「ステークホルダー」とは、企業に関わるすべての利害関係者のことを言う。「ステークホルダー」はどこからどこまでを指すのか。「ステークホルダー」と連携をとる重要性とは何か。採用や労務を担当する人事担当者もステークホルダーについて理解を深めておく必要がある。本稿では、「ステークホルダー」の意味や言い換え、使い方の他、連携の重要性、関係構築のポイント、企業事例まで詳しく解説していく。
「ステークホルダー」の意味とは? 言い換えの他に連携のコツや事例も解説

「ステークホルダー」の意味

「ステークホルダー(stakeholder)」とは、企業が経営をするうえで、直接・間接的に影響を受けるすべての利害関係者のことを言う。「stake(掛け金)」と「holder(保有者)」からなる言葉で、もともとは「投資者」を指していたと言われ、現在は、その意味が拡大して利害関係者全般を捉えるようになった。

●「ステークホルダー」の言い換え

「ステークホルダー」は、利害関係にある個人や組織を総括して呼ぶ言葉であり、「利害関係者」と言い換えることができる。利害が発生することを前提で語られている文脈では、「関係者」とだけ言い換えるケースもある。

「ステークホルダー」の例

「ステークホルダー」は非常に広範囲を対象とし、業界や業種によってさまざまだ。主な具体例としては以下が挙がる。

・株主、投資家
・顧客、消費者
・取引先
・従業員
・グループ会社
・地域社会
・行政機関
・NPO、NGO法人
・金融機関
・債権者
・報道機関

「ステークホルダー」の分類

「ステークホルダー」は大別すると、「直接的ステークホルダー」と「間接的ステークホルダー」の2種類がある。それぞれを説明していく。

●直接的ステークホルダー

「直接的ステークホルダー」とは、企業活動の内容、範囲・規模に直接的な影響を与え、また活動の結果によって直接利害を被るステークホルダーのことを言う。例えば、企業の業績によって配当金や株価などの利益や損失を受ける株主や投資家、給与の変動を受ける従業員などだ。

直接的ステークホルダーの例
・株主、投資家
・顧客、消費者
・取引先
・従業員
・金融機関
など

●間接的ステークホルダー

「間接的ステークホルダー」とは、企業活動の内容、範囲・規模に直接的に影響を与えず、また活動の結果によって直接影響を受けないが、間接的な利害を被るステークホルダーのことを言う。例えば、経営活動によって雇用拡大や環境被害などの影響を受ける地域社会、税収などで関わりのある行政機関などだ。

間接的ステークホルダーの例
・行政機関
・地域社会
・報道機関
・従業員の家族
など

「ストックホルダー」や「シェアホルダー」との違い

「ステークホルダー」と類似した言葉に、「ストックホルダー(stockholder)」、「シェアホルダー(shareholder)」がある。ストックホルダーとは株を保有している株主のことであり、シェアホルダーとは、株主の中でも議決権を有している大株主のことだ。いずれも株を保有する人たちのことを指す。

つまり、「ステークホルダー」は企業に関わるすべての利害関係者のことを言う広義の言葉であり、「ストックホルダー」と「シェアホルダー」はその一部であると捉えることができる。

●「ステークホルダー型企業」と「ストックホルダー型企業」の違い

「ステークホルダー型企業」とは、企業のステークホルダーすべての利益バランスを考えた経営を行う企業のことだ。例えば、業績が悪化した時には、減給や株主の配当の中止などで乗り切ろうとする。一方で「ストックホルダー型企業」は、株主の利益優先で経営を行う企業のことである。

場面別「ステークホルダー」の使用例と範囲

「ステークホルダー」がどこまでを指すのかは、ケースバイケースであるため、シーンや文脈から読み解く必要がある。ここでは場面別に「ステークホルダー」という言葉の使用例と対象とする範囲を解説していこう。

●株主総会

株主総会などの株主に関する場で用いる「ステークホルダー」は主に株主や投資家を指す。またこの場合、「ストックホルダー」や「シェアホルダー」という言い方をするケースもある。

(例)
・ステークホルダーの理解を得るために、資料を見直す必要がある
・配当中止の理由をステークホルダーに納得してもらう

●経営会議

経営方針や事業戦略について話し合う社内での経営会議の場合、特定の関係者ではなく、利害関係者全般を指して「ステークホルダー」を使うことが多い。ただし、文脈によっては対象を限定している場合もあるため注意が必要だ。例えば、融資に関する議題であれば金融機関を指し、法令や納税に関する議題であれば行政機関を指している可能性がある。

(例)
・ステークホルダーを意識した経営戦略を立てていく
・ステークホルダーとの対話を図り、良好な関係の構築を目指す

部署会議

部署やプロジェクトごとの会議で使われる「ステークホルダー」は、特定の個人や法人を指している場合が多い。例えば、顧客や取引先、消費者、クライアントなどのケースが考えられる。

(例)
・新たな取り組みの情報をステークホルダーへ発信する
・新製品は、従来よりもステークホルダーに配慮したものにした

●会社説明会

会社説明会においては、誰に向けて説明会を実施しているかによって「ステークホルダー」の対象範囲は変わってくる。例えば、施設建設などの際に実施するケースであれば、地域社会や地域住民を指していると捉えられるだろう。

(例)
・工場建設が地域環境に被害をもたらさないことをステークホルダーに理解してもらう
・地域の雇用活性化につながることをステークホルダーにアピールする

「ステークホルダー」が注目される背景

近年、社会全体が企業の在り方を問うようになり、そのなかで「ステークホルダー」との関係性が注目を集めている。ここでは3つの観点で、その背景を説明していく。

●CSRへの関心の高まり

CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、日本語では「企業の社会的責任」と訳す。企業は、自社の利益ばかりを追求するのでなく、社会の一員として社会全体に貢献する責任があるという考え方だ。つまり、企業は人権の尊重や環境の保全、福祉の実現、教育や文化の発展といった公共的な目的に対して取り組んでいくことが重要であるとされているのだ。

近年、世界的にこのCSRへの関心が高まるにつれて、企業の社会性や倫理性を評価する動きが高まっている。そのため企業がステークホルダーと連携し、従業員や投資家、地域社会などの利益まで意識することが求められている。

●SDGsへの取り組み

SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」のことである。貧困や健康、教育、環境劣化といった地球上の経済、社会および環境の課題に対処するために、17の目標と169のターゲットを掲げている。日本企業でもこのSDGsの取り組みが活発化し、取引先や地域社会、地方自治体などの「ステークホルダー」といかに連携し、社会問題や環境問題に向き合っていくかが問われている。

グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が共同で作成したSDGsコンパス(SDGsの企業行動指針)においても、三者以上のステークホルダーが対等な立場で意見交換や報告をすること(マルチステークホルダー・プロセス)が重要視されている。


●ステークホルダー資本主義への転換の広がり

「ステークホルダー資本主義」とは、企業が株主に対してだけでなく、すべてのステークホルダーのために価値を創造し、貢献すべきという考え方だ。2019年8月に米経済団体ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が、「米国の経済界は、すべてのステークホルダーに対して経済的利益をもたらす責任がある」と声明を発表したことを契機に、それまでの株主資本主義からの転換が広がるようになった。

さらに、これを受けて世界経済フォーラム(WEF)が、2019年12月にステークホルダー資本主義の考え方を示した『ダボスマニフェスト2020』を発表し、2020年1月には『ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界』というテーマのもとで年次総会(ダボス会議)を実施し、その指標を示した報告書を公表した。

また2022年1月には岸田文雄首相が、この世界経済フォーラムに出席し、日本が「新しい資本主義」によって世界の流れをリードするとの思いを口にした。こうした流れの中で日本企業もステークホルダーへの関心を強めているのである。

「ステークホルダー」との連携の重要性

次に、ビジネスにおいて「ステークホルダー」との連携がいかに重要であるか。企業への影響について解説しよう。

●持続的成長

「ステークホルダー」を意識し、連携を取ることは企業の持続的成長に不可欠と言える。例えば、顧客や消費者のニーズを分析し、その支持を獲得したり、株主や投資家と信頼関係を築いて資金面の支援を得たりすることで継続的な経営が確保できる。また従業員のエンゲージメントを高めて生産性を最大化することも持続的成長において重要だ。

●リスクマネジメント

リスクマネジメントの観点からも「ステークホルダー」との連携は重要となる。顧客や地域社会、地域住民などと密にコミュニケーションを図ることで、潜在的なリスクを未然に発見し、適切な対応を取ることできるからだ。

●信頼性とブランド力の向上

「ステークホルダー」のニーズや関心にアンテナを張り、その要求に応え続けることで、信頼を獲得することができる。その信頼の積み重ねがブランド力の向上につながり、ひいては市場での優位性を得ることができる。

「ステークホルダー」と良好な関係を築くために知っておくべき用語

「ステークホルダー」と良好な関係を築くために知っておきたい用語として、「ステークホルダーマネジメント」、「ステークホルダーエンゲージメント」、「ステークホルダーマップ」の3つがある。それぞれの概要は以下だ。

●ステークホルダーマネジメント

「ステークホルダーマネジメント」とは、その名の通り、自社のステークホルダーを管理することである。経営活動を進めるうえで、ステークホルダーとそのニーズを把握しておく必要がある。当然ステークホルダーの対象は一人ではなく複数いるため、各者の影響度や考え方を理解するのが大切だ。

例えば新しい事業を開始する際に、否定的な意見を持つステークホルダーがいれば、円滑に進めることができない。そうした事態を避けるために、事前の情報共有やコミュニケーションを通じて納得してもらうなどの対応を取ることが求められる。

ステークホルダーマネジメントの一般的な実施方法は以下のとおり
▼ステークホルダーの特定
事業に関する利害関係者を洗い出す

▼マネジメント計画の策定
どのようなプロセスで進めるかを計画する

▼実行
各ステークホルダーと適切なコミュニケーションを取る

▼管理・監視
進捗状況の管理とステークホルダーの反応を分析する

●ステークホルダーエンゲージメント

「ステークホルダーエンゲージメント」とは、企業がステークホルダーの意見や関心事を、社内の意思決定や事業のプロセスに取り入れて企業価値を高めようとする取り組みのことだ。あるいは、ステークホルダーから企業への信頼度や評価の指標を指す言葉である。

例えば、以下のような取り組みがある。
・株主:株主総会、IR説明会、統合報告書の発行、情報開示、社内見学会の実施
・顧客:サービス情報の提供、満足度調査、サポート窓口の設置、セミナーの開催
・地域社会:地域貢献活動、意見交換会や交流会の実施、環境監視
・従業員:意識調査、社内報、相談窓口の設置、労使協議会、経営陣との面談
・取引先:調達方針説明会、情報交換会、貢献度の表彰
・メディア:マスコミ向け決算説明会、WEBでの情報開示

ステークホルダーマップ

「ステークホルダーマップ」とは、ステークホルダーとの関係性を図式化したものだ。ステークホルダーマネジメントの一環とも言え、企業とステークホルダーの相関関係を可視化できる。社内で共有して意思決定の場で活用したり、ステークホルダーと対話を図るうえでのつながりを理解したりするのに役立つ。
ステークホルダーマップの例

ステークホルダーマップの例

「ステークホルダー」との関係構築のポイント

企業経営において「ステークホルダー」と良好な関係を構築することは不可欠である。では、そのためのポイントを紹介していく。

●特定のステークホルダーのみに偏らない

ある特定のステークホルダーのみを配慮し、その他のステークホルダーとの関係を疎かにしてしまえば、企業が信頼度を失っていくだろう。株主や投資家、消費者などの直接的ステークホルダーだけでなく、地域社会や行政機関などの間接的ステークホルダーなど、全方位的にアンテナを張り、配慮していく必要がある。そのためには積極的に接する機会を増やしていくことが肝となる。

●ステークホルダーへの企業方針を明文化して社内で共有する

企業が各ステークホルダーをどれだけ理解し、どのように対応していくのかを把握しておくことは、良好な関係を構築するうえで非常に大切だ。そのため、社内でステークホルダーへの関わり方を明文化し、社内で共有しておくと良いだろう。

●定期的に対話の機会を作る

人と人が良好な関係を築くには、互いの意思を明確に伝え合うことがなによりも重要だ。そのためステークホルダーに対しても、一方的な情報開示だけでなく、双方向のコミュニケーションを取ることで信頼を獲得することができる。定期的にステークホルダーと対話する機会を作り、その意見に耳を傾け、相互理解を深めていきたい。

「ステークホルダー」への取り組み事例

実際に企業は「ステークホルダー」に対してどんな取り組みを行い、価値向上を目指しているのか。具体例を見ていこう。

●スバル(SUBARU)

「存在感と魅力ある企業」を目指すスバルは、すべてのステークホルダーからの信頼獲得や継続的な社会の発展への貢献を図っている。特に重点を置いているのが、ステークホルダーとの情報交換や対話の場だ。「お客様」、「地域社会」、「株主・投資家様」、「お取引先様」、「従業員」、「NGO・NPO」、「行政」、「金融機関」、「メディア」、「教育・研究機関」という10のステークホルダーに対してコミュニケーション方法を明確にし、積極的な関わり合いを持っている。例えば、地域社会に対して実施する安全教室や交通指導による啓発活動、株主や教育・研究機関に対して開催する工場視察会・見学会などだ。そうした交流会やイベントを通してステークホルダーの意見や要望を経営へと反映している。
スバルのステークホルダー関連性

引用:スバル「ステークホルダー・エンゲージメント」

スバルのステークホルダーとのコミュニケーション方法

引用:スバル「ステークホルダー・エンゲージメント」

●中外製薬

中外製薬は、患者を中心としながらも、それぞれのステークホルダーと価値を共有しながら、「高度で持続可能な医療の実現」を目指している。患者に対して高い薬剤効果や安全性、一人ひとりの特性や価値観に合った治療の提供するのはもちろん、例えば地域社会に対して、その土地に即した地域医療の充実を図り、国に対して医療財政の改善に寄与するなど、製薬・医療の面での貢献を進めている。
中外製薬のステークホルダーと共有する価値

引用:中外製薬:ステークホルダーと共有する価値

まとめ

近年、企業のグローバル化やCSRの広がり、ESGやコーポレートガバナンス、リスクマネジメントへの関心の高まりなどによって、ステークホルダーの対象はますます拡大している。SDGsの観点で見た時には地球規模での人類まで含まれることさえある。つまり企業を経営するうえで配慮すべき対象がどんどん増加しているということだ。だからこそ、ステークホルダーへの理解を深め、その関わり方を把握しておく必要がある。人事としては、ステークホルダーマップの作成や従業員というステークホルダーへの価値創造などで経営をサポートしていきたい。

よくある質問

●「ステークホルダー」の例は?

「ステークホルダー」は非常に広範囲を対象とし、業界や業種によってさまざま。主な例として
・株主、投資家
・顧客、消費者
・取引先
・従業員
・グループ会社
・地域社会
・行政機関
・NPO、NGO法人
・金融機関
・債権者
・報道機関
などが挙がる。

●「ステークホルダー」との連携はなぜ重要か?

「ステークホルダー」と良好な関係を築き、連携を図ることは企業経営において非常に重要だ。顧客や消費者の支持を獲得したり、株主から資金面の支援を得たりすることで持続的成長を確保でき、地域社会との協力によってリスクを未然に発見することができる。またステークホルダーのニーズに応えることで、信頼性とブランド力の向上にもつながる。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!