「基本給」を考える
経営者や企業の人事担当者に「基本給の意味を教えてください」と質問すると、明確に答えてもらえるケースは少ないものです。しかし、毎月支払う給与の中で、「基本給」は最も多くの割合を占めています。そのため、基本給の意味をしっかりと決めることが大切です。例えば、「年齢」もしくは「年齢と能力」の両方を基準にするなど、理由はさまざまですが、会社が自由に決めることができます。その決める際の判断基準のひとつが、前回にご説明した従業員を序列する「ギャップ分析」です。ギャップ分析は、個人の能力だけを見て順位付けをしました。順位と賃金が比例しているなら、基本給は「能力に対する手当」と判断できます。しかし、そうはならないケースが多いのが実情です。理由はさまざまですが、中途採用者の賃金を決める際に「前職と同額の賃金で採用した」といった原因で、イレギュラーが発生していることが考えられます。
ここでは「基本給を能力給とするか」、もしくは「基本給は年齢給とし、能力給は手当で支給するか」を決定します。
ちなみに、私はいつも基本給を能力給とすることをおすすめしています。本来、賃金は「仕事に対する成果」として支給するものと考えているからです。これまでのように年齢や勤続年数だけで賃金が上昇する仕組みは、終身雇用を前提としないこれからの時代に合いません。
「等級」を設定する
次に、「等級」を設定します。等級とは能力に応じたグループのことです。名称はなんでも構いません。例えば、「グレード」や「ランク」、「レベル」などでもよいでしょう。もちろん「等級」のままでも結構です。私は等級をよく相撲に例えます。相撲には「番付」があります。それは、横綱を頂点として大関、関脇、小結、前頭などさまざまです。すべての関取に番付がついています。この番付を頭に思い浮かべてみてください。横綱は大関よりも強いという称号ですよね。また、横綱であれば、前頭と同じような成績を出す関取は認められません。これがポイントです。横綱には横綱の能力、大関には大関の能力と、称号によって分けられています。
これは、企業の等級そのものです。同じような能力の従業員を等級でまとめられています。まさに、その能力のレベルに応じて2等級、1等級と序列する企業のようです。
また、「横綱と大関では格が違う」という表現をよく耳にします。横綱と大関を企業の等級で例えるなら、「2等級と1等級は格が違う」と表現できます。そうした意味から、等級が上になることを「昇格」といいます。
従業員の順位付けをして上から順に並べてみてください。すると、明らかに能力差が認められるところがあるので、そこに線を引きましょう。線を引いたところが、等級の違いとなります。
例えば、上位から3等級、2等級、1等級という具合です。わかりやすく分けるなら、3等級が管理職、2等級が中堅社員(役職者含む)、1等級が一般社員となります。基本的にはこの3等級に分けられれば十分です。
等級の幅を設定する
そして、等級の賃金に「上限と下限」を設定します。こうすることで、等級が上昇しなければ、賃金はある一定の水準以上はあがらなくなります。また、等級が下降すれば、賃金も下がるという仕組みになります。これは、いつまでも同じグレードで滞留すると、いずれは賃金が頭打ちになるということと、さぼっていると賃金が下がることを意味します。こうすることで、やる気のある従業員はさらに上を目指そうとモチベーションを高め、昇格に意味を感じるようになります。
例えば、Aは「3等級の賃金だが、3等級にするにはどうも……」と思う場合、格という意味からも明らかに3等級以下であれば、2等級に降格することになります。
等級設定の注意点
7~9等級ぐらいまで設定されている等級制度もよく見かけます。そこで、経営者の方に「7等級と8等級の違いはなんですか?」と質問させていただくと、あまり明確な答えが返ってくることはありません。また、9等級分を設定していても、ある等級には従業員がいないといったケースもあります。最初は、少ない等級で運用することをおすすめします。「こんなに少ない等級では、一番上の等級まで登れたあとは、どうすればよいですか?」という質問を受けるかもしれません。しかし、実際に必要になったら時点で等級を増やせば良いのです。
実在しない夢のような等級を作っても、現実に即しません。また、そうそう簡単に上位等級まで上昇することもありません。等級を分ける明確な理由がないなら、分けなくても良いのです。
真田直和
真田直和社会保険労務士事務所 代表
https://www.nsanada-sr.jp/