ストレスチェック自体は各種ツールも提供されており、実施は産業医などが行うものなので、さほど心配することはないが、問題は高ストレス者のうち、希望者に医師面接を受けさせる制度である。
やっておきたい2つの対策
労働基準監督署への報告では、面接を受けた人数を記載することになっている。医師面接の希望者がゼロだからといって、とくに罰則があるわけではないが、やはり気になるところだろう。また、高ストレス者になんらかの就業上の措置を行い、メンタル不調による休職や退職、労務トラブルを避けたいと考えている場合、本人の気付きだけにまかせる、というのでは、なんとも心許ない。
そこで、ストレスチェックの結果が本人に通知された後、医師面接の希望者をゼロにしないために、どのような方策があるのか、考えてみたい。
◆医師面接を受けることが、本人にも会社にもプラスであると知らせる
まず、当たり前のことだが、対象者には、医師面接を受けるよう勧めることをお忘れなく。
結果通知に書いてあるとしても、「後で申し込もう」と思って忘れてしまうことも十分考えられるので、一定期間後に、メールなどプライバシーに配慮した方法でフォローしておこう。
かといって、あまり何度もしつこく勧めると「なにかあるのか?」と勘ぐられかねないので、1~2回でよいだろう。
また、勧奨をする際には、次の点を強調しておきたい。
・ストレスチェックの目的は、メンタル不調者をあぶり出して、職場から排除するものではないこと
・医師面接を希望したからといって、本人が不利益を受けるようなことはなく、法律でも会社がそのような行為をすることは禁じられていること
・高ストレスのまま働き続けるより、医師と相談の上、残業を減らすなど就業上の措置を受けたほうが健康に長く働くことができ、会社もそれを望んでいること
職場によっては、産業医に会ったことがない、などの事情で、不安を感じている従業員もいるかもしれない。
できれば、写真入りで産業医から一言、フレンドリーなコメントをもらい、それを勧奨のメールや文書などに載せることも考えられる。
◆補足面談を利用する
高ストレス者を選定する際には、補足面談という方法があるのだが、それを医師面接にスムースにつなげるために活用することもできる。
補足面談は、実施者になれる医師、保健師、研修を受けた看護師、精神保健福祉士だけではなく、産業カウンセラーや臨床心理士も行うことができるが、くわしい内容が規定されていないので、イメージがわきにくいかもしれない。
外部機関に委託した場合、メニューに補足面談が入っていることが多いので、利用を考えてはどうだろうか。もちろん、会社が直接カウンセラーなどに依頼してもよい。
補足面談の対象者をやや広くとることによって、「医師面接を勧奨されるのはメンヘル(メンタル不調者)」というような誤った情報が従業員に広まるのを防ぐことができる。
また、質問紙だけではわからないような、従業員のストレス状況や、原因として考えられることをていねいに聞き取り、本人の気づきを促すこともできる。これは、ストレスチェックの目的そのものといってよいだろう。
さらに、医師面接についての不安を解消するよう、詳しく説明を行うこともできる。
それでも高ストレス者が医師面接を希望しなかったとしても、セルフケアだけでは危険な状態なのかどうか、面談した心理職がある程度判断がつくものだ。
ほんとうに医療の助けが必要な場合は、適切なメンタルクリニックなどを紹介し、自ら受診してもらったり、カウンセリングを勧めることにしておけばよい。
費用がかかることではあるが、ストレスチェックの本来の目的を実効あるものとし、高ストレス者を医師面接にスムースにつなぐためには、補足面談を行うのが効果的である。
ストレスチェックを「よいツール」として使うために
そもそも、ストレスチェックに従業員が正直に回答するか、また、会社に内容を開示される医師面接を希望するか、というのは、従業員の会社に対する信頼度によるところが大きい。きれいごとを言っているが、ほんとうはメンヘルを辞めるように追い込みたいんでしょ、と思われていたら、形だけストレスチェックを行っても効果はない。従業員がそのように感じている会社の風土自体が、メンタルヘルスへのマイナス要因になっているのだ。
せっかく費用と人手をかけて行うストレスチェック。
めんどうなことが増えた、と、とらえるのではなく、従業員が健康に働き続け、会社の業績に寄与してもらうための、よいツールとして使う、というふうに考えを転換してほしい。
メンタルサポートろうむ代表
社会保険労務士/産業カウンセラー/ハラスメント防止コンサルタント/女性活躍推進アドバイザー
李怜香(り れいか)