雇用調整助成金:請求・支給の条件が緩和した特例措置を活用しよう
まず、「雇用調整助成金」について見ていきましょう。これは新型コロナウイルス感染症が流行する前から存在した助成金ですが、支給要件が複雑でややこしいというイメージがありました。しかし、現在は特例措置が敷かれ、申請から支給までのハードルがかなり下がっています。その証拠に、約205万件の申請件数に対して、支給が決定されたのは約197万件と、実に96%の支給決定率になっています(2020年12月3日時点)。では、特例措置によってどれくらい便利になったのかを、具体的にご紹介しましょう。
(1)助成額および助成率が上がっている
「雇用調整助成金」の助成額は、これまでひとり1日あたり8,370円でしたが、特例措置により15,000円まで引き上げられました。また、助成率についても、解雇を行なっていない中小企業については100%になっています。つまり、従業員に支給した休業手当が15,000円までなら、その金額が100%手元に戻ってくるということになるのです。もし、やむなく解雇を行なった場合でも80%の助成率になるため、企業側への負担が本来よりも軽減されます。
(2)「生産指標10%以上の低下」という条件が、「5%以上の低下」に緩和
「生産指標」とは、生産量や生産額、販売量、そして売上高など、雇用量の変動と相関関係が高い値のことを指します。
特例措置が取られる前は、休業を届け出る前の3ヵ月間について、対前年比10%以上の低下が要件でした。ですが特例措置では、休業を実施する対象期間の「初日」が2020年4月1日~12月31日の期間内である場合、生産指標の低下要件は5%以上と緩和されています(年明けの休業の対象期間については、今後の助成金支給要件の変更を確認しましょう)。なお、これら以外にも、特例措置で緩和されているものがたくさんありますので、チェックする価値は大いにあります。
次は申請方法についてです。前述の通り、所定の申請用紙に加えて、下記の添付書類が必要となります。
生産指標の低下を比較するための、月の売上がわかる売上簿やレジの月次集計、収入簿など
「休業した月」と、「1年前の同月」のものが必要となります。もし、事業所を設置して1年経っていない場合は、「休業月」と「1ヵ月~1年前までのいずれかの月の売上高との比較」でも構いません。
従業員を休業させた日や時間がわかる書類(出勤簿やシフト表など)
休業手当の額や賃金の額がわかるもの(賃金台帳や給与明細の写しなど)
従業員に支払う休業手当の額は「平均賃金の60%以上」とすることが条件となっています。
役員名簿(役員がいる場合)
個人事業主や、事業主以外に役員がいない場合は必要ありません。
書類がそろったら、事業所を管轄する労働局やハローワークに提出します。郵送でも構いませんし、オンラインでの申請も可能です。
ただし、申請期限は原則として「支給対象期間の末日から数えて2ヵ月以内」なので、注意が必要です。たとえば、賃金の締め日が月末で、10月1日~末日まで休業した場合は、12月末までに申請書が提出先に届いていなければなりません。自社の場合はどうなのか、労働局やハローワークに確認を取るようにしましょう。
そして、上記の「雇用調整助成金」は「雇用保険の被保険者である従業員」が対象となっているため、週に1~2回程度しか就業していないなど、雇用保険の被保険者ではない従業員は助成金の対象外となってしまいます。そのような場合は、「緊急雇用安定助成金」の申請も検討してみましょう。
緊急雇用安定助成金:従業員が雇用保険に入っていなくても申請可能
では、「緊急雇用安定助成金」が、どんな要件になっているのかを説明しましょう。これは、「雇用保険に入っていない従業員のための雇用調整助成金」に相当するものです。この助成金の対象は、従業員数がおよそ20人以下の会社や個人事業主かつ北海道を除いた地域で、2020年4月1日~12月31日までの休業に対して助成されることになっていましたが、現在では対象期間が2021年2月末まで延長されました。申請方法は、「雇用調整助成金」とほぼ同じです。そして、雇用保険に入っている従業員と入っていない従業員、双方が在籍している会社の場合、「雇用調整助成金」と合わせて申請することができますので、ぜひ活用しましょう。
ただし、「雇用調整助成金」や「緊急雇用安定助成金」は、「従業員に休業手当を支給していること」が前提になっているので、支払っていなければ助成金の支給対象にはなりません。休業手当を支給していない事業主は、「このままでは大切な従業員の雇用を守れない……」と頭を抱えてしまうかもしれませんが、そのような状況にも対応している支援策があるのです。それが「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」です。
これは、従業員が自分で申請する種類のものになるのですが、申請書には事業主の方が署名する欄がありますので、積極的にご協力いただければと思います。次に、どのような仕組みになっているのかをご紹介することにしましょう。
新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金:休業手当を支給していない従業員も支援が可能に
「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」は、先ほども述べたように、従業員の方が自分で申請するものです。お金も従業員の個人口座に振り込まれるシステムになっています。支給要件としては、中小企業に勤める従業員が、新型コロナウイルス感染症の影響のために事業主の指示で休業し、賃金や休業手当を受けることができない場合に支給されます。金額は、休業前の賃金の8割となっていて、上限は11,000円です。事業主の負担は一切ありません。
ただし、申請するには農林水産の一部の事業所を除いて、「労働保険番号」が必要になりますので、労災保険の書類などをあらかじめ準備し、番号を控えておくことをおすすめします。
このように、休業手当を従業員に支給していないからといってあきらめる必要はまったくありません。しかしながら、今回ご紹介した助成金は、申請方法が簡略化されたとはいえ、専門用語が多く、それなりの時間と手間がかかることは否めません。申請がおっくうだと感じる方がいても無理のないことです。その場合は、お近くの社会保険労務士にご相談することをおすすめします。助成金申請は労務管理のプロに任せて、本業に100%注力できる状況を作ってはいかがでしょうか(本内容は、2020年12月時点の情報です。)。
※1 厚生労働省:「雇用調整助成金の特例措置等を延長します」
※2 厚生労働省:「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」(12月15日のお知らせを参照)
山口善広
ひろたの杜 労務オフィス
社会保険労務士
https://yoshismile.com