総務省が行った「令和4年就業構造基本調査」では、直近1年間に介護等のために離職した人の数が約11万人となり、2017(平成29)年に行った前回の調査より約1万人増加した。今後高齢化が進んでいくことを考えると、介護等による離職率は上がっていくことが予想できる。2025(令和7)年の「育児・介護休業法」の改正では、介護離職防止のための“仕事と介護の両立支援制度の強化”等の措置が盛り込まれており、企業には介護支援の対応が求められる。今回は法改正の内容と対応について確認してみたい。

2025年4月改正「育児・介護休業法」から“介護関係の4項目”を解説。両立支援で介護離職を防止せよ

「介護両立支援制度の説明義務化」と「説明が必要となるタイミング」について

2025年4月1日から施行される介護関連の改正は4つある。仕事と介護の両立支援制度を十分活用できないまま介護離職に至ることを防止するため、“仕事と介護の両立支援制度の個別周知と意向確認”により効果的な周知が図られるとともに、“両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備”を行うことが改正の趣旨である。改正の内容をそれぞれ確認していきたい。

●改正1:介護離職防止のための個別の周知・意向確認

介護離職防止のため、次の2つのタイミングで、事業主は介護休業制度等に関する事項を個別周知・意向確認等しなければならない。

(A)介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認
「介護に直面した旨の申出をした労働者」に対して、以下の事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行わなければならない。

●周知事項
(1)介護休業に関する制度、介護両立支援制度(※)等の内容
※介護両立支援制度:介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮等
(2)介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など)
(3)介護休業給付金に関すること

●個別周知・意向確認の方法
(1)面談、(2)個別周知・意向確認 書面交付、(3)FAX、(4)電子メール等のいずれか
※(1)はオンライン面談も可能。(3)(4)は労働者が希望した場合のみ


(B)介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供
労働者が介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を深めるため、事業主は介護休業制度等に関する事項について情報提供しなければならない。情報提供期間及び方法は以下のとおりであるが、「情報提供事項」は(A)の「周知事項」と同じである。

●情報提供期間
(1)労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)
(2)労働者が40歳に達した日の翌日(誕生日)から1年間のいずれか

●情報提供の方法
(1)面談、(2)書面交付、(3)FAX、(4)電子メール等のいずれか
※(1)はオンライン面談も可能


個別の周知と意向確認は、介護休業申出や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるようにすることが目的なので、取得や利用を控えさせるようなことは行ってはならない。

何れのときも提供の方法は4通りある。円滑な措置の実施のためには、情報提供の資料を作成し用意しておくと、漏れなく制度の周知・情報提供ができるといえる。自社で周知・情報提供事項を網羅した資料を作成するのは大変かと思うが、厚生労働省は様式例やリーフレットも公開している。参考にして案内資料を用意しておきたい。

なお、(A)の周知・意向確認について、FAX・電子メール等の手段は労働者が希望した場合のみであるが、(B)の提供においては、人数が多い場合は電子メール等での一斉送信でも可能である。情報提供する月等を定めるなど工夫をして漏れなく実施したい。

その他の「介護離職防止」のための措置について

●改正2:介護離職防止のための雇用環境整備

介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下の(1)~(4)のいずれかの措置を講じなければならない。

(1)介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
(2)介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
(3)自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
(4)自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知


(1)~(4)のうち複数の措置を講ずることが望ましいとされているが、企業においては今後「介護離職防止のための個別の周知・意向確認」において介護休業制度等の周知担当者や申出先を設置することが必要なことから、(2)の相談窓口を併設することや、担当者や管理職へ(1)の研修を実施することも考えられる。

●改正3:介護休暇を取得できる労働者の要件緩和

労使協定を締結している場合、「(1)週の所定労働日数が2日以下」、「(2)継続雇用期間6ヵ月未満」の場合は、介護休暇の対象から除外することができたが、今後「(2)継続雇用期間6ヵ月未満」の労働者を除外することはできず、これにより、継続して雇用された期間にかかわらず、介護休暇を利用できるようになる。労使協定を締結している場合は、労使協定や就業規則等の見直しが必要であるので対応しておこう。

●改正4:介護のためのテレワーク導入

要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずるよう努めないといけない。テレワークが可能かは職種にもよるかと思うが、介護をしながら勤務を継続することができれば、離職防止につながる。

なお、介護の際は勤務時間中に病院の付き添い等、対応せざるを得ない時間が発生することが多いため、あわせて中抜け時間の取り扱いや管理方法、フレックスタイム制導入も検討すると良いかもしれない。

「介護のためのテレワーク導入」は努力義務ということではあるが、自社で導入が可能であればぜひ検討をしておきたい。なお、導入する場合は、就業規則の見直しが必要だ。



今回は介護の改正内容と実務的な対応について解説したが、育児関連の改正もあるため、あわせて確認して頂き、問題なく対応できるように準備を進めておこう。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!