「同一労働同一賃金」とは
日本版「同一労働同一賃金」に関して、考え方としては、以下の3点ように整理できます。(1)同一企業内でのいわゆる正社員(以下、この文書では「正社員」と表現)とそれ以外の社員(パートタイム雇用・有期雇用・派遣労働者など。以下、この文書では「非正規社員」と表現)との間での不合理な待遇差の禁止
・職務内容(業務の内容そのものと責任の程度)と配置の変更の範囲が同じであれば、職務関連の待遇(手当)については均等に扱わなければならない。
・職務内容(業務の内容そのものと責任の程度)と配置の変更の範囲、その他の事情に照らして違いがあれば、職務関連の待遇(手当)については、均等(違いに応じて)に扱わなければならない。
・職務内容(業務の内容そのものと責任の程度)と配置の変更の範囲と関係のない福利厚生等については、なぜそのような制度を設けているかを明確にし、不合理とまではいえないという待遇差にしなければならない。
(2)待遇差について企業には説明責任があることを明確化
・非正規社員は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について説明を求めることが可能である。
※説明を求めたことによる不利益扱いは禁止
・事業主は、待遇差について、雇い入れ時と非正規雇用の社員から求めがあった場合には、説明をしなければならない。
(3)行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
・行政は、事業主に対し報告徴収・助言・指導等ができることが明記された。
・行政ADR(裁判外紛争)ができることの根拠規定が整備された。
※均衡待遇や待遇差の内容・理由に関する説明についても行政ADRの対象
「不合理な待遇差」の解消に必要なこと
上記を踏まえ、「不合理な待遇差」に対応しなかった場合、もしくは対応が不十分として行政ADRや裁判になった場合のリスクを考えた上で、非正規社員への待遇をどの程度にしていくかを決めていかなければなりません。仮に、今まで不支給であった手当について検討した結果、不合理な待遇差として争いになった場合、企業が受ける未払賃金請求と、それにともなう利息を含めた損害額が企業の存続にも影響するような額になるようであれば、リスクを軽減できるような対応策が必須となります(2020年1月時点で、4月1日以降は賃金債権の請求は3年に改正されることがほぼ確定しています)。
裁判では、企業から社員への説明は十分だったか、労使での協議も十分になされたかどうかが判決に大きく影響してきたことは、過去の判例が示しています。
「不合理な待遇差」の禁止は、「合理的な待遇差」を認めることとイコールではありません。より多くの社員が納得できる(許容できる)範囲の差であり、企業が丁寧に社員に説明し、労使で協議し就業規則等を変更することがリスク軽減につながると考えられます。
いずれにしろ、この問題には正解はありません。裁判も答えなき事項に対して何かしらの判断を下すために実態を調査し、できるだけ納得(許容)できる落としどころを探ることになります。その際、「同一労働同一賃金」への対応という側面からだけではなく、将来的に会社としてどのように人材活用をしていくのかというビジョンから検討してはいかがでしょうか。
非正規社員のモチベーションを高めるために待遇改善を推進する、あるいは多様な正社員制度(地域限定正社員・短時間正社員・職種限定正社員)を導入して非正規社員からの転換をはかり正社員に登用していくことにより、労働力人口の減少による人材難への対応も可能になるのではないでしょうか。
北條孝枝
株式会社ブレインコンサルティングオフィス
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