多くの企業で来年の11月30日までにストレスチェック制度の実施をしなくてはならなくなり、この制度への関心が高まっている。
では、ストレスチェック制度でよく聞くストレスという言葉の意味は?そもそもストレスとは何なのか?今回は臨床心理士として解説していきたいと思う。
そもそもストレスとは何なのか?
現代はストレス社会と言われている。ストレスという用語は、ハンス・セリエ(Hans Selye)が提唱した概念で、元々機械工学の専門用語であり、『外力が物体に加わった場合の歪み・不均衡』という意味を持っている。外力がかかると物体が変化するという、ある意味当たり前の現象のことを「ストレス」と呼んでいたわけである。この時の外力のことをストレッサー、歪みや不均衡のことをストレス反応と呼ぶ。
代表的なストレッサーの種類には、温熱、寒冷、痛覚、圧力、光、騒音といった「物理的ストレスッサー」、 薬剤、有害化学物質、環境ホルモン、化学合成物といった「化学的ストレッサー」、細菌、ウイルス、カビなどの「生物学的ストレッサー」、人間関係の葛藤や社会的行動に伴う責任や重圧、将来に対する不安、大切な人の喪失体験、経済的困窮などの「精神的ストレッサー」がある。
つまり、外部からの変化がストレッサーであるといえるのである。
しかしながら、すべての人が同じストレスにあったからと言って、同じようにストレス反応があるわけではない。想像してみてほしい。同じ職場で同じ仕事をしているのに、体調を崩す人とそうでない人がいるのはなぜか?そのために心理学の世界ではいろいろなストレスモデルが提唱されているわけであるが、今回は臨床心理士として、認知行動モデルをご紹介したい。
認知行動理論に基づくストレスモデル
認知行動モデル
上記図が認知行動理論に基づくストレスモデルになる。例として、難しい仕事を担当することを上げる。
ストレッサーに対して、どのように捉え、対処するか、その結果ストレス反応がどうなるか、というモデルになっている。
ここで大切なのは「どのように捉えるか」という部分で、心理学的には「認知」と呼んでいる。つまり同じストレッサーであっても、人それぞれストレッサーをどう捉えるかは異なってくるため、そのことがストレス反応に大きな影響を及ぼしていると考えるのである。
また、認知行動理論では、認知と行動と感情と身体反応が相互に関連していると考えている。そのため、個人への関与の際には、
変えやすいところから変えるというのが基本的な考えとなっており、
① ストレッサーそのものを減らす
② 認知を変える
③ 行動を変える
④ 身体反応を変える
⑤ 感情を変える
のうち変えやすいところから変えていこう、というのが主なかかわり方となる。
「① 認知を変える」ためには、認知行動療法の技法を使い、その認知が果たして適応的なのか、カウンセリングを通じて見直していくのである。
「② 行動を変える」には、行動実験を通じて行動を変更していったり、エクスポージャーという技法を使って、行動からくる身体反応であったり、感情を変化させることにより、行動の持つ価値を変えていく。
「③ 身体反応を変える」では、リラクセーション技法を通じてこれまでの身体反応を変更させていく。
「④ 感情を直接変える」のはなかなかむつかしく、①②③通じて変化を促していくことが大切である。
個人に関わる際には、どちらかというと認知行動理論によるストレスモデルがよく、集団に関わる際には職業性ストレスモデルによる介入も良いと考えられるのである。
職場のストレスを物理的に減らすことができないときには、職場のストレスを物理的に減らすことができれば、ストレス反応は当然減らすことができる。
しかしながら、実際の職場においてストレスを減らすことはなかなか困難である。
社員のストレスを減らすために、仕事を減らしますというのは実際の経営ではなかなか考えることはできない。
では、職場のストレスを物理的に減らすことができないときにはどうしたらよいか?
職業性ストレスモデルに基づき考えると緩衝要因を増やすことが大切になる。
この場合の変えることができる緩衝要因とは、上司や同僚・周囲からのサポート、 仕事の満足度等です。良好なコミュニケーションが行われている職場ではストレスが低くなる。
そのために研修や社内行事を通じてコミュニケーションを活発にさせるなどの施策が大切になってくるのである。またそのような風土が作れるような人事制度作りも併せて大切である。
Office CPSR臨床心理士・社会保険労務士事務所 代表
一般社団法人ウエルフルジャパン 理事
産業能率大学兼任講師 植田 健太