不祥事発生後のマスコミ対応は経営者・リーダーの務め
企業を経営していると、意図せずトラブルに見舞われることがある。自社が不祥事を犯してしまうことも、残念ながら「ない」とは言えない。そのような危機発生時に必要な企業行動のひとつが、「経営者がマスコミの取材に応じる」、「組織リーダーが記者会見を開く」といった広報活動である。ところが、「危機発生時のメディア対応」ほど難易度の高い広報活動はない。マスコミによって報じられる経営者の一挙一動が、当該企業およびその不祥事等に対する社会的評価に多大な影響を及ぼすためである。もし対応を誤れば、社会的制裁の対象となり、経営の継続が不可能になるケースさえ存在するのだ。従って、トラブル発生時のメディア対応をいかに円滑に行うかは、極めて重要な経営課題と言える。
トラブルや不祥事について企業が公式な説明を行う場は、極度の緊張状態に包まれている。そのような中でカメラのフラッシュを浴びながら、記者から矢継ぎ早に繰り出される厳しい質問に適切に回答し続けることは、どんなに優秀な経営者・組織リーダーでも容易ではない。そのため、不祥事を発生させた企業の経営者が会見の場で好ましくない言動をとり、事態を悪化させるケースは決して少なくない。
そのような状況に陥ることを回避するため、報道機関からの取材対応を円滑に行うための事前教育の仕組みがある。これが「メディアトレーニング」である。危機発生時の報道対応を事前にシミュレーションするメディアトレーニングは、現代の企業経営に不可欠な教育研修である。
記者会見での経営者の言動が事態の行方を左右する
メディアトレーニングを受けていない経営者・組織リーダーが、不祥事などの記者会見に臨んだ場合、通常は極度の緊張状態から次のような事態に陥りがちである。●自社に都合の悪い事実には言及しない
●責任転嫁と取られかねない発言をする
また、会見の最中には次のような態度を見せやすい。
●反省をしていないと解釈されかねない態度をとる
●記者の質問に不満げな表情を見せる
会見に臨む経営者本人に全く他意はなかったとしても、極度の緊張状態の中、回答に窮する質問を続けざまに浴びせられた場合、上記のような言動・態度をとってしまうのが人間である。その結果、過度に自社の印象を悪化させ、収拾がつかなくなるケースは少なくない。従って、事前に同様の状況を模擬的に設定し、困難な状況の中でも自分を見失わずに適切な言動がとれるよう、メディアトレーニングを実施する必要があるのである。
しかしながら、メディアトレーニングは自社内で行うことが非常に難しい教育研修だ。なぜなら、仮にメディアトレーニングを自社の広報部門や総務部門で内製化しても、記者役の社員が自社の社長に厳しい質問を浴びせ掛け続けることは困難だからである。また、そのような状況を許容できる経営者もなかなかいない。
従って、メディアトレーニングの実施にあたっては、広報代理店やPR代理店などの外部専門家の協力を仰ぐのが賢明である。費用を掛けてでも、それだけの価値と効果のある教育プログラムと言えよう。
“恣意的報道”への危惧から企業の危機対応は一層困難に
昨今、企業が不祥事を発生させた際のメディア対応は、以前にも増して難易度が高い。企業不祥事に対する大手メディアの姿勢が、恣意的報道に傾斜するケースがあるためである。記者会見の場でメディアが繰り出す質問の中には、真実を報道するために必要なものだけでなく、「経営者に失言をさせること」、「組織リーダーに失態を演じさせること」を狙った“挑発的な質問”や“揚げ足取り行為”も少なくない。このようなメディアの言動に経営者が憤慨し、怒りに任せて対応をしようものなら、その部分だけが都合よく切り取られ、テレビや新聞で毎日のように繰り返し報道されることになる。その結果、当該企業や経営者の本来の姿とは必ずしも一致しない「メディアによって創作された虚像」が世間で一般化し、事態は一層悪化するわけである。
現在のわが国の社会情勢では、メディア報道に起因するマイナスの影響を挽回することは非常に困難である。だからこそ、経営者や組織リーダーに対するメディアトレーニングは、以前にも増して重要となっている。
「不祥事は絶対に発生しない」と確約できる組織は、残念ながら存在しない。従って、メディアトレーニングは早急に取り組むべき経営者教育・リーダー教育と言えよう。
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