退職金は企業にとって「リスク」となるか?
企業側は、退職金における「リスクマネジメント」も考えなければなりません。「退職金制度」は、勤続に応じて増加する仕組みが基本となっています。そのため、勤続年数が長くなればなるほど、基本的には退職金が増加するのです。それは退職金の性質が「賃金の後払い」だからだと考えられます。長く勤務することが「貢献」とみなされ、雇用を引き留める効果を期待して設計されているからです。しかし退職者が発生した際に、初めて「退職給付債務」の大きさに驚かされる中小事業主も少なくないでしょう。雇用契約書類などに「退職金規程」や「労使慣行」が存在する場合には、労働基準法上において、以下3項目の「保全義務」があります。
1.労働基準法第11条(定義)……この法律での「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他の名称の如何を問わず、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
2.就業規則で別段の定めがない場合には、7日以内に全額支給(労基法第23条第1項)となる。なお、請求権の時効は5年間。
3.制度変更(廃止)時には、その時点で計算した退職金支給額を保証する必要がある(既得権)。
以上から、自社にとって「退職給付債務がどれだけあるのか」を検証する必要があるのです。
さまざまな対応法がある「退職金制度」
企業では、「基本給連動型退職金制度」がもっとも採用されています。この制度では、毎年の基本給の昇給にあわせて自動的に退職金が増加し、長く勤務すればするほど増えていきます。ですが、昇給率や昇給額に比例する仕組みなので、「将来どれだけ退職金が必要であるか」を試算するのが大変です。このように、基本給を極端に上げていた場合、本来の計算法に沿って算出すると退職金額が大幅に増加してしまいます。そのため、多くの企業では「第2基本給(毎年の昇給額の30%を積みたて、退職金から引き去る金額)」と呼ばれる手当を支給し、その手当を増加させることで「月額賃金を昇給させ、退職金は増加させない」という手法を取り入れているのです。
この場合、「退職時の基本給×勤続年数に対応した係数(年数に応じて向上)×自己都合係数」といった計算方法で退職金を算出、支給します。そして、この支給率は、ある勤続年数になると上昇率がさらに大きくなる仕組みになっています。これは、「定年退職に近づけば近づくほど“ご褒美”が大きくなる」というメッセージ性を含めるためです。
高度経済成長期における日本の雇用状況は「売り手市場」で、労働者を「いかに企業に引きとめておくか」が課題となっていました。こういった企業側の課題を解決するための手段として、勤続に応じて退職金支給額が高くなる仕組みになっているわけです。
終身雇用制度が崩れ成果主義時代を向かえた今日には、さまざまな問題が多くなっているようですので、上記は人事評価賃金制度としてはトレンドではありません。
次回は、ほかの退職金制度についてご紹介します。
真田直和
真田直和社会保険労務士事務所 代表
https://www.nsanada-sr.jp/