらについては、報道等により一般的にも周知されているだろう。人事労務業務においては、この消費税制度の大改正による影響は少ないだろうと思われている方が多い。しかし、人事労務業務でも影響を与えると考えられるのが、4年の経過措置経過後の平成35年10月から開始される「適格請求書等保存方式」いわゆる「インボイス方式」の導入である。
「インボイス方式」概略についてはこちらを参照頂きたい。(財務省HP)
現在の消費税制度の元では、取引先が課税事業者か免税事業者か、の区別はできない。また、課税事業者であっても免税事業者であっても消費税率を乗じた請求金額であることが殆どだろうし、請求書の様式も変わらない。しかし、「インボイス方式」の導入により、取引先が課税事業者か免税事業者かで大きな違いが生じてくる。
①課税事業者には「登録番号」が付与され、また国税庁のHP等で一般に公表される。よって、免税事業者との区別が明確になる。
②課税事業者は「適格請求書」=インボイス方式による請求書発行と保存が必要となる。そして、①の「登録番号」が明記される。
③免税事業者に支払う料金等は、消費税の課税仕入とならない。
③について少し補足すると、次の通りである。
消費税率10%の場合に33万円を支払うケースで考える。
◆相手が課税事業者でインボイス方式による請求書が発行される場合
→3万円(10%相当)について仕入税額控除ができ、実質30万円の負担となる。
◆相手が免税事業者で、インボイス方式による請求書が発行されない場合
→仕入税額控除ができないので、実質33万円の負担となる。
その差は3万円であるが、年間を通して、そして免税事業者との取引が多ければ、×(掛ける)事業者分の負担増となる。
なお、免税事業者の要件は、「年間の課税売上が1000万円以下」等、下記に示す通りであるのでご参照頂きたい。
★No.6501 納税義務の免除(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shohi/6501.htm
外注先・業務委託先は課税事業者か?免税事業者か?
人事労務部門の業務の対象となるのは、人的資源である。それは、必ずしも直に雇用している従業員だけでは無い。業務の一部を個人事業主等に外注しているケースがそれにあたる。最も代表的な例としては、建設業における一人親方である。
一人親方は免税事業者である事が多い。免税事業者であるという事は、会社にとって課税仕入とならない為、実質的な人件費負担が大幅に増える可能性がある。
これは建設業の一人親方だけではない。
例えば、IT関連業では、WEB制作やプログラミングを、アパレル業者では、デザインや加工・縫製等をフリーランスの個人事業主等に外注しているケースもあるだろう。また、私のような社会保険労務士等のサムライ業(弁護士、税理士、司法書士、行政書士・・・)や、研修講師・キャリアコンサルタント等の個人事業主、役員や営業が使用する個人タクシー等に業務を依頼している場合も多い。
考え出すとキリがない。あらゆる業種において、免税事業者に業務を依頼しているケースは多々考えられるのである。
現在は、これら個人事業主等が課税事業者か免税事業者かを意識する事は無いだろうし、そもそもどちらであっても会社に何らかの影響があるわけでもない。
しかし、インボイス方式導入後は、相手がどちらであるかによって、会社の実質費用負担が大きく変わる可能性が出てくるのである。
そうなれば、免税事業者に対して次のような要求を行う事も想定される。
・今までは消費税相当も含めて請求してもらっていたが、インボイス方式導入後は、消費税相当は含めず請求して欲しい。
・こちらの仕入税額控除ができなくなるので、課税売上が1000万円以下であっても、課税事業者となりインボイスを発行して欲しい。
外注等、業務を依頼している免税事業者である個人事業主等に、このような要求を実際にどこまで出来るだろうか?課税事業者になってもらうとして、その登録方法やインボイス発行方法について、指導する事が可能であろうか?同じ業務を依頼するならば、課税事業者に依頼先を変更する、という選択肢も出てくるのでは無いだろうか?
諸々考慮すると、インボイス方式の導入は、小規模事業者をビジネス上から排除する事になるのでは無いか、とも懸念の声も出てきている。
「とにかく免税事業者に、(中略)この消費税制度についてはまずよくよく理解をしてもらった上で、少なくとも課税業者への転換という事は、(中略)、この状況を見きわめながら決めていただくという事が必要なんだと思います。」(財務大臣答弁)
まだ7年先の話であり、既に公表されている経過措置等に加えて、何らかの猶予措置や制度の微調整がなされるかもしれない。しかし、人事労務部門においても、消費税制度の大改正は、少なからず影響が出てくる。そして経理部門等と連携しながら、インボイス方式導入後の在り方についてシミュレーションが必要であろう。
オフィス・ライフワークコンサルティング
社会保険労務士・CDA 飯塚篤司