なぜ“換気”にこだわるのか まずはおさらいから
2020年は、新型コロナウイルスに始まり新型コロナウイルスで終わる1年となりそうです。この病気は人類にとって未知の病でしたが、ここにきて色々なことが判明してきています。産業保健分野においても、特にオフィスで重要だと思われることがわかってきました。それは「換気」の問題です。新型コロナウイルスの感染者がいない、また過去にも利用したことがない部屋の中で、感染が広がることはまず考えられません。しかし、その場に感染者がいる場合、換気が悪ければ同時に多くの人に感染させる危険があります。現在までの科学的知見によれば、他人への感染力は症状が出る直前が一番強く、また感染している人の飛沫や呼気から他人に伝染させるルートがメインだとされています。これは非常に重要な注意点です。例えば、症状が全くない元気な5人が同じ部屋にいたとします。それでも中の一人が、本人も気がついていないが実はすでに新型コロナウイルスに感染していた場合、換気が悪ければ残り4人全員が感染することすらありえます。逆に言えば、換気がしっかりされている空間であれば、このようなクラスター発生をある程度防止できるということです。
以上のことから、職場の換気を良くしようというアドバイスは皆さん何度もお聞きになっているかと思います。では、自分たちの職場の換気が十分かどうかは、どうやったらわかるのでしょうか。鍵となるのは室内の「二酸化炭素濃度」です。
「二酸化炭素濃度」からわかる換気状況
空気中の二酸化炭素濃度は換気の状況を最もよく示す指標で、しかも簡便に測定できます。人間は二酸化炭素を排出していますが、部屋の大きさに比べて人数が多く、換気が悪いと、二酸化炭素濃度が上がります。このため、「換気が十分かどうか」は二酸化炭素濃度を測ることで判断することができるのです。事務所衛生基準規則によると、「事業者は職場の二酸化炭素濃度を5,000ppm以下にすること」とあります。一方、多くの事務所が入っていると思われる、空調設備を備えた大きなビルには「建築物衛生管理基準」が定められており、二酸化炭素濃度を1,000ppm以下に維持管理する努力義務があります。つまり、事務所衛生基準規則にも類似した事業者の努力義務が記されていますので、これらの基準が守られているかを目安にするといいでしょう。
どのくらいの二酸化炭素濃度であれば職場内感染を防げるかについては、私の知る限りまだ誰にもわかっていません。しかし常識的に考えるならば、二酸化炭素濃度が低いに越したことはないのです。私が産業医として企業を指導するときは「1,000ppm以下を保ちましょう」と言っています。もしそれに満たない場合、建築物環境衛生管理技術者(通称ビル管理士)、またはビル管理士を雇っている会社に交渉すれば、換気をよくしてくれる場合があります。今は簡易的・連続的に二酸化炭素濃度を測定する機械が、数万円で購入できます。それを各部屋に置くもよし、あるいは一番出社人数が多い時間に機械をもって衛生管理者が回るもよしです。
ちなみに、行き止まりの廊下などは大変に高い値を出すことがあります。そのような場所は、まさに職場内感染の危険なポイントですので、対策を講じることをお勧めします。例えば「そこは立ち入り禁止にする」、「換気するために窓を開けるか機械を入れる」、「そこでの会話は一切禁止にする」等々が考えられます。
換気が悪い場所や時間帯を積極的に探していくことこそが、職場内での新型コロナウイルス感染を防ぐ一助になると思います。是非取り組んでみてください。