投資家に開示するレベルで「リスキリング」に取り組んでいるのはごくわずか
岸田内閣総理大臣が企業の「リスキリング」に言及するなど、日本においてもリスキリングの注目度が高まっている。2023年3月決算以降は、大企業を対象に、人的資本の取り組みに関する有価証券報告書への記載が義務付けられたが、大企業での取り組み状況はどうなのだろうか。まずドットライフは、2023年3月決算の対象企業のうち、「人的資本開示にリスキリングの記載があった企業の数と比率」を調査した。すると、人的資本開示項目の中で「リスキリング」に言及した企業は、2,355社中162社(6.9%)にとどまった。同社は、本調査から、「eラーニングの導入や社内制度の変更など、足元の動き出しは行っている状況が見えてきた」とし、「経営戦略や人材戦略の柱となる施策として、投資家に開示するレベルでリスキリングに取り組んでいる企業(またはそのレベルで投資を行っている企業)は多くない」との見解を示している。
業界上位は「金融業」や「保険業」。DXとの相関性も示唆される結果に
続いて同社は、「業種別のリスキリングの言及率」を調べた。すると、1位が「銀行業」(22.4%)、2位が「保険業」(20%)で、金融業界での言及率が高かった。独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」によると、これらの2業種はDXに取り組む企業の割合も他業界に比べて高いことから、「DX」と「リスキリングの取り組みに対する積極性」の間には、一定の相関がありそうだ。また銀行業では、全国各地の地銀でリスキリングに注力する傾向が見られたという。これは、金融庁が地銀の人的資本の調査を行う方針に言及したことが背景だと考えられる。リスキリングの必要性が明確に示されたことで、人材育成の変革が進んだ好例と言えるだろう。
従業員規模では「大企業」が、地域別では「東京都」が最もリスキリングを推進
続いて同社は、「規模・所在地域・上場区分別のリスキリングの言及率」を調査した。すると、規模別では「1,000~2,999人」が48社、「500~999人」が22社、「100~299人」が21社と、規模が大きい企業ほど言及率が高かった。所在地域別では、「東京都」が99社で最も多く、以下、「大阪府」(16社)、「愛知県」(10社)、「神奈川県」(7社)と、大都市圏に集中していることがうかがえる。さらに、上場区分別では、「東証プライム市場」(117社)、「東証スタンダード市場」(45社)、「名証プレミア市場」(14社)、「東証グロース市場」(6社)と続いた。これにより同社は、「地方自治体レベルでリスキリングの取り組みが進んでいるため、数年後には『リスキリング先進地域』が誕生する可能性もある」と推測している。市場区分でみると、プライム市場での浸透率が相対的に高いと示された。
リスキリング施策における頻出ワードは「自律的学習」、「DX・デジタル」、「シニア」
続いて同社が、「リスキリング施策の内容における頻出ワードの上位3つ」を調べたところ、相反する2つの傾向が浮き彫りになったという。一つは、一人ひとりが自らのキャリアやスキルの専門性を考えて自発的に行う、ボトムアップ型の「自律的学習」。もう一つは、人材ポートフォリオに基づき今後の経営計画の実行に対するニーズをふまえた、トップダウン型の「DX・デジタル」という単語だ。同社は、「組織全体でのリスキリングの成功には、これらの両輪が機能することが重要」としている。他方で、リスキリングの対象者を基本的に「全社員」としながらも、対象が特定される場合は「シニア」の言及率が高くなった。これについては、「シニア社員が持つ専門性や経験を、今後も生かしていけるようなスキルの再習得が重要であり、これを通じて長期間活躍できることを目指す」という論旨が目立ったという。