2025年4月から順次施行される「改正育児介護休業法」は、今後の日本の労働環境に変革をもたらすような政策・法令の流れを示すものだと言えます。少子高齢化や働き方の多様化など、日本社会が直面する課題に対応するための重要な一歩だと思われ、また人的資本経営との繋がりにおいて捉えることが重要である法令だと言えます。
2025年4月改正「育児介護休業法」の対応を、人的資本経営に基づく戦略策定の視点から考える

育児と介護、双方について改正が実施される

改正の主な内容は、「育児に関する柔軟な働き方を実現するための措置」、「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮」、「介護に関する制度の拡充」です。

具体的には、3歳以上小学校就学前までの子を持つ従業員に対し、「短時間勤務制度」や「始業時刻等の変更」、「テレワーク」などから2つ以上の選択肢を提供することが企業に義務付けられます。また、妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、「仕事と育児の両立」に関する従業員の個別の事情や希望を聴取し、それに基づいた配慮を行うことが求められるようになります。

さらに、「男性の育児休業取得率の公表」が義務付けられる企業の範囲が、従業員1,000人超から300人超に拡大されます。これにより、より多くの企業で男性の育児参加が促進されることが期待されます。介護に関しても、個別の周知と意向確認等の新しい義務が定められることになりました。

●育児関連の法改正の要約

2025年 10月1日施行
【柔軟な働き方を実現するための措置】

3歳以上小学校就学前までの育児を行う従業員に、「始業時刻等変更」・「テレワーク」・「保育施設の設置運営等」・「新たな休暇の付与」・「短時間勤務制度等」から2つ以上を選択して措置する制度ができ、さらに選択した措置についての周知と意向確認を行うことが義務化されます
【意向聴取・配慮等】
2022年改正の個別の制度周知だけでなく、本人および配偶者の妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に「個別の意向聴取」と「配慮の義務」が課せられます

2025年 4月1日施行
・所定外労働の制限(残業免除)の権利が小学校就学前までの子に延長、子の看護休暇が小学校3年生修了時までに延長され、入学式等も含む範囲に拡大
・3歳に満たない子を養育する労働者へのテレワークが努力義務化
・男性育休の公表義務が「300人超」の企業に拡大、「次世代法」に育児関連の数値把握等が追加

●介護関連の法改正の要約

2025年 4月1日施行

・介護に関しても、「個別の周知」と「意向確認」、「40歳等での介護両立支援制度等に関する情報提供の義務」、雇用環境の整備として「相談窓口等の設置や研修等」が義務化されます。

人的資本経営の重要性と基本概念

「改正育児介護休業法」への対応を考える上で、人的資本経営の視点が不可欠です。人的資本経営とは、現代の企業の人事の重要な事項を人的資本として捉え、経営戦略と繋がった人材戦略を構築して実施する手法のことです。この考え方は、「個人の成長」と「企業の成長」を両立させることを目指しています。
人的資本経営の考え方
人材の現状把握では、従業員の働き方に関する状況、エンゲージメント、人材育成と人事制度など、図の中にあるような事実を把握します。その上で価値創造ストーリー(※)を策定します。策定する際は、企業の長期的な経営戦略と人材戦略を連携させます。KPIの設定は価値創造ストーリーで定めた重要な事項について、継続的に測定と改善を行うことを予期して行い、人的資本経営の取り組みを行うこととなります。

※価値創造ストーリー:企業における「人によって創出される価値」を言葉や図などで言語化すること。一般的に「価値創造ストーリー」と呼ばれます。人的資本経営において根本的なものであり、人材戦略の前提にあるべきものとして非常に重要です。

こうした人的資本経営の中でも、特に重要度が高いテーマが「育児関係の支援」や「女性活躍支援を含むダイバーシティの推進」です。これは多様な背景を持つ従業員が活躍できる環境を整備することであり、現在の人材戦略の中で企業規模問わず重要なものです。

「改正育児介護休業法」の対応において人的資本経営の視野を持つ必要性とは

以上をもとに考えますと、特に2025年10月に施行される「育児介護休業法」の改正は、ダイバーシティ関連施策について、戦略的な対応を求められる度合いが高いと言えるでしょう。

今回の改正により、育児関連の雇用制度が本質的な部分で変わり、企業が従業員に対して行うべき雇用上の義務や姿勢が一歩深まることになると言えます。これまでは育児関連の制度において企業が行うべきこととしては、「休業の付与」と、専ら休業取得について伝達できていない状態を避けるための、出産・育児期の従業員に対しての「制度の周知義務」や「取得に関する聴取義務」が中心でした。休業以外の働き方の部分では、「残業の禁止」や「子の看護休暇の取得」等、労働時間に関する育児期の労働者の権利については複数のものが定められていましたが、あくまで休暇や労働時間などの調整が主でした。

しかし、新たな制度では、子の小学校就学前までの期間について、対象となる従業員一人ひとりの柔軟な働き方を検討し、実現するための配慮義務や措置の義務が定められ、一歩進んだ働き方の部分にまで、育児との両立を積極的に図っていくような企業の義務が創設されたものと言えます。
厚生労働省リーフレット「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 及び 次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要(令和6年法律第42号、令和6年5月31日公布)」を元に著者が一部加工編集

厚生労働省リーフレット「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 及び 次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要(令和6年法律第42号、令和6年5月31日公布)」を元に著者が一部加工編集

こうした制度への対応は、従業員の要望を聞くだけでなく、職場全体のダイバーシティの推進や、従業員のワークライフバランスを向上させるための組織的な分析や方向性の設定が必要となります。そのような戦略の策定を前提として今回の法改正への対応が行われない場合、場当たり的な対応となり、法令の趣旨の実現できないのではないかと思われます。

具体的には、出産・育児を行う従業員が、育児と仕事を無理なく両立できるように現在の働き方の課題を把握した上で、3歳以降小学校就学前までの選択制措置になるような柔軟な勤務時間の設定・テレワークの導入・育児支援制度の充実などさまざまな選択肢を提供することが必要です。

加えて、「育児休業期間中およびその後のキャリア支援」も重要な課題です。育児休業を取得した従業員が職場に復帰した際に、キャリアアップの機会が損なわれないような従業員のモチベーションの維持や、長期的な雇用の安定を図ることを意図して課題を把握する必要もあるでしょう。

このように、企業が今回の「育児介護休業法」の改正に適切に対応するためには、まず現状の組織の課題を明確に把握し、どのような対策が必要かを具体的に検討することが重要であり、人的資本経営の考え方への理解が必須となるものと言えます。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!