社会保険料には、一般的に「健康保険料」、「介護保険料」、「厚生年金保険料」、「雇用保険料」、「労災保険料」などがあり、給与の重要な計算の一つです。これらは「健康保険法」、「厚生年金保険法」、「雇用保険法」などの法律に基づき、正しく計算しなければなりません。最近では、給与計算システムが普及してまいりましたので、「自動計算されているから間違いない」と思われている給与担当者も多いかと思います。ですが、給与計算システムで誤ったマスター設定をしていると、設定した通り誤った給与計算をしますし、制度を理解していないと間違えてしまいますのでご注意ください。今回は、正しく給与計算するためのポイントについて、ご説明します。
給与にはさまざまな「社会保険料」が。「健康保険料等」と「雇用保険料」の違いと正しい計算方法を解説

「健康保険料」、「介護保険料」、「厚生年金保険料」の計算方法

協会けんぽから、2024(令和6)年度の都道府県単位の健康保険料率が発表されています。健康保険料は都道府県単位によって異なりますのでご注意ください。

一方、介護保険料率は全国一律で、2023(令和5)年度の「1.82%」から0.22%引下げとなり、2024年度は「1.6%」となります。2024年3月分(4月納付分)から適用されています。

健康保険料の額は、次の計算式で求めます。
●健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率
●健康保険料=標準賞与額×健康保険料率

従業員が40歳から64歳までの場合は、健康保険料に上乗せするかたちで介護保険料を支払います。
●介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率
●介護保険料=標準賞与額×介護保険料率

厚生年金保険料の額は、次の計算式で求めます。
●厚生年金保険料=標準報酬月額×厚生年金保険料率
●厚生年金保険料=標準賞与額×厚生年金保険料率

上記で求めた保険料額を、企業と従業員で折半します。

●健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料(以下、健康保険料等)の変更のタイミング

健康保険料等の変更タイミングは「給与の支払日」を基準にして変更を行います。健康保険料等は、健康保険等に加入する従業員ごとに計算して徴収しなければいけませんが、健康保険料等を算出するために必要な「標準報酬月額」の変更のタイミングは5種類と限られており、毎月変動するものではありません。

また、健康保険等は、被保険者の「当月分の給与」から、「前月分の被保険者負担分の保険料」を控除(天引き)することができる、となっています(「健康保険法」第167条、「厚年年金法」第84条)。

(例)当月締/当月支払で3月分から保険料率改定の場合
●締日 :4月10日
●支払日:4月30日

給与の支払日が4月30日のため、4月30日に支払う給与より、新しい健康保険料率等で計算した3月分の保険料を控除します。計算後は、正しく計算されているか『令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)』にて確認しましょう。

(例)末締/翌月支払で3月分から保険料率改定の場合
●締日 :3月31日
●支払日:4月25日

締日が3月31日でも、給与の支払日が4月25日のため、4月25日に支払う給与より、新しい健康保険料率等で計算した3月分の保険料を控除します。計算後は、正しく計算されているか『令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)』にて確認しましょう。

●標準報酬月額

標準報酬月額とは、社会保険料を計算しやすくするために「報酬月額」の区分ごとに設定されている、基準となる金額をいいます。標準報酬月額の決定方法は、下記の5種類です。
●資格取得時決定
●定時決定
●随時改定
●育児休業等を終了したときの改定
●産前産後休業を終了したときの改定

●標準賞与額

標準賞与額とは、賞与にかかる保険料を計算するときの元となる金額で、賞与の支給総額から1,000円未満を切り捨てて算出します。標準賞与の対象となる賞与は、名称に関係なく「従業員に対して労働の対象として支払う年3回以下」のものをいいます。

協会けんぽの健康保険料は、各都道府県により保険料率が異なります。各都道府県の保険料率は、地域の加入者の医療費に基づいて算出されており、都道府県ごとに必要な医療費(支出)が異なるため、保険料率に差が生じます。つまり、疾病予防などの取り組みにより都道府県の医療費が下がれば、その分都道府県の保険料率も下がることになります。

保険料率は毎年度改定され、都道府県によって「引上げ」、「据え置き」、「引下げ」に分かれます。医療費を下げる取り組みが、保険料の負担を左右するのです。

なお、健康保険組合では各組合によって保険料率が定められているため、都道府県単位の保険料率が適用されているのは協会けんぽのみです。下記のサイトより、各都道府県の保険料率を反映した保険料額表が公開されています。

「雇用保険料」の計算方法

厚生労働省から、2024年度の雇用保険料率が発表されています。2022(令和4)年度から2年連続で雇用保険料率が引上げとなっていましたが、2024年度の雇用保険料率は2023年度と同率のため、変更はありません。ただし、毎年、雇用保険料率が変更される可能性のあるタイミングは押さえておきましょう。

今回の記事では、雇用保険料の計算方法について解説します。

雇用保険料の額は、次の計算式で求めます。
●雇用保険料=給与支給額×雇用保険料率(被保険者負担)
●雇用保険料=賞与支給額×雇用保険料率(被保険者負担)

●雇用保険料率の変更のタイミング

雇用保険料は、毎月の給与計算時に、雇用保険に加入する従業員ごとに計算して徴収することになります。雇用保険料率の変更タイミングは「4月1日以降に最初に到来する締日により支給される給与」となり、給与の締日を基準にして変更を行います。給与の締日が雇用保険料率の改定日の前後どちらにあるかにより、雇用保険料率を変更する時期が決まります。

(例)当月締/当月支払の場合
●締日 :4月10日
●支払日:4月30日

賃金締日が4月1日以降のため、4月30日に支払う給与より新しい雇用保険料率で計算します。

(例)末締/翌月支払の場合
●締日 :3月31日
●支払日:4月25日

賃金締日が3月中のため、4月25日に支払う給与は「従前の雇用保険料率」で計算します。そして、5月25日に支払う給与より、新しい雇用保険料率で計算します。

社員が安心して働けるよう適切な計算を

今回は、「健康保険料等」と「雇用保険料」の違いを主にご説明させていただきました。それぞれの制度を知り、社会保険料を正しく計算することは、給与の重要な計算の一つです。「健康保険法」、「厚生年金保険法」、「雇用保険法」などの法律を改めて確認し、遡及して修正することのないよう、また社員の皆様が安心して働くことができるよう、適切に必要な保険に加入し、適切に社会保険料を計算していただければ幸いです。
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