2024年度は約6割の企業で過去最高値に。「大・中小・小規模」企業の全てで賃金改善を見込む
政府は、賃上げの計画を立てた企業を対象に設備投資を支援する補助金の新設方針を示すなど、積極的に企業の賃上げを後押ししている。経済3団体に対しても物価上昇を上回る所得増の実現が呼びかけられる中、2024年度の企業のベースアップや賞与(一時金)の増加といった賃金改善は、どのような動向となるのだろうか。なお本調査は、TDB景気動向調査2024年1月調査とともに行っている。まず帝国データバンクは、「2024年度の企業の賃金動向」について尋ねた。すると、正社員の賃金改善が「ある」と見込む企業(59.7%)は3年連続で増加し、2006年の調査開始以降、最高数値を記録した。一方、「ない」企業(13.9%)は前回調査/2023年度(17.3%)から3.4ポイント低下し、調査開始以降で最も低い水準となった。
そこで同社が、2023年度と2024年度の「賃金改善の状況」を企業規模別に比較したところ、「大企業」、「中小企業」、「小規模企業」の3規模全てにおいて、前回調査(2023年度)から賃金改善(見込み)の割合が上昇したという。
従業員数別に2024年度の見込みをみると、「6~20人」、「21~50人」、「51~100人」、「101~300人」の企業で6割を超えており、「5人以下」では賃金改善を行う割合が低くなっているものの、初めて4割台に達したとのことだ。一方、賃金改善を実施しない割合は「5人以下」の企業が突出して高かったが、従業員数が21人以上の企業では、賃金改善がない企業はいずれも1割未満にとどまったという。従業員が5人以下の企業で、賃金改善を行う環境がより厳しくなっている様子がうかがえる。
また業界別でみると、6割を超え最多となった「製造業」以下、「運輸・倉庫」、「建設」と続き、ともに6割以上となったとのことだ。2024年4月から時間外労働の上限規制が始まるトラックドライバーや建設業界などで、賃金改善を実施する企業の割合が高まっているとうかがえる。
ベースアップは2023年を上回り過去最高を記録。初めて半数を超える見通し
次に同社は、「賃金改善の具体的な内容」を聞いた。すると、「ベースアップ」が53.6%(前年比4.5ポイント増)、「賞与(一時金)」が27.7%(同0.6ポイント増)となった。「ベースアップ」は過去最高となった前年の49.1%を上回り、3年連続で調査開始以降の最高を更新するなど、初めて半数を超えた。賃金改善の理由として「労働力の定着・確保」が7割以上と最多に。「物価動向」も依然として半数を超える
続いて同社は、賃金改善があるとした企業に「その理由」を複数回答で尋ねた。すると、人手不足などによる「労働力の定着・確保」が75.3%と最も多かった。また、昨年の調査から選択項目に加えている「従業員の生活を支えるため」は、63.7%と前回よりは低下したものの、依然として6割を超える水準となった。
さらに、飲食料品などの生活必需品の値上げが響いている「物価動向」(51.6%)は前回より5.9ポイント減少したものの、引き続き半数超の企業が理由としてあげていた。そのほか、今回初めて尋ねた「採用力の強化」(35.8%)が理由の4番目にあがり、賃金改善を通じて採用活動へのプラス効果を期待している様子がうかがえる。
賃金を改善しない理由、「自社の業績低迷」が56.3%でトップ
次いで同社が、賃金改善が「ない」とした企業に「その理由」を複数回答で尋ねたところ、「自社の業績低迷」が56.3%と2023年度(見込み)同様に最多となり、次いで「物価動向」(17.8%)となった。物価動向は賃金改善を行う理由でも上位にあげられた一方で、物価上昇が賃金改善を行えない状況をもたらしている様子もうかがえる。以下、新規採用増や定年延長にともなう人件費・労務費の増加などの「人的投資の増強」(13.6%)、「同業他社の賃金動向」(13.3%)、「内部留保の増強」(11.2%)と続いた。