第一の違いは、資本と人材の流入の大規模化である。以前は、海外企業は日本法人設立や日本企業との合弁会社設立によって日本に資本を投入するのが主であり、人材面では、日本に来るのはそのような外資系企業、あるいは合弁企業の駐在員が多かった。そのため、外資系企業は数が少なく、日本企業と対比して特異な存在とみなされていた。
しかし最近では、海外企業が自社の日本法人設立よりも、日本企業を買収することによって日本でのビジネス拠点を作る例が増えており、また、海外ファンドが日本企業を買収することも多い。こうした「一夜明けたら外資系企業になっていた」というような会社では、一人ひとりの社員が、なじみのない文化にさらされ、対応に苦労する場面が多々ある。たとえば、海外本社の人事考課制度が買収先の日本の法人にも導入されると、仕組みがこれまでと全く異なる上、説明文書が英語となってしまう。
また、働き手として日本人以外を積極的に採用する企業が増え、中国やベトナムなど様々な国の人が自分の隣で仕事をしているという例は珍しくなくなった。今や小売業チェーンや外食産業などでは、外国人労働力は必要不可欠である。外国人の日本での就労形態は、海外からの「駐在」から、日本での「雇用」へ中心が移ったといえる。
第二の違いは、国内市場の文化的多様化である。「国内市場では日本人相手に日本語で商売をして、海外に進出するときに、外国の文化と言語への対応を考える」という図式は、もはや過去のものとなった。今では海外からの観光客は国内市場の大切な担い手となっており、商品展開や決済方法や意思疎通手段は、これに応じて考える必要がある。外国人観光客の「日本ではwi-fiが使えず不便だ」という声が、日本の公衆wi-fi網整備を後押ししているのは、この一例である。
働く場としても、日本国内で変化が起きている。上記のように、外国人と共に働く環境が一般化し、労働慣行や人事制度なども、今、働く人の文化的多様性に即したものへと変わろうとしている。海外資本が入っていない会社であっても、異なる文化基盤を持つ社員が共に働くことを前提とした人事制度が求められている。
第三の違いは、インターネット普及による「情報」と「モノ」の流通の、ボーダーレス化と高速化である。インターネット環境のもとでは、自分が手にする情報がどこの国から来たものなのかは、さほど重要ではない。SNS利用者は、サーバーがどこにあるかを気にも留めない。これはモノについても同様で、日本の通販サイトで注文した品物が海外の出店業者から自宅に届くのは、今ではごく普通である。海外(たとえば韓国)のお気に入りサイトで洋服を買うユーザーは、国を越えた注文にも支払にも受取にも、まったく不自由を感じない。
我々が身を置くビジネスの場でも、地理的に遠く離れ、異なる文化を持つ人同士が、飛行機に乗る必要もなく、メールやウェブ会議システムで、すぐに接触する場面が増えている。しかし、こうして異文化と接触する機会が増えたからこそ、多くの誤解やあつれきが生まれ、障害となるリスクもまた増大している点を見逃がしてはならない。今後このコラムでは、企業活動でのさまざまな異文化接触について述べながら、その問題点を指摘し、解決の方策を提示していく。次回は、複数の文化間の差異を理解し、認識するための枠組みとして、「カルチャー・マップ」について説明したい。
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