中でも苦労されているのが、部下の「やる気」、「モチベーション」、「コミットメント」についてのマネジメントです。ポスト・コロナ後も、「テレワーク、ハイブリッドワークが定着していく」と言われる中で、企業の幹部各位にはどのように部下マネジメントに取り組んでもらい、部下たちのやる気やコミットメントを上げていけばよいのでしょうか。
今回は、「自己肯定感」および「自己効力感」に着目し、部下の精神面に関する、効果的なマネジメントについて考えていきます。
「自己肯定感」と「自己効力感」。その“意味合い”と“違い”とは
最近、「自己肯定感」という言葉をよく耳にするようになっていませんか? これは仕事のみならず、コロナ禍で生まれた社会的な不透明感・不安心理を要因として出てきたトレンドかなと思います。「モチベーション」や「コミットメント」を継続的、安定的に高めるための下地作りとして、部下の「自己肯定感」と「自己効力感」の2つを高めてあげることは非常に大事です。
これらは似たような二つの言葉ですが、「自己肯定感」は「これでよい(このままでよい)」と思える気持ち、「自己効力感」は「できる」と思える気持ちです。
学術的には、「自己肯定感」は「セルフ・エスティーム(自尊感情)」の研究で知られるモーリス・ローゼンバーグの定義から、「自分のありのままを肯定的・好意的に認め、自分の価値を信じること」と定義されます。対して「自己効力感」は、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「(何かの)課題に対して実行できると感じること」と定義されています。
「自己肯定感」が高ければ、ありのままの自分を肯定的に見ることができますので、「自分の強み」を“強み”として認識し、同時に「自分の弱み」や「苦手なこと」についてもしっかり受け止めることができます。
一方で「自己効力感」が高ければ、「自分ならできる」という意識を持ち、たとえハードルが高い業務であっても「やってみよう」という姿勢になります。
例えば社長のあなたが、あるいは幹部の方々が、社員に未経験の事業や業務を命じたときに、「大丈夫、できる!」と思うのが“自己効力感の高い人”で、「成功しようが失敗しようが、自分は自分」と思うのが“自己肯定感の高い人”ですね。
「自己肯定感」、「自己効力感」の高めるのは“心理的安全性”と“成功体験”
では、「自己肯定感」と「自己効力感」は、それぞれどのようにすれば高めることができるのでしょうか。まず「自己肯定感」を高めるには、「心理的安全性の確保」がなにより重要です。
よって、「部下の自己肯定感を高める組織」とは、お互いがお互いの存在や役割を認め合っていて、仲間意識があり、当人が「自分はこのチームにいていいんだ」と常に思えている組織です。
そのため、社員から見て“上司”である社長や幹部の皆さんには、「部下たちを心から認め、期待・信頼できているか」という点について、ぜひ改めて確認いただきたいと思います。また、昨今の風潮ではとかく「若手から敬遠されている」という話になりがちですが、チームでの懇親の場やレクリエーションなどは「部下たちの自己肯定感を高める」という観点では、その価値を見直す必要があると思います。
一方、「自己効力感」は、「①直接の成功体験」、「②代理体験」、「③言葉による説得」、「④情緒的な喚起」の4つの要因によって高められるとされています(心理学者・バンデューラ)。
よって、「部下の自己効力感を高める組織」とは、各人にチャレンジできる機会が提供されており、大きな成果だけでなく、そのプロセスにおけるステップごとの“小さな成功体験”をしっかり自覚できる組織であり、また周囲からも取り組みを励まされ、成果に称賛が与えられる組織です。
面白いのは、「体験の達成感」とはあくまでも「主観的なもの」だということ。つまり、当人が「うまくいった」と思う体験が大事なのです。社長や幹部からみれば、「部下の取り組みはまだまだだなぁ」と思うことも少なくないでしょう。しかし、「部下の自己効力感を高める」という観点からすれば、「よくやった」と言うべきなのです。
逆に、仮に周囲から見てどんなに順調に進んでいても、本人が満足できなければ、それは「うまくいかなかった」体験になってしまい、自己効力感はその分落ちてしまう可能性があります。
当人が精一杯頑張った取り組みが、社長や幹部の皆さんから見て、「成功とは言えないな」というときには、「その頑張り自体のプロセスは今後につながる良い体験であった」という「成功意識」をしっかり持たせてあげることが大事でしょう。
「自己肯定感」が高く、「自己効力感」が低い部下の落とし穴
「自己肯定感」と「自己効力感」のどちらも高い部下は、自分をしっかり持っており、自信を持って行動し、失敗を過度に恐れることがない人です。当然のことながら、「自己肯定感」と「自己効力感」の双方が高い人は、“将来有望”と見られやすいですし、実際にそうであるケースが多いでしょう。
新卒採用で体育会出身の学生が好まれるのは、在学中に体育会系の厳しい部活動を頑張り、「苦しい練習を乗り越えた」、「試合に勝った」などという達成体験や、部の仲間たちと励まし合いながら努力するといった経験を経て、「自己肯定感」と「自己効力感」の双方を高めていることが多いからです。
ここで少し留意したいのが、「自己肯定感」が高くて「自己効力感」が低い部下です。
このタイプは、「できない自分」を分かったうえで、そんな自分を認めており、自分の存在には価値があると思っています。しかし、体験に基づく自信がないため、上司に指示されてもよほどの必要に迫られなければ「やらないでおこう」と考えるのです。
「それでもいいのだ」と言われてしまっては、会社としても困りますし、当人にとっても決して良いことではありません。本人との話し合いで目標を具体的に決め、しっかり完遂することを求めましょう。「できませんでした」で済まさせない上司の関与が、本人の将来を救います。
このように、ときに部下の「自己肯定感」の高さは、「現状に甘んじる」、「目標を追わない」といった心理にも通じるため要注意です。そして、社長や幹部の皆さんの立場からすると、部下の「自己効力感」を重視したいところです。(ちなみに「自己肯定感」が低く「自己効力感」が高いということは、基本的にはありませんので割愛します。「自己肯定感」も「自己効力感」も低い人は……まずは少しずつでも成功体験を積ませてあげてください。)
「自己効力感の高め方」は先にご紹介した通りですが、「自己効力感」の問題点は、「自己肯定感」に比べると短期で大きく下がってしまうことがあるということです。
「自己効力感」は、自らの失敗体験や厳しい状況を目の当たりにすることで下がっていきます。「自分の行動が失敗だった」と思ったり、評価が悪かったことで自信を失ったりするケースですね。
大前提として、部下たちの「自己肯定感」と「自己効力感」が高いことは、日々の業務に意欲的、かつ積極的に取り組むための原動力となります。
ただし、あえて言えば、この2つはあくまでも「当人がそう思っている」という心理状態であり、実際の行動結果とは必ずしも連動しているわけではない(「本人が『やれる』と思っていても、実際にはできない」など)ということには、くれぐれも留意して仕事を任せていきましょう。
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