企業においても、メンタルヘルスへの対策は手詰まりを起こしており、後手に回った対症療法に終始せざるを得ないのが実情であろう。本稿では、筆者の知見にもとづいたストレス耐性を強化するためのヒントを綴ってみたい。
ストレス耐性を強化には、できることから始めてみよう
ここでは、ストレス耐性を強化するための6つのヒントを紹介しよう。(1)「失敗する」を恐れない
人間の脳は、「失敗」を繰り返すことで進化するといわれている。特に、若いときに失敗を経験することは人生の宝となる。この時期の脳は、情報の吸収力に優れ、それを使って先達の過去の経験パターンを繰り返し学習する役割を担っている。そして、30代半ばまでに失敗を繰り返すことで、ひとりの人間としてのセンスが磨かれていく。従って、人間力を育むためにも「失敗」はポジティブに捉えるべきである。
若者が「失敗」することは、古の時代から「若気の至り」ともいわれ、社会的に許容されてきた。しかし、学校教育の影響が一番大きいのだろうが、昨今は「失敗」=「敗者」とのレッテルが幅を利かせ、失敗から学ぶことの意義が忘れ去られてしまったようである。多くの若者が「失敗」を恐れず物事に取り組み、多くの寛容な大人が若者の「失敗から学ぶ経験」を後押しする社会を取り戻したいものだ。
(2)「嫌われる」を納得する
自己の言動が他人に影響を及ぼすことは論を待たない。そして、他人は自己のバイアスの範囲内でしか受けとめることができない。その中で、「嫌われる」という状況や感覚も生まれてくる。しかし、「これは人間の性(さが)であるから致し方ない」と思う感性が大切だ。自己の言動に正当性がある限り、他人がどう受けとめるかを必要以上に恐れる必要はない。
また、受けとめる側も、自己に否定的な言動をありがたく受容する度量が必要だ。これが人間を大きくする。発信する側は嫌われることを厭わず、受信する側は意見してくれることに感謝する。相互の気持が人間関係をスムーズに導くだろう。
(3)他人より上位に立ったような感覚を養う
さまざまな意味での勉強(「経験」と言い換えてもいいかもしれないが)、これに努力している人は強い。言葉としては不適切だが、「他人を上から見る」感覚に到達できるだろう。いわゆる「怖いものなし」の境地でもある。
人前で話をするときを想像すれば分かりやすい。聴衆が自分より目上であったり、スキルが高いと思っていたりすると、きわめて話しづらい。何事においても、自分が優っていると思えるからこそ自信をもって話せるのである。これは、個人対個人の場合も通用することであるから、常に勉強(経験)することを怠らず、意欲も失わないようにしたい。
(4)自己肯定感を高める
自己肯定感とは、「自分を信じることができる」、「どんな自分も受け入れることができる」という意味の、自信をもっている状態のことをいう。自己肯定感を高めるには、ポジティブメッセージを与えてくれる人と接する、他人の思いよりも「自分はどうしたいか? どう思うか?」を意識して生活する、何事においても達成感を味わう、といったことを意識的におこなうことが大切である。
(5)スケープゴートにされない
職場内でスケープゴートにされてしまう人は、総じてメンタル疾患予備軍になりがちである。この立ち位置を脱しなければならない。性格によっては二の足を踏む人もいるかもしれないが、恐れずに頑張ってみよう。
また、以下の3つを実践すると、攻撃してきた相手は怯む。
I)反撃する姿勢を見せる(相手に歯向かう態度をとる)
II)相手から目を逸らさない(先に目を逸らした方が負けとなる)
III)(謝りながらでも)後退しないで一歩前に出る
なぜなら相手にとって想定外の言動だからである。生物は予想外の反応に出くわすと生理的に恐怖感を覚える習性をもっている。これを逆手にとるわけだ。人は攻撃されると(パーソナルスペースを侵されると)、本能的に後ろに下がってしまう性質があるから、それを転換すればスケープゴート化されることはなくなる。
(6)人間としての存在を大げさに考えない
この世に生を受け、さまざまな人間関係の中で日々生活しているのが人間である。一人ひとりの存在価値は大切であるし、どんな人でも生きることに意味があって、精一杯生きている。リスペクトすべき存在である。ただ、その存在も雄大な大自然や果てしない宇宙に比べれば無力でちっぽけな存在でもあると感じられる。時にはこういったことも想起して、人間の存在を、あえて矮小化してみよう。そして、日々の仕事や人間関係に疲れたら、田舎に行って清涼感に満ちた空気を吸いながら、漆黒の闇の中で大空を見上げよう。星屑のファンタジーに癒されること請け合いである。
大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP