日本では、大地震をはじめ、集中豪雨や大型台風など、自然災害が多く発生しています。特に東日本大震災を機に、災害時の対応について改めて考えた方も多いと思います。個人の備えだけでなく、自社の備えを見直した企業も少なくないのではないでしょうか。本来は「BCP(事業継続計画)」を策定し、自然災害に限らず様々なリスクを洗い出し、それに基づいた取り組みを行うべきですが、今回は“すぐにでも取り入れられる備え”を紹介します。
「災害時の備え」で従業員の安全確保と事業継続を。BCPを策定しなくてもできる対策とは

企業が災害に備える意義

まず初めに、企業が災害時の備えをしておく意義を2つ紹介します。

1つ目は、「安全配慮義務」を果たすためです。企業には、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮が法律上求められています(「労働契約法」第5条)。

2つ目は、事業継続のためです。突然の災害に備えていなければ、事業の継続が難しくなることが想定されます。早期復旧ができなければ、事業縮小による従業員の解雇や取引先との契約解除、廃業に追い込まれるおそれもあるわけです。

逆に言えば、災害時の備えをしておくことで、従業員の雇用確保、顧客や取引先の信頼維持、場合によっては地域貢献にも繋がります。災害時の備えと対応により、企業価値の維持や向上も期待できます。

企業が災害時に備えておくべき物事

災害時の備蓄の準備

勤務時間に災害が発生した場合、従業員を帰宅させると帰宅中に二次被害に遭ったり、帰宅困難者を発生させることにもなりかねません。東日本大震災時には帰宅困難者が大きな問題となり、その後、各自治体で「帰宅困難者対策条例」が制定されました。検索すると多くの自治体でヒットするので、企業所在地の条例もぜひ1度確認してみてください。

さて、従業員の安全を考えた結果、社内に留まらせる場合に必要なのが、様々な備蓄品です。『東京都帰宅困難者対策ハンドブック』では、従業員が施設内に留まれるよう、3日分の水や食料の備蓄を推奨しています。また、外部帰宅困難者(来社中の顧客や周囲の帰宅困難者)のために、従業員分+10%程度多めに用意しておいた方が安心とのことです。

飲食物だけでなく、非常用トイレ(トイレットペーパーや生理用品等含む)、毛布などの寝具、懐中電灯、簡易救急セット(市販薬や消毒液等)などは常備したいところです。なお、社内備蓄とは別に、福利厚生として1人1つ防災グッズの入ったポーチやバッグを配布する企業事例もあります。

安否確認方法の確立と訓練

従業員の安全確認や、事業継続のために、災害時の安否確認は不可欠です。そのため、災害時に全従業員の安否確認をどのように行うか、平時に確立しておきましょう。

災害時は電話回線が利用しにくくなることも多く、スマートフォン(スマホ)の充電ができない可能性もありますから、電話による確認は推奨しません。メール、チャット、外部の専用システム等、様々な方法がありますが、原則はいつどこからでも回答できるよう、スマホを利用した手段を選びます。

安否確認の方法と同時に決めたいのが、「何を報告してもらうのか」、「どの規模の災害で安否確認をするのか」、「確認結果を誰にどう連携するのか」です。

このあたりの運用は、訓練をしながら改善していくのでも問題ありません。そういった意味でも、訓練は定期的に実施しましょう。通常のケースだけでなく、様々なトラブルを想定した訓練も有効です。例えば、「総務部長が全従業員に一斉にメールを送ることで安否確認を行う」場合、「総務部長が被災し行動できないことを想定した訓練」を実施する、などです。

施設・設備の点検と情報の周知

災害時の避難の妨げや、オフィス内の落下物等による被害を防ぐために、日々の点検も重要です。段ボールが積み上がっていたり、大きな備品が固定されていない等、オフィス内に危険な場所はないでしょうか。東日本大震災のとき、東京でも揺れに合わせてコピー機が縦横無尽に動き、危ない思いをしたとの事例もあります。避難経路が物で塞がれていると、オフィスから出ることもできなくなります。

また、避難経路・避難場所を従業員に周知することも大切です。2022年の三幸製菓の工場火災では、消防庁が最終報告書の中で「避難経路周知不足」を指摘しています。避難訓練の実施や、定期的な研修、オフィスのよく見える場所への掲示等、誰かの指示を待たずとも各々が避難経路・避難場所を把握できる仕組みを作りましょう。

どこでも仕事ができる環境の整備

勤務場所に被害がある、荒天時、交通手段が断たれている、等の理由で従業員が出社できない場合でも、可能な範囲で業務が継続できる環境を整備しておくことも重要です。

どのような状況でも出社させると、場合によっては安全配慮義務違反になることもあります。テレワーク環境の整備、ペーパーレス化を進めておくことは、「働き方改革」だけでなく、災害時の備えにもなるのです。まさに、コロナ禍でこれを実感した企業も多かったのではないでしょうか。



いずれの備えも、担当者の入退社や異動も考慮し、定期的に周知・訓練を行いましょう。本来は「BCP(事業継続計画)」に基づいて行うべきと考えますが、今回は単体でもできる備えを紹介しました。今だからこそ、改めて災害時の備えを考えたいものです。
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