「あなたは高ストレス」と言われるのは稀ではない!?
しかし、体の健康診断と大きく異なる点は、「本人が同意しない限り、結果は会社に通知されない」という点である。心の状態というものはプライバシー性が高いものであり、やみくもに他人(それが雇用主であっても)に見せてはならないのだ。この仕組みについては賛否あるところであるが、ここでは「決まった制度にどう向き合うか」という点で話を進めたい。ストレスチェックの内容については、厚生労働省から出ている「職業性ストレス簡易調査票」を利用するのが望ましいとされていて、それをどのように分析し、本人への通知内容をどうするかは一定の指針のもと、会社にゆだねられている。その調査票にある「質問事項」を見てみよう。例えばこんな質問がある。「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「私の部署の中で意見の食い違いがある」――。このように仕事内容に関する質問から、「気が張り詰めている」「へとへとだ」「目が疲れる」「首筋や肩がこる」といった心身の状況、その他職場の環境に関する53項目の質問で構成されている。ここで一つの質問をしてみたい。自分自身の仕事で「とても忙しい」と感じる時期にこのような質問をされたとしたらどうだろうか。すべて「該当する」と答えるのではないだろうか。
ストレスチェックのセミナーを行う際、必ず受講者の方に伝えるのが「ストレスチェックを行う時期」である。一般的に体の健康診断と同じ時期にするのが妥当だと言われているが、本当にその時期が適当なのか今一度社内で見直してみてほしい。ストレスチェックは、今年の12月1日に施行され、1年以内、つまり2016年11月30日までのいずれかの時期に一度行えば足りる。もちろん、全社的に「一番落ち着いている時期」を選ぶというのも難しいかもしれない。しかし、ストレスチェックの目的は「メンタル不全の社員を探し出すこと」が目的ではなく、「自分自身がストレスを抱えているのかどうか客観的に判断し、気付きを促すこと」が目的である。そう考えると、非常に忙しい時期に実施するのはいかがなものかと思うのである。この話をすると、「恒常的に忙しい場合はどうすればよいですか」と。なるほど、確かに「暇な時期がある」というのも変な話かもしれない。しかしその場合は決まってこう答える。「いつ実施しても同じでしょうね」と。ただ、人事異動の多い4月や10月、決算時期で忙しい時期等、明らかに忙しい時期というのは避けた方がいいのではないかと補足する。
ストレスチェックを実施してメンタル不全社員は0になるか
総務・人事担当者としては、12月1日施行に向けて「準備をしなければならない」という状況であろう。しかし、一つ忘れてはならないことがある。それは「ストレスチェックを実施することが目的」にならないようにすることだ。ストレスチェックというのは、あくまでも従業員が健康・健全に働きつづけられるようにすることが目的である。だから、「やればいい」というものではない。これもいつもセミナー受講者の方に問いかける。「ストレスチェックを実施すれば、メンタル不全の従業員は居なくなると思いますか?」と。答えはNOである。前段で触れたように、ストレスチェックは受診する時の心理状態や置かれている環境により、結果は左右される。また、会社や上司との信頼関係が崩れている中にあっては「正直に答えるか」ということも分からない。そう考えると、「ストレスチェック」の前に2つやらねばならないことがある。「労働状態の把握」と「信頼関係の構築」である。まずは現時点で「誰が」「どのくらいの」業務内容、負荷を負っていて、労働時間はどのくらいなのか把握すること。そして、会社や上司の信頼関係はうまく行っているか。この2点である。この2点がしっかりしていない中で「ストレスチェック」を付け焼刃で実施したとしても、基礎がしっかりしていない家を建てるようなもので、すぐに倒れてしまう。そのためにも、日ごろからメンタルヘルスに関する啓蒙、意識づけを図るとともに、全社的に「どうすればよいか」を教育しておくことが何よりも重要である。
もう一度お伝えする。ストレスチェックを実施してもメンタル不全の従業員は0にはならない。従業員全員が健康で働くために、さて、御社では何が必要だろうか。
株式会社ブレインコンサルティングオフィス大阪営業所 所長
社会保険労務士 神野 沙樹