そもそも「最低賃金」とは?
「最低賃金」の制度として「最低賃金法」という法律があり、国がそれにもとづいて賃金の最低基準を定めています。使用者は、この定められた最低賃金以上の賃金を支払う「義務」があるのです。ちなみに、最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類がありますが、今回は一般的な「地域別最低賃金」についてお話しします。「地域別最低賃金」というのは、都道府県ごとに定められる最低賃金のことです。それぞれの都道府県で最低賃金が設定されており、事業場の所在地がどの都道府県にあるのかによって事業所の最低賃金が決まるという仕組みになります。
そして、この最低賃金については、労使間で最低賃金に満たない賃金であることを合意していたとしても無効となり、自動的に、労使間で最低賃金と同額の取り決めをしたものとされます。もし、労働者が最低賃金未満の賃金しか支払われなかった場合、企業には差額をきちんと支払う義務があり、50万円以下の罰金が課せられることもあります。
さて、この最低賃金の制度が適用される労働者の範囲は、産業や職種に関係なく、また、パートやアルバイトといった雇用形態にも左右されることなく、すべての労働者が対象になります。
ただ、障がいがある方の一部といった、一般の労働者と比べて著しく労働力が低くなってしまう方に関しては、労働局長の許可を得れば、最低賃金を減額できる特例が認められます。しかし、一般的にはすべての労働者に最低賃金の額が適用されるので、たとえば派遣労働者や出来高制で働いている人も対象になるのです。
出来高制の場合については後述しますが、出来高制の場合については後述しますが、派遣労働者については、注意すべきことがあります。最低賃金が適用されるのは「派遣元」ではなく「派遣先」の都道府県の最低賃金が採用される点です。たとえば、派遣元の会社が沖縄県(2020年度の最低賃金:792円)にあったとしても、派遣先が東京都(同:1,013円)であれば、東京都の最低賃金を基準に労働者の給料を決定する必要があるわけです。
では、その最低賃金はどのように計算をしていくのでしょうか。
「最低賃金」の計算方法とは
まず、「最低賃金」の対象となる賃金の種類からご紹介しましょう。対象となる賃金は、「基本給」といった毎月支払われる基本となる賃金です。それには「諸手当」も含まれますが、「賞与」は対象外となります。また、諸手当といっても「精皆勤手当」や「家族手当」、「通勤手当」は対象外です。それに、毎月支払われている手当でも、「時間外手当」や「休日出勤手当」、「深夜勤務手当」も最低賃金には含まれません。次に、最低賃金の具体的な計算方法ですが、最低賃金でベースになるのは「時間給」です。なので、日給や月給で賃金が支払われている場合は、時間給ベースに計算しなおす必要があります。
日給の場合、「日給の額÷1日の所定労働時間」と計算することで時間給相当の金額が出ますね。
月給の場合は、「月給÷1ヵ月の平均所定労働時間」で算出します。「1ヵ月の所定労働時間」はどのように計算するのかというと、「1年間の所定労働日数×所定労働時間÷12ヵ月」となります。
注意しないといけないのは、出来高制で給料を支払っている場合です。そもそも、「出来高制なのに最低賃金なんてあるの?」と思われている方も多いですから、きちんと計算していないと足をすくわれかねないので気を付けましょう。
基本的な計算方法としては、「総支給額÷月間の総労働時間」になります。この「月間の総労働時間」というのは「深夜労働」の時間は含まないものの、「時間外労働」の時間は含みます。しかし、「総支給額」には「時間外割増賃金」は含みませんので、残業がいつもある職場の場合、きちんと計算していないと、最低賃金を割ってしまう可能性があるので注意しましょう。
また、出来高制と固定給を併用している場合は、それぞれの賃金を計算し、合算して最低賃金以上の時給ベースの給料になっているかを計算します。もし、自社の従業員の最低賃金を計算するときに、時給ベースへの計算方法がわからない方は、事業所を管轄している労働局や労働基準監督署に確認することをおすすめします。
いかがでしょうか。2020年は、新型コロナウイルスの蔓延で経済や雇用に多大な影響が出ています。それにもかかわらず、小幅とはいえ、多くの県で最低賃金が引き上げられました。これは、最低賃金の地域差を少しでも解消したいという行政の意思にも見えます。ですので、企業は、「Withコロナ」が叫ばれる将来においても最低賃金は上がっていくものと覚悟しておいた方がよいでしょう。
具体的に賃金制度を構築・メンテナンスしていくには、手間も時間もかかります。安心できる賃金制度を検討する場合は、労務管理のプロである、お近くの社会保険労務士にまずは相談することをおすすめします。