欧米や中国、韓国などでのオフィスでは、管理職には個室が与えられ、一般社員にも仕切られたデスクスペースが与えられているのが一般的だ。つまり、社員一人ひとりに仕事空間があてがわれているのである。それだけでなく、ミーティングルームやコーヒーブレイクのための談話スペースまで設置されている。一方で、日本のオフィス環境はといえば、仕切りのない大部屋方式で、社員はいつも顔を突き合わせて仕事をしていることが多い。グローバルスタンダードからすれば、かなり特殊な環境であるといえよう。それが一概にダメだということではないが、仕事の内容の変化に物理的環境が適合するよう、そろそろ考え直さなければならない時期かもしれない。
「仕事の変化」と「オフィス空間の在り方」を考える

昨今は新型コロナウイルス感染症拡大によりテレワークが浸透し、さらに1月7日には緊急事態宣言も再発動されたことから、テレワークがスタンダードになりつつあると思われがちだ。それは短期的には間違っていないが、出社による業務がすぐに「100%完全になくなる」ことを意味するものではない。現に、シリコンバレーではテレワークに疑義を抱いている企業も多く、グーグル在籍時に「プロジェクト・アリストテレス」を主導したラズロ・ボックス氏率いるヒューム社の調査によれば、在宅勤務の理想的な日数は「1週間に1.5日」との結果が公表されている。

そこで、今回は変わりゆく仕事と、それに伴うオフィス環境の重要性について解説する。

日本企業のオフィス環境では変わりゆく仕事に対応できない

日本の「大部屋・オープンスペース方式」は、社員の仕事ぶりが日常的風景として「見える化」されているから、上司は人事評価をしやすいし、仕事の進捗状況もわかりやすい。また、社員同士のコミュニケーションやメンターの指導にも効率的ではないだろうか。とりわけ、大量の事務処理作業を共同して行うには好都合である。筆者のような年配の者にとっては、それが当たり前のことであった。以前は、このようなオフィス環境が、仕事の中身との関連で整合性が取れていたのだ。

ところが、最近では従前の事務作業は、さまざまなオフィス機器の登場によって極めて効率化されている。この反作用として、多くのホワイトカラー社員の業務は、「洞察力」や「判断力」、さらには「創造性」や「独自性」などが必要とされるものに変化してきた。つまり、昨今のオフィスは「事務作業をする場」ではなく、「創造の場」や「思考の場」でなければならない。このように考えると、現在の日本のオフィス環境は大きな問題点をはらんでいるといえよう。

成果を上げるためには「作業プロセスに相応しい空間」が必要

そもそも、創造的な仕事には「インプット」と「アウトプット」のプロセスがある。前者のプロセスには多様な意見や情報、刺激が必要であり、それによってひらめきやアイデアが浮かぶことも多い。そのひらめきやアイデアを収れんさせるのが後者のプロセスであり、浮かんだアイデアを深掘りしたり、まとめ上げたりしなければならない。

「インプット」には、オープンスペースやミーティングルームなどの、ある種カオスな環境が役立つことも多いが、「アウトプット」の作業は、閉ざされた空間でないと生産性が上がらない。つまり、昨今の仕事で求められる成果を出すためには、以上の「2種類のプロセス」と「2種類のオフィス空間」を併用していかなければならないということである。そうすることで、社員は仕事への意欲が湧き、知識創造のクオリティも高まるだろう。

さらに、今日のようなストレス社会では、閉ざされた個室空間は必要不可欠だ。人間は最も進化した動物ではあるが、他の動物に見られる、いわば「なわばり精神」を依然として持っている部分もある。それを侵されると精神的に不安定となり、集中力が削がれて生産性が低下したり、場合によってはメンタルヘルスの不調や疾患を患ったりすることもあり得る。「オープンスペースだとコミュニケーションが促進される」と思われがちだが、「逆効果になる」との実証研究もあり、個人の性格にもよるが、上司や同僚の目を必要以上に気にする社員も意外と多いものなのだ。

また、企業が女性や障がい者、外国人などの雇用を拡大し、「人材のダイバーシティ化」を図っていくうえでも、プライバシーが確保された仕事空間は必須となっていくだろう。

「オフィス空間の在り方」を考えるに際して、仕事の内容が以前にも増してレベルアップしているのを所与のこととして、前述の「インプット/アウトプット業務」のプロセスの違いと、それに相応しい「交流空間/単独空間」の設置を念頭に置き、仕事空間の整備を図っていきたい。



大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP

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