資本主義の未来が不透明なものとなった今、世界的に注目されているのが「パーパス経営」だ。パーパスとは一般的に、企業の「存在意義」と訳されるが、一橋大学ビジネススクール 客員教授/京都先端科学大学 教授の名和 高司氏は、パーパスを「志」と読み替え、資本主義の先にあるのは、志を基軸とする「志本主義」というモデルであると説く。本講演では、パーパス経営が注目されている背景や、パーパス経営の先進事例、そしてパーパス経営を実践する上での主要な課題と有効な打ち手といった、パーパス経営を長期的な企業価値向上につなげるヒントを名和氏に解説いただいた。
「パーパス経営」の実践法や企業事例5社を解説。「志本主義」と「新SDGs」を軸とする30年先を見据えた経営戦略とは
名和 高司 氏
講師:

一橋大学ビジネススクール 客員教授/京都先端科学大学 教授 名和 高司 氏

東京大学法学部、ハーバード・ビジネス・スクール卒業(ベーカースカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼーで約20年間勤務。自動車・製造業プラクティスのアジア地区ヘッド、デジタル分野の日本支社ヘッドなどを歴任。デンソー(~2019年まで)、ファーストリテイリング、味の素、SOMPOホールディングス(いずれも現在も)などの社外取締役、朝日新聞社の監査役、ボストン・コンサルティング・グループ(~2016年まで)、アクセンチュア、インターブランド(いずれも現在も)などのシニアアドバイザーを兼任。2014年より、「CSVフォーラム」を主催。『パーパス経営』、『経営変革大全』、『全社変革の教科書』。『CS経営戦略』、『稲盛と永守』、『シュンペーター』など著書多数。
国立大学法人 一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻

「パーパス」を起点とする「新たなSDGs」が30年後の経営を支える

今日は、「パーパス経営」について3つのお話をさせていただきます。まず、なぜ今「パーパス経営」が大事なのか、についてです。20世紀には、「ミッション(使命)」・「ビジョン(構想)」・「バリュー(理念)」という言葉をよく使っていました。それが、21世紀になって、「パーパス(志)」・「ドリーム(夢)」・「ビリーフ(信念)」という言葉に変わってきていると思っています。「ミッション」などは、外部から与えられたものです。それに対して、「パーパス」は自分の内側から湧き上がってくるもの。志に基づく内発的なものであるという点が大きな違いです。

現在の環境は、以前よりさらにSDGsを意識しなくてはいけない状況となっています。SDGsは、2030年までに答えを出さなければいけない大きな社会課題です。それは重要なことですが、2030年でSDGsに関する活動が終わるわけではなく、むしろ、今から30年ぐらい先となる2050年を見通して、そこに向けて新しいSDGsが必要になるというのが私の考えです。

Sは「サステナビリティ」ですが、今のSDGsの17の目標は「規定演技」であり、「自由演技」となる18番目の目標を打ち出すことが大事になってきます。それからDは、「デジタル」と読み替えています。サステナビリティに本気で取り組もうとすると、どうしても先行投資が必要ですので、利益を毀損してしまうことになります。従って、イノベーションを埋め込まないと上手くいきません。その1つのキーツールとして、デジタルがあります。D(デジタル)を駆使してX(トランスフォーメーション)することが大事になってきます。デジタルによる業務や経営の変革は、サステナビリティと対をなすことであり、この2つがないと未来は作れません。Gは「グローバルズ」と読み替えています。複数形にしているのは、世界が今、新型コロナウイルスや米中貿易摩擦、ウクライナ侵攻などで分断されているからです。そこをもう1回、再結合させる必要があります。これらの真ん中にあるのが、「志(パーパス)」であり、それを起点にSとDとGが回って、2050年以降、21世紀の後半を作っていくと捉えています。
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