「好影響を与える人材」は職場を前向きに変える
必ずしも高度なビジネススキルや専門知識を具備しているわけではないものの、職場環境に好ましい影響を与えている社員は存在する。「職場環境に好影響を与える人材」が在籍する組織は、総じて雰囲気が明るく、協力的で、前向きな空気感が充満している。そのような組織は、業務に対するメンバーのモチベーションや心理的安全性が上昇する傾向にある。その結果、組織業績が高まりやすいという特徴があるようだ。一方、誰もが認める高いビジネススキルと専門知識を持ち合わせているのにもかかわらず、職場環境に好ましくない影響を及ぼしてしまう社員も存在しがちだ。「職場環境に悪影響を及ぼす人材」が在籍する組織は、雰囲気が暗く、非協力的で、後ろ向きの空気が漂いがちである。そして、そのような組織のメンバーには「勤怠がルーズ」、「指示がなければ動かない」、「権利ばかりを主張し、義務を果たさない」などのマイナス事象も現れやすい。社員の心理的安全性も低下しがちのようだ。
『適切な挨拶』が「好影響を与える人材」をつくる
それでは、若手社員を「職場環境に好影響を与える人材」に育成するにはどうしたらよいだろうか。最も効果的な方法のひとつは『適切な挨拶』の仕方を教育し、励行させることである。例えば以下の5つの条件を満たすのが『適切な挨拶』と考える。●相手の目を見て、笑顔で挨拶をする
●相手に聞こえる声の大きさで言葉を発する
●言葉を省略せず、適切な挨拶の言葉を使用する
●自ら先に挨拶をする
●誰に対しても、どのような場面でも同じように挨拶をする
仮に朝の出勤時であれば、誰に対しても相手の目を見ながら笑顔で、相手に聞こえるように「おはようございます!」と先に言うことが『適切な挨拶』の仕方といえる。
「何だ。そんなことか」と思われた読者の方は、自身の職場で日々交わされるさまざまな挨拶が、下記の『不適切な挨拶の例』に当てはまっていないかを振り返ってみてほしい。ひとつでも該当する項目があれば、残念ながら『適切な挨拶』が十分にできている職場とは言い難いことになる。
●声が小さく、挨拶の言葉がよく聞き取れない
●相手と目を合わせず、別の場所を見ながら言葉を発している
●笑顔がなく、真顔で挨拶をしている
●「おはようございます」を「ざーっす」などと言葉を変えている
●仲の良い社員にはフレンドリーに挨拶をするがその他の社員への挨拶はおざなりになるなど、相手に挨拶の仕方を変えている
●自分よりも上位者には挨拶をするが、下位者には挨拶をしない
●先に挨拶をしてきた相手には挨拶を返すが、挨拶をしてこない相手には自分から挨拶はしない
●相手が挨拶をしても、挨拶を返さないことがある
皆さんの職場でも、少なからず当てはまる社員がいるのではないだろうか。
協力的な雰囲気が“好ましい行動”を誘発する
不思議なもので、職場内に『適切な挨拶』を励行する人材が増えると、自ずと職場の雰囲気は明るく、協力的になるものである。その結果、組織風土が前向きに変わり始め、社員一人ひとりの挨拶以外の行動にも変化が見られるようになる。例えば、自分の仕事が終わればさっさと退社していた社員が、「何かお手伝いしましょうか」と声を掛けるような行動が見られたりするのだ。業務報告を怠りがちだった部下の報告・連絡・相談の頻度が増えるケースもある。いつも突然休暇を申し出ていた社員が、日にちに余裕をもって休暇日の打診をしてくる、といったこともあるだろう。このように多くの組織メンバーが、指示をされなくても自ら“好ましい行動”を起こす傾向こそ、組織活動における『適切な挨拶』の効果であり、『適切な挨拶』を身に付けた人材が「職場環境に好影響を与える人材」と呼ばれる所以である。従って、若年社員にはぜひ、前述の『適切な挨拶の5条件』を教育すべきといえよう。
上司・先輩社員の挨拶行動も見直しを
『適切な挨拶』を行い始めた若年社員が、時の経過とともにその挨拶を辞めてしまうことがある。このような現象は、『適切な挨拶』から乖離した組織文化が強く根付いている職場で見られがちだ。不適切な挨拶が染み付いたベテラン社員が多数在籍する職場などでは、若年社員が教育内容に沿った行動を継続するのは容易ではない。従って、若年社員に『適切な挨拶』を教育する際には、同時に既存社員の挨拶行動も見直すことが必須である。若年社員への指導を契機に、職場の一人ひとりが『適切な挨拶』に取り組む職場づくりを目指すとよいだろう。人と人との関係性は、所属集団の基本的性格を構築する。そのため、 個々人の関係性が挨拶行動によって良化されれば、集団に内在する風土・文化も良化することになるのだ。「あのリーダーの下で育った社員は、皆、職場に好ましい影響を与えている」。そのようにいわれる組織リーダーになりたいものである。
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