時代が大きく変わりゆく中、多くの企業は組織変革・組織開発の重要性を認識している。だが、腰が重い企業もあれば、「色々試してみたが、結局組織は変われなかった」「やるだけ無駄だ」と諦めている企業もある。そうした中、リーマンショックを機に組織変革の舵を思いっきり切り、今なお組織開発をアップデートし続ける会社がある。それが、自動車用検査整備機器の製造販売を主軸に事業を展開する創業106年の安全自動車株式会社だ。今回、老舗メーカーがチャレンジした組織開発の取り組み「キャリアヒアリング」「より良くフォーラム」を中心に、取り組みのきっかけや具体的な内容のほか、社員の変化や組織面での成果などを、同社 取締役副社長 管理本部長 中谷 象平氏と人事グループ 主任 佐藤 理子氏に伺った。


プロフィール

  • 中谷 象平 氏

    中谷 象平 氏

    安全自動車株式会社
    取締役副社長 管理本部長

    1993年大学卒業後、安全自動車入社。営業、経理を担当し、1999年取締役、2001年管理本部長に就任。当時社内には無かった採用プロセスを構築。その他、各種研修プログラムの企画運営、人事制度改革を担当。2年に一度、全国の拠点を巡り全社員へインタビューを行う「キャリアヒアリング」を実施するなど、社員との対話を重視した組織づくりに取り組んでいる。2018年より現職。

  • 佐藤 理子 氏

    佐藤 理子 氏

    安全自動車株式会社
    人事グループ 主任

    大学卒業後、株式会社りそな銀行に入行。銀行員として働く中で、働く人のメンタルヘルスに興味を持ち、大正大学大学院に入学。臨床心理学を学ぶ中で、予防的な観点から働く人の健康に貢献したいと感じるようになり、2018年より安全自動車株式会社にて、人事(採用・研修・組織開発)としてのキャリアをスタート。現在はキャリアヒアリングやより良くフォーラムadvancedプログラム、より良くフォーラムラーニングジャーニーなどの運営を行っている。

創業106年老舗メーカーがチャレンジする組織開発の数々――アップデートし続けるからこそお客様との出会いにも活きてくる

リーマンショックを機に加速した組織変革の第一歩「キャリアヒアリング」

――貴社では2010年を境に、組織変革の取り組みを推進されています。そのなかで、まずスタートしたのが、「キャリアヒアリング」です。こちらは、どのような背景のもと始まったのでしょうか。

中谷氏:
まずは、私たちの会社について簡単に説明いたしますと、創業は1918年。100年余もの歴史があります。自動車用検査整備機器の製造及び販売を手掛け、社員数は410名。規模感から言ってまさに、「ザ・中小企業」といった会社です。組織変革の取り組みを推進するきっかけになったのは、2008年に起きたリーマンショックでした。折しも、当社にとっては90周年という節目を迎えたタイミングだったのですが、社内外が不況の影響でかなり社員が疲弊していました。そんな状況ゆえに、社員のみんなは特に何に不安を感じているのかしっかりキャッチアップしなければいけないと思ったんです。というのも私自身、役員に就任して現場を離れて10年ほどが経っていたので、社内における不安や不満のポイントが肌感覚で掴めなくなっていました。「これでは、自分の仕事の仕方として良くない」と考え、全社員のみんなに直接ヒアリングしてみることにしたんです。恐らく、私自身が不安だったのかもしれません。それで、2010年に「キャリアヒアリング」という名称の取り組みを初めて実施しました。
創業106年老舗メーカーがチャレンジする組織開発の数々――アップデートし続けるからこそお客様との出会いにも活きてくる
――そのようなきっかけで「キャリアヒアリング」がスタートしましたが、具体的な取り組み内容について教えてください。

中谷氏:
「キャリアヒアリング」は、全社員を対象として2年に1回実施している取り組みです。ヒアリング項目は20問で、仕事面だけでなくプライベート面まで幅広く聴いています。ヒアリング時間は、一人30~40分程度。聞いた内容を「GOOD」「MORE」「EMERGENCY」の3段階にヒアリング担当者である人事が分けていきます。その内容をもとに部門のリーダーに向けて、組織としてのトピックをフィードバックしていきます。これを全部門で繰り返し、データをまとめて共有するというのが基本的な取り組みの流れです。第1回が2010年にスタートし、2024年に第7回を迎えました。当初は、私がヒアリングしていましたが、2020年の第5回から人事総務のメンバーに引き継いでいます。

――全社員を対象ということで、最初はかなり大変だったのではないでしょうか。

中谷氏:
大変でしたが、みんなの話を聞けたのはすごく有意義でした。世間では、「果たして社員が役員に対して本音を語ってくれるのか」という指摘もあるかもしれませんが、しっかりと向き合えば話をしてくれます。実際、今の自分の不安や悩み、もしくは怒りに近い不満をさらけ出してくれました。それらの声を集約すると1000以上もの項目となりました。それを見て明らかに言えるのは、社員のみんなは会社を好きだということです。だからこそ、「どうにかしてほしい」と思っているし、「自分の成長と会社の成長が一緒になれば」と社員は願っているわけです。「これは、彼らのためにも何とかしなくてはいけない」と考えました。まさにみんなからタスキを受け取った感覚です。

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