社会保険未加入企業への取り締まり強化について
厚生労働省が、社会保険未加入企業に対する取り締まりを強化している。2014年11月より、厚生労働省と年金機構は国税庁が保有する企業の情報を基に加入漏れ企業の特定を進めてきた。2016年2月24日付の日本経済新聞によると、今年の4月からは企業版マイナンバー(法人番号)を活用し、2017年度末までに全ての未加入企業を特定し、悪質な企業には立ち入り検査を実施して強制加入させる方針だそうである。現在未加入の疑いのある企業は79万社、厚生年金に加入できるはずなのに加入せず国民年金に加入している会社員は約200万人にのぼるという。国民年金の保険料納付率は60%台であるのに対して、厚生年金の納付率は100%近く、加入逃れの企業が厚生年金保険料を払えば、年金財政は改善すると言われている。
筆者も、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の調査のたびに、「きちんと加入している事業所の調査ばかりをせずに、加入していない企業の取り締まりをしてほしい」という経営者の声を聞くし、その意見には同感である。きちんと加入をし、決して少なくはない社会保険料を納めている企業にとっては、未加入企業への取り締まり強化は賛成できる事項ではないだろうか。
社会保険加入の要件は?
そもそも、なぜ社会保険の未加入事業所が存在するのであろうか。事業所の社会保険の適用についてであるが、法律によって加入が義務づけられている強制適用事業所と、任意で加入する任意適用事業所の2種類がある。
強制適用事業所は、次の①又は②に該当する事業所で、法律により、事業主や従業員の意思に関係なく、加入しなければならない。
①製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介周旋業、集金案内広告業、教育研究調査業、医療保健業、通信報道業などの事業を行い常時5人以上の従業員を使用する事業所
②常時、従業員を使用する国、地方公共団体又は法人の事業所
任意適用事業所とは、強制適用事業所とならない事業所で、任意で日本年金機構(年金事務所)等保険者の認可を受け適用となった事業所のことである。
上記のとおり、法人として会社を設立した際、例え代表取締役一人でも強制適用事業所となり、社会保険へ加入しないといけない。しかし、加入については、届け出が必要であるので、その届け出がなされず未加入となっている事業所が多いのである。
次に、健康保険や厚生年金保険に加入できる人(被保険者)の適用要件であるが、適用事業所で常時働く人は、基本的に被保険者となる。パートやアルバイトだと社会保険に加入しなくてよいと勘違いしている人もいるが、パートやアルバイトなどの短時間勤務者についても、以下の2つの要件に該当する場合は、加入しなければならず、加入したくないから加入させない、というわけにはいかないのだ。
①1日又は1週間の所定労働時間が一般社員の4分の3以上
②1カ月の所定労働時間が一般社員の4分の3以上
なお、上記要件については、従業員501人以上の企業については今年の10月より以下の通りとなるので、注意が必要だ。
①勤務時間が週20時間以上
②1カ月の賃金が8.8万円(年収106万円)以上
③勤務期間が1年以上見込み
④学生は対象外
また、2カ月以内の期間雇用者の場合は加入対象とならないため、雇い入れ当初2カ月を契約社員とし、社会保険の適用をしないケースもあるが、それについては年金機構の疑義照会により、「事業所において継続的な使用関係に入る当初、身分的な意味で一定期間を臨時の使用人あるいは試用期間という取扱いをしても、継続的な使用関係が認められる場合は、採用当初から被保険者として扱うことになる。」とされているのでそのような取り扱いをしている場合は、調査等で、採用当初から被保険者としての加入を指摘される場合がある。取り扱いについて問題がないか確認をして頂きたい。
年金の財源確保の為、建設業等特定の業種において社会保険の未加入事業所への対策が取られている。今後、適用についてはますます厳格化されることが見込まれ、強制適用事業所において社会保険加入は避けて通れない事項であるといえる。節税等の為に個人事業所から法人成りを勧められるケースもあると聞くが、社会保険料のコストも忘れずに検討する必要がある。
企業が納税をするのが当たり前のように、強制適用事業所が適正に社会保険に加入をし、社会保険料を納める時代が近い将来やってくるかもしれない。
松田社労士事務所
特定社会保険労務士 松田 法子