例:「目先の売上獲得」ばかりを指示するリーダー
まず具体例を交え、考えてみよう。「とにかく、どんな小さな売上でもいいから、1件でも多く取って来い!」
しかしながら、いくら営業活動に注力しても、売上の十分な回復には結び付かない。そこで、ある若手営業社員がリーダーに対して次のように進言した。
「単に現状の営業活動を継続して売上を集めるのではなく、お客様への付加価値を高められるように営業方針を見直してはどうでしょうか?」
この若手社員に対し、リーダーは次のように答えた。
「営業方針を見直して売上が上がる保証がどこにあるんだ。そんなことをしている暇があったら、とにかく当面の売上を増やせ!」
これは、実際に某企業(以下、A社)の営業部門で交わされたリーダーと部下との会話である。
「緊急度」と「重要度」による業務の分類
企業が行なうべき多数の業務には、「緊急度」と「重要度」という2つの指標を用いて、次の4種類に整理をすることができる。(1)「緊急度」「重要度」がともに高い業務
(2)「緊急度」は低く、「重要度」は高い業務
(3)「緊急度」は高く、「重要度」は低い業務
(4)「緊急度」「重要度」がともに低い業務
これは、アメリカの経営コンサルタントであるスティーブン・R・コヴィー氏が『7つの習慣』という書籍の中で紹介した「時間管理のマトリクス」という概念による分類である。図で見ると、次のとおりである。
しかし、「緊急度」の低い業務の中には「営業方針の見直し」、「商品・サービスの高付加価値化」、「人材教育の強化」、「組織風土の改善」など、企業経営上では「重要度が極めて高い業務」が含まれている場合もある。このような「重要度」の高い業務を、「緊急度」が低いという理由で後回しにした場合、企業の持続的成長は困難になりがちであり、大きな経営トラブルに陥る可能性もあるだろう。
「緊急度は低く、重要度は高い業務」、つまり「緊急性の“低い”重要業務」は、今すぐに取り組まなくても、経営上、すぐに大きな問題が起こるわけではないと考えられやすい。また、仮にすぐ取り組んだとしても、その効果が目に見えて現れるには相応の時間がかかるものである。
そのため前述のA社のように、売上の大幅減少などの憂き目にあってしまった場合には、当面の売上を増やすという「緊急度、重要度がともに高い業務」、つまり「緊急性の“高い”重要業務」に組織内の全リソースを注ぎ込みがちである。その結果、「緊急性の“低い”重要業務」である営業方針の見直しには、なかなか取り組むことができないという状態に陥ってしまうのだ。
「緊急性の低い重要業務」への取り組みが“時間管理の好循環”を生む
企業が持続的成長を実現し、また大きな経営トラブルを回避するためには、いかにして「緊急性の“低い”重要業務」に時間を割くかが重要なポイントとなってくる。その状態になってしまった皆さんに、ぜひ知っていただきたいことがある。それは、「緊急性の“低い”重要業務」に取り組めば取り組むほど、「緊急性の“高い”重要業務」は発生しづらくなるという事実である。
例えば、前述のA社のケースでは「競合他社に大口顧客を奪われてしまったため、同社には当面の売上を増やす」という「緊急性の“高い”重要業務」が発生した。だが、仮に同社が、顧客の付加価値を高められるように営業方針を見直すという「緊急性の“低い”重要業務」に以前から取り組んでいれば、そもそも競合他社に大口顧客を奪われる事態には陥っていなかったかもしれない。そうすれば、当面の売上を増やすという「緊急性の“高い”重要業務」は、発生することがなかったわけだ。
これが「緊急性の“低い”重要業務」に注力するほど「緊急性の“高い”重要業務」が発生しづらくなる仕組みの一例である。もちろん、「緊急性の“低い”重要業務」に取り組んだ効果が発現するには、相応の時間がかかってしまうものだ。しかし、「緊急性の“高い”重要業務」が発生しづらくなった結果、より一層「緊急性の“低い”重要業務」に充てられる時間が増えることになるだろう。つまり、限られた時間をより効果的に活用できるという“時間管理の好循環”を生み出すことが可能になるのだ。
現在、リーダーの立場にある皆さんは、今一度自身が率いる組織で「緊急性の“低い”重要業務」にどの程度取り組めているか、改めて整理してみてはいかがだろうか。
大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net
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